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January 13 2016 By 向 風見也

東海大・藤田貴大、帝京大のV7阻止に挑む。日本代表リーチ マイケルも認めた「本気」とは。

東海大・藤田貴大、帝京大のV7阻止に挑む。日本代表リーチ マイケルも認めた「本気」とは。

クラブのブレザーを着て、ネクタイを締め、東京都府中市の工場地帯へ赴く。合同練習などで何度か来たことがあるから、門の先にラグビー場があるのは知っていた。

グラウンド脇のベンチで待つ。ヘッドコーチの冨岡鉄平がやって来るや、すっと立ち上がり、両手で握手を求める。「お、頑張ってね」と声をかけられ、指定の場所で着替えを済ませる。

2015年2月某日、東海大学の3年生だった藤田貴大は、全国的な強豪である東芝のトレーニングに参加した。明文化はされていないが、事実上のトライアウトだった。

体をぶつけ合うフランカーというポジションを務める藤田は、身長175センチ、体重96キロ。一線級にあっては大柄とは言えなかった。本人やチームの採用担当である猪口拓の強い要望で練習参加を受け入れた冨岡だが、正直、採用するつもりはなかった。すでに同じポジションで有望な若手を大量採用していたうえ、強いフィジカルを看板とする東芝では、小さなフランカーに出番はないと踏んでいた。まさか自分が約2時間後に翻意するなど、想像すらできなかった。

東海大学の木村季由監督は、トライアウトに挑む藤田に「人生がかかっているんだから、本気で行け」と伝えた。激しいタックルを伴わない実戦形式のセッションでも、持ち味の低さと鋭さを発揮しろ、という意味だ。真面目で明るい人間性を買った猪口も同じように言い、現地では、あの名士も「本気でやって、いいよ」と告げた。東海大学OBで日本代表主将の、リーチ マイケルである。

条件は、揃った。日本選手権2回戦を間近に控えていた主力組の足元へ、切れ長の瞳の大学生は刺さりまくった。「これはそういう練習じゃないぞ」とコーチに言われ、また、地を這った。顔に傷を作っても、逆上した外国人選手に掴み上げられても、「本気」を貫いた。藤田が混ぜてもらった控えチームの若手は、一様に「ナイスタックル!」と叫んだ。

翌年度から監督となる冨岡は、入社試験合格を条件に「採る!」と決めた。約7カ月後にワールドカップイングランド大会でスター選手となるリーチは、この時ちょうどクラブハウスで取材を受けていた。問わず語りでこぼすのだった。

「さっき、皆でシャワー浴びながら喋っていたんですけど…。藤田、凄かった。必要ですよ。ああいう人が」

東海大―流通経大 後半、突進する東海大・藤田=秩父宮

東海大―流通経大 後半、突進する東海大・藤田=秩父宮

 

年が明けて2016年1月11日、東京は秩父宮ラグビー場である。大学選手権決勝戦があった。6連覇中の帝京大学に相対する東海大学の主将は、藤田だった。

肉体強化への真剣さやレギュラー選手の実績から、王者の壁を超える有力候補と目されてきた。満場一致で船頭を任された藤田は、夏場に個々の練習への意識の違いに悩み、秋口に「試合でチームを第一に考えてプレーするべきか、自分のことだけを考えてプレーするべきか」と戦いざまについて考えをめぐらせ、冬には王者に屈したチームの友人から帝京大学のスカウティングレポートを託され、この日、番狂わせに挑むところだった。

「結論としては、自分のやることに集中すれば、チームのためになる、と」

キックオフ。背番号7の藤田は一気に駆け上がる。相手ランナーのブロディ・マクカランが持つ球へ絡みつく。奪いにかかる。

ジャッカルと呼ばれるこのプレーを、藤田は得意としていた。タックルした後すぐに起き上がれる分、ジャッカルのできる状況に多く出くわせる。続く14分にも、敵陣の相手スクラムからパスが出た先へ飛び掛かり、ジャッカルを見舞った。今度はきちんと球を奪った。

「優勝のことは考えるのですけど、先ばかりを意識して目の前のプレーができなくなっては意味がない。1つひとつのプレーを全力で…という話を前日のミーティングでも、きょうのロッカールームでもしていました」

ゲーム後の会見で明かした思いは、あのトライアウトにも通じる哲学だった。大きな成果を得るために、小さな課題に全力で取り組む。それを貫くのが、「ラグビーは人間性が一番出るスポーツ」と話す、藤田貴大という選手だった。

前半16分、敵陣ゴール前で相手のキックを手ではじく。

前半31分、複数人が塊となるモールで自ら先制点を挙げる。

ハーフタイム、すべきことが徹底できている旨を確認しあった。

後半19分、失点を喫すや円陣を組んで「慌てないで、敵陣へ」と発した。

後半33分、その「敵陣」でスコアにつながる連続攻撃を下支えした。

後半40分頃、自陣中盤右で帝京大学の坂手淳史主将にタックルされる。その向こう側で、味方がビッグゲインからトライを決めた。

ノーサイド。

「前半はよかったんですけども、後半、ミスや反則で自陣に張り付けにされてしまって、帝京さんのメンタリティーの優位性に押された部分もあって…。最後まで自分たちの形を出し切れてトライを取れたのは、来年にもつながる。プラスに考えていきたいと思います。ありがとうございました」

17-27。黒星を喫した。点を取った直後の連携にかすかな乱れがあり、その刹那、王者は集中していたという。「ラグビーは人間性が一番出るスポーツ」と、ここでも漏らした。

勝敗の行方とは別な観点が、スポーツにはある。

木村監督は「器用でもないし、足も速くないし、背も高くない。でも、ウェートトレーニングは課されたものにプラスアルファして、手を抜かずにやる。食堂でも最後までご飯を食べている」と悔し泣きする教え子を称え、見事に7連覇を達成した坂手は「高校日本代表でも一緒でした。あの時はリーダーではなかったですが、最初からチームのために本気で発言していました」と好敵手を語る。この先の上司となるかもしれない冨岡は「フィジカルは鍛えられている。ウチに入りたいという思いがある。入れるデメリットは見当たらなかった」と未来を期待していた。

賢者は皆、知っていた。勝敗とは無関係な藤田の良さは、勝つためにこそ必要なのだと。

人に押し付けるのでもなく、悲壮感を表すのでもなく、口笛を吹く調子で背番号7は話す。「ラグビーは人間性が一番出るスポーツ」だと。

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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