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January 28 2016 By 石狩ジュンコ

澤引退に見る日本女子サッカーの変化 宮間あやが与える未来のなでしこたちへの影響とは(前編)

澤引退に見る日本女子サッカーの変化 宮間あやが与える未来のなでしこたちへの影響とは(前編)

劇的な決勝ゴールでリオ五輪出場を決めた男子サッカーU-23代表。彼らに続くべく、女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)も2月29日からリオ五輪出場権をかけたアジア最終予選を戦う。

昨年末に開かれた、なでしこジャパンとして20年以上第一線で活躍し続けてきた澤穂希の引退会見は記憶に新しい。2011年にFIFA女子ワールドカップで優勝し、名実ともに世界のトップクラスとなったなでしこジャパンだが、この澤の引退により、いよいよ本格的な世代交代に入ることになった。澤引退で、女子サッカーはどのように変わるのだろうか。今回は、未来のなでしこを担う高校女子サッカーから考察する。

澤引退会見の数日後に行われた全日本高校女子サッカー選手権

1月3日から10日まで、第24回全日本高等学校女子サッカー選手権大会(以下、選手権)が行われた。男子の歴史ある全国高校サッカー選手権大会と同様、3年生にとっては最後となる大会。なでしこジャパンも多く輩出する静岡県の強豪校である藤枝順心高校が、鹿児島県の神村学園高等部と接戦の末、見事優勝した。

高校サッカー

全試合を放送したTBSテレビでは、各校の注目の選手に密着した模様も放送。地元から上京して父親と離れ、母親と二人暮らしをしながら東京の高校に通う選手や、3年生メンバーの中で自分だけがスタメンになかなか入れない選手、難病にかかったキャプテンに代わって急きょキャプテンマークを巻くことになった選手などを特集した。

事情やバックグラウンドはさまざまではあるが、密着した彼女たちは皆が皆、「支えてくれた家族のために頑張りたい」「たとえ自分が試合に出られなくても、大好きなこのチームのために声を出し続けたい」「今サッカーができない人がいることを一人一人理解しなければいけないし、自分がサッカーをできることに感謝しなければいけない」といった言葉を口にしていたのがとても印象的だった。決して受け売りではない、自分で紡ぎ出したその言葉のひとつひとつからは、置かれている環境や状況、仲間や家族に対して常にリスペクトしている彼女たちの姿勢が強く伝わってきた。

これからは「なでしこジャパン≠澤」の世代に

なでしこジャパン佐々木則夫監督の出身地として、さまざまな「未来のなでしこ」育成に取り組んでいる山形県でサッカー協会女子委員長を務める大沼敏美氏はこの点について、なでしこジャパンキャプテン宮間あやの影響が強いと話す。

宮間2

「サッカーに限らず、今の若い世代はSNSなどの普及でグループから外れることを恐れて周りに同調する傾向が強まっていると言えるかもしれません。しかし、いつも周囲への感謝の言葉や相手への気遣い、個よりもチームを思う気持ちについてコメントしている宮間選手が、若い女子選手へ与えている良い影響は間違いなく大きいと思います」(大沼氏)

15歳で代表入りし、2004年に「なでしこジャパン」と命名され女子サッカーが認知されてきてから、ずっとなでしこジャパンの看板を背負ってきた澤は、圧倒的なリーダーシップと存在感で常にスターで居続けた。「サッカーの神様などいない。頼れるのは自分だけ」「苦しい時は私の背中を見なさい」といった名言だけでなく、2-1で負け越していた2011年ワールドカップ決勝戦で奇跡としか思えない延長戦同点ゴールを決め、PK戦へともつれ込ませて日本を優勝に導いた。名実ともにまさに生きるレジェンドだ。

澤

2012年頃までは、メディアも常に澤だけを取り上げていた。今の20代以上にとってはいまだに「なでしこジャパン、女子サッカー=澤穂希」というイメージが強いだろう。しかし澤の引退により、今の高校生以下の世代はそうではなくなる。

なでしこジャパンを目指す意識は「トップスター」澤穂希から「立役者」宮間あやへ

一方、宮間は澤からキャプテンマークを譲り受けた2012年頃から徐々に注目されるようになった。彼女は、過去に受けたインタビューなどで「代表に入れているのはラッキー」「敵も試合が終わればサッカー仲間。自分たちもそう思ってもらえるようなチームでありたい」と、自然体かつ謙虚な姿勢を見せていることで知られている。2015年ワールドカップ決勝戦でアメリカに大敗した際も、悔しさを滲ませつつ「得られたのは最高の仲間」と、感謝の気持ちを忘れなかった。さらに正確で精度の高いパスでゲームメイクをしたり、澤からも「当てるだけで入る」と言わしめたコーナーキックを蹴ったりと、常に立役者的な立ち位置だ。

宮間3

もちろん、両者ともに仲間を思い相当な努力をして成し得た実績であることは間違いないのだが、こうした違いを見ると、今の若い世代は「澤のようになりたい」よりも「宮間のようになりたい」と思う方が目標として設定がしやすく、澤よりも宮間をよりリアルな存在として憧れるのだろう。チーム内で突出した存在であるスーパースターではなく、周りを気遣い引き立てる謙虚な立役者。看板選手が変わったことで、若い世代におけるサッカーへの思いやなでしこジャパンを目指す意識も変わっている。先の、選手権における未来のなでしこたちの言葉には、そんな背景があるのかもしれない。今後、澤がいないなでしこジャパンを多く目にすることによって、未来のなでしこたちはますますその傾向が強くなっていくだろう。

男子サッカーU-23代表はスター選手がいない中で、総合力でここまで勝ち上がったといわれている。大沼氏も「個人的には失敗を恐れず、時には自分勝手なプレーでもいいと思いますが、JFAの目指す方向性がパスサッカーということもあり、これからは個より組織を重視したサッカーがより主流になっていくでしょう」と語る。宮間の精神性やスタイルに影響を受けた未来のなでしこジャパンが、近い将来世界でどんな活躍をしてくれるのか、注目したい。

All photos by flickr commercial use & mods allowed

(石狩ジュンコ)

石狩ジュンコ

石狩ジュンコ Twitter Blog

フリーライター。89年、山形県生まれ。 女性の生き方、社会問題、カルチャー、インタビュー、翻訳などを執筆中。 好きなものはラジオ、仏教、「スターウォーズ」、「ミナミの帝王」、純喫茶、ブティック。 スポーツ歴は小学校でバスケ、中学校で陸上(中長距離、走り幅跳び)、高校で女子サッカー。

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