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January 21 2016 By 向 風見也

日本代表になるはずだった? ヒーナン ダニエルがトップリーグ3連覇に挑む。

大きな点差の背景には、小さな隙間でのつば競り合いがある。

2016年1月16日、東京は秩父宮ラグビー場だ。国内最高峰トップリーグのプレーオフは準決勝を迎え、前半16分頃、青いジャージィのパナソニックが敵陣中盤左でラインアウトを得る。劉永男が跳び上がり、タッチライン際から放たれたボールをキャッチ。着地するや周りの大男たちと塊を作った。皆で密着して相手を押し込む、モールというシーンが始まる。

赤いジャージィの神戸製鋼は、アンドリース・ベッカーが対抗する。いまは亡きプロレスラーのジャイアント馬場さんより1センチ低いだけの208センチという、32歳の南アフリカ代表経験者。パナソニック側から見て左側から、長い腕をねじ込みにかかる。

選手同士の密着する度合いが、モール成否の鍵を握る。ここでは前進を防ぎたい神戸製鋼が、体重は121キロの力自慢に青い塊の決壊を任せたのだ。ベッカー、いったんは相手に亀裂を入れかける。

話はそう簡単に、終わらない。パナソニックにはヒーナン ダニエルがいた。ベッカーより少しだけ小さい196センチ、111キロの34歳で、来日9年目。顔は俳優のキアヌ・リーブスに似ていなくもない。オーストラリアはブリスベーンのジャガイモ農家に生まれ育ち、仲間からは芋を意味する「スパット」の愛称で呼ばれている。

「僕らとコミュニケーションを取ろうとしていて、僕らと一緒に頑張る気持ちでいてくれているんじゃないでしょうか」とは、27歳のチームメイトでフルバックの笹倉誉康だ。芝がほぼ死滅した地面の上。友情を礎とするヒーナンがモールの中でひと仕事をする。腰を落とし、背骨を伸ばし、ベッカーの右わき腹へ食い込んでゆく。

赤の背番号7を青の背番号5が制するなか、パナソニックのモールはじりじりと動き出す。ベッカーら神戸製鋼の選手たちは、パナソニックのモールの後方、さらに右側面あたりへと、どんどん押し出される格好となった。

ぶつかり合いの最前線へ横入りしたように映る選手は、オフサイドの反則を取られる。この前半17分、パナソニックはペナルティーキックを獲得する。スタンドオフのヘイデンパーカーがゴールを決め、スコアを6-0と広げた。

結局、パナソニックは42-10と大勝する。繊細な加点の積み重ねによって、3連覇への挑戦権をつかんだ。

ヒーナンも自陣での密集で相手の持つボールに絡みつくなど、ロックのポジションでは必須の押し合いへし合いを全うした。身長166センチの体でも大男へひるまず突っ込むスクラムハーフの田中史朗には、こう感謝された。

「誰が相手でも、一緒のパフォーマンスをしてくれる。凄いですね」

 

ラグビートップリーグ  NTTコミュニケーションズ―パナソニック 後半、突進するパナソニックのヒーナン(右から2人目)=熊谷ラグビー場

ラグビートップリーグ  NTTコミュニケーションズ―パナソニック 後半、突進するパナソニックのヒーナン(右から2人目)=熊谷ラグビー場

6歳から楕円球に親しみ、母国オーストラリアでは代表入りも経験。しかし、極東の島国でトップリーグ優勝3回、日本選手権優勝4回のタイトルを獲得するなか、ある決断をする。2014年9月、日本国籍を取得。翌年2月、国際サーキットのワールドシリーズ・ラスベガス大会の男子7人制日本代表に参加した。

もともと一国の代表経験者は他国の代表にはなれなかったのだが、当時、国際ラグビーボード(現ワールドラグビー)がその規定を変更。日本国籍を取って7人制のワールドシリーズに4大会以上出場すれば、別の国で代表となった選手もジャパン入りが叶うこととなっていた。ヒーナンをオーストラリア代表に呼んだ監督は、エディー・ジョーンズ。ヒーナンが国籍を変えた折、15人制の日本代表でヘッドコーチを務めていた人物だ。ヒーナンが9、10月のワールドカップイングランド大会出場を目指していたのは、明白だった。

「セブンズ(7人制)代表の中で、彼が一番、勝ちたいという競争心を出していた。コンタクトをしたい、相手を倒したい…と」

策士で鳴らすジョーンズは、当時、言った。

――部下にいたら、心強いですか。

「まぁ、そうですね」

結局、日本代表は過去優勝2回の南アフリカ代表を制して国内にラグビーブームを巻き起こす。しかしその輪の中に、ヒーナンは、いなかった。ワールドシリーズ2大会目の出場となった3月の香港大会で太腿を痛め、戦線離脱を余儀なくされたのだ。

いつも真正面からぶつかってきた。それゆえ、何度も、何度もけがをしてきた。実はパナソニックの本拠地である群馬県太田市のグラウンドでも、練習量をかなり調整している。

「プライド、持ってますよね。自分の価値を、あれで出す…と。練習がたくさんできるわけではない。そのなかでチームに信頼されるには、あれをするしかない、と」

イングランドで日本代表副将を務めたパナソニックの堀江翔太主将が、4学年上の「スパット」への賛辞を送っている。「おじさんなので、体はいたわってほしい」と笑い、「彼自身、プロフェッショナルなので、あれをするのが当たり前なんです」と信頼を示す。

リーダーの語る「あれ」とはもちろん、体を張ることだ。準決勝を済ませた秩父宮の取材エリアにて、ヒーナンその人が「あれ」の実相を明かすのだった。

――モールの際のベッカーへの対抗。見事でした。

「皆がただ立っているのではなく、低く強いボディーポジションで入れました」

24日には、この地で決勝戦に挑む。相手の東芝は、肉弾戦での激しさに矜持を抱く古豪である。職業倫理の順守としてのファイトを重ね、ただただ同僚を褒めるヒーナンも、間違いなくキーマンの1人となろう。

「フミ、ショータなど、日本代表の選手はワールドカップで自信をつけて帰ってきた。彼らはとても素晴らしいゲームをしていました。これからも可能ならばパナソニックを、日本ラグビーを助けていきたい」

ジャパンでは正直な物言いでも通った31歳の田中によれば、「今でも、できるなら日本代表でも…と言っています」。この先、そのヒーナンが日本代表になるかは誰も知らない。ただ、日本ラグビー界を代表する選手の1人であることなら確かである。

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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