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February 05 2016 By 石狩ジュンコ

澤引退に見る日本女子サッカーの変化 女子サッカー世界最強国アメリカにならいたい、選手が家庭と両立してサッカーができるためのサポートとは(後編)

昨年末に引退した澤穂希が、今後の女子サッカーにどのような変化を及ぼすか考察しているコラム。前編では未来のなでしこたちの目指す意識が「トップスター」澤から、「陰の立役者」宮間へと変化している現状を、今年の全日本高校女子サッカー選手権や識者の意見とともに紹介した。後編では、アメリカ代表を例に女子サッカー選手の出産、育児について見ていく。

妊娠&出産後に復帰することが珍しくないアメリカ代表

女子サッカー大国アメリカ。2011年のドイツワールドカップでは決勝で日本に敗れたものの、2015年のカナダワールドカップでは優勝、オリンピックでも過去4大会で優勝し、女子サッカー世界最強国に君臨し続けている。

アメリカ代表金メダル

先日、アメリカ女子サッカー代表のFWシドニー・ルルー(25)が妊娠を発表した。8月に行われるリオ五輪の欠場が濃厚となったが、チームメイトからは祝福の声が溢れた。ちなみに、ルルーはこの妊娠を機に現役引退は表明していない。おそらく来年頃までは出産のこともありサッカーはできないであろうが、29歳となった時に行われる2019年のフランスワールドカップには出場するはずだ。なぜならアメリカでは、女子サッカー選手が妊娠&出産後に復帰するのは珍しいことではないからだ。

昨年のワールドカップ優勝メンバーには3人ものママ選手が

日本がアメリカに4-1という圧倒的なスコアで負けた2015年カナダワールドカップ。優勝トロフィーを掲げた表彰式後には、ピッチで子どもを抱きかかえて喜ぶアメリカの選手たちの姿が見えた。当時の優勝メンバーの中には、3人ものママ選手がいたのだ。

MFシャノン・ボックス(38)は2014年に女の子を出産、FWエイミー・ロドリゲス(28)は2013年に男の子を出産。さらにロドリゲスは先日、第2子の妊娠も発表した。

そして当時最年長だったDFクリスティ・ランポーンは1975年生まれの40歳。唯一の40代選手であったことに加え、優勝時には当時9歳と5歳の2人の娘と笑顔で記念撮影する様子が「最強のサッカーママ」として世界から大きく注目された。

チームでママ選手の育児をサポートするプログラムがある

赤ちゃんとボール

アメリカでは1996年頃、遠征や海外試合に子どもを連れていくことを可能にするプログラム「ナニープログラム」が始まった。子どもがいる選手が遠征に連れてくるベビーシッターの費用をチーム、もしくはスポンサーが負担するというもの。ママ選手が子どもといる時間を増やせるように考えられたシステムである。また、子どもにとってもママの働く姿を見て育つというメリットもある。

選手の子どもたちは代表の遠征に帯同した際、同じホテルに泊まり、練習時にはサッカーコートで遊び、時にはチームやスタッフにオムツ替えをしてもらうこともあるのだそう。他のチームメイトが遠征時に子どもがいることを迷惑に思わないか懸念するかもしれない。だが、昨年現役引退を表明したFWアビー・ワンバックは過去のインタビューで「子どもたちと遊ぶのは楽しい。私はチーム内のベビーシッターではナンバーワンです」と答えている。

皆、チームメイトのライフスタイルをリスペクトしており、その選手や子どもをサポートする気持ちがチーム全体の一体感を生むことにも繋がるのだろう。

サッカー選手としてもママとしても幸せを諦めることがないように

また、このサポート体制の素晴らしい点は、才能のある選手が人生においてサッカーと妊娠や出産の二者択一にならないように考えられていること。サッカーも続けたいし子どもも欲しいという選手は少なくないだろう。彼女たちがどちらの幸せも諦める必要がないようにサポートされているのだ。

 

アメリカサッカー

スポーツ選手でなくとも、すべての女性にとって妊娠、出産を経た後の体力やメンタルのリカバリーは大変なもの。しかし、出産という大変に体力を要する大仕事を果たしたこと、持つべき家族ができることで、その後の競技生活においてどんな苦境でも乗り越えられるという自信につながるはず。

もちろん、周りの人たちの手を借り、折り合いをつけながら子育てと仕事を両立させるというのは、結果が求められるスポーツの世界では並大抵の努力ではないだろう。しかし、こうした環境が、女性ならではの強みを生かすことにつながっていることをアメリカが証明していることは事実だ。

なでしこジャパンには、これまで1人しかママ選手が誕生していない

なでしこジャパンでは、2013年に現役を引退した宮本ともみがママ選手第1号として知られている。2003年までに2度のワールドカップを経験した後、2005年に長男を出産、そして2006年に復帰した。2007年には、日本サッカー協会は宮本のバックアップが今後のママ選手の道を切り開くとして、代表の海外遠征の際に、宮本の母をベビーシッターとして息子と帯同させた。しかし、宮本以降、なでしこジャパンにはママ選手は誕生していない。それどころか、結婚している選手もとても少ない状況だ。

 

なでしこ

澤は引退会見の4カ月前に結婚している。タイミング的には結婚をしたから引退したと思われるが、会見で「まったくそれはないです。結婚していようがいないであろうが、たぶんこの決断には変わりなかったと思います。逆にむしろ主人が支えてくれたので、本当にこの1年頑張れたと思っています」と語った。サッカーを全うしたからこそ結婚したということだろう。

澤は過去のインタビューで「サッカーも家庭も中途半端にできない」と答えている。まっすぐな性格上、どちらも手にするという選択にはいかず、サッカーに集中してきた。でもそれはすべての女子サッカー選手に当てはめられることではなく、澤の場合である。澤のようなやり方、宮本のようなやり方。これからの女子サッカー選手が伸び伸びと自分らしくサッカーを続けていくためには、結婚や妊娠、出産に関して選択肢があることが重要だろう。そのためにはサポートシステムだけでなく、システムを利用しやすい周囲の空気感も必要だ。

結婚、出産、現役復帰という流れがチームや個人の強みとなっているアメリカ代表のように、ママとしても頑張りたい選手がサッカーを諦めることなく活躍できるなでしこジャパンになれば、さらなる高みを目指せるのではないだろうか。各方面で女性の社会進出と子育てが取り沙汰される中、サッカー界においても頑張るママの出現に期待したい。

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(石狩ジュンコ)

石狩ジュンコ

石狩ジュンコ Twitter Blog

フリーライター。89年、山形県生まれ。 女性の生き方、社会問題、カルチャー、インタビュー、翻訳などを執筆中。 好きなものはラジオ、仏教、「スターウォーズ」、「ミナミの帝王」、純喫茶、ブティック。 スポーツ歴は小学校でバスケ、中学校で陸上(中長距離、走り幅跳び)、高校で女子サッカー。

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