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February 24 2016 By 村本浩平

キズナの新たな戦い。偉大すぎる父ディープインパクトにどこまで迫れるか?

サラブレッドのファッションショー、とでも言うのだろうか。

本格的な出産、そして配合シーズンを前に、馬産地として知られる北海道の日高地区、そして胆振地区のスタリオン(種牡馬を繋養する牧場)で行われる種牡馬展示会。関係者の手元には、今年、流行のブランドを紹介する冊子のように、血統、競走成績といった経歴が記されたスタリオンブックが手渡され、その視線の向こうでは種牡馬たちがウォーキングのように、見事な馬体を披露していく。

社台スタリオンステーション

撮影:A-CLIP 浅野 一行 社台スタリオンステーションでは20頭以上の種牡馬が展示された

華やかな「トップモデル」たちの展示会

その中でも、2月9日に開催された社台スタリオンステーションの種牡馬展示会は、会場に足を運ぶ関係者の人数、そしてスポーツ紙や競馬媒体での取り上げ方と、馬産地で最も注目を集める種牡馬展示会と言える。

それは繋養される種牡馬の名前でも証明されている。現役時の自身を彷彿とさせるかのように、毎年のようにGⅠ勝ち馬を送り出すディープインパクト。昨年まで4年連続でのリーディングサイアー(産駒の賞金合計額が最も高い種牡馬)となり、今年の種付け料は3000万円というキャリアハイが設定された。

社台スタリオンステーションには、ディープインパクトの他にも昨年の皐月賞、日本ダービーを制して、今年は凱旋門賞出走も予定されるドゥラメンテの父キングカメハメハやハーツクライ、ダイワメジャーなど、リーディングサイアー上位種牡馬がずらりと居並ぶ。ファッションショーに例えるのなら、「トップモデル」たちが集結している事務所が、この社台スタリオンステーションなのだ。

キズナ

撮影:A-CLIP 浅野 一行 トップバッターで登場。生産者たちの熱い視線を集めるキズナ

名前に込められた思いを背負ってダービー馬に

この錚々たる布陣の中に、今年、5頭の新種牡馬が仲間入りしてきた。その全てがGⅠ馬というバックボーンにも驚かされるが、中でも注目を集めているのがキズナである。

キズナは父ディープインパクト、母キャットクイルの6歳牡馬。半姉のファレノプシスは桜花賞、秋華賞、そしてエリザベス女王杯とGⅠレースを3勝した名馬であり、また、その血統背景をたどっていくと、「シャドーロールの怪物」とも言われたナリタブライアンの名前も見つけられる良血馬なのである。

その血統背景もあって、生まれながらに期待を集めてきたキズナの馬名の由来は、文字通り「絆」でもある。キズナが誕生した翌年に起きたのが東日本大震災。復興に向けて心を一つにするべく、オーナーサイドが選んだ馬名が「キズナ」だったのだ。

その思いを受け止めたかのように、キズナは活躍を続けていく。3歳時の2013年には重賞を連勝し、3歳馬の頂点を決めるレースでもある日本ダービーでは、14万人近い大観衆が東京競馬場に詰めかける中を、キズナは武豊騎手を背に先頭で駆け抜けた。これは父ディープインパクトとの親子制覇であり、また父の鞍上も務めた武豊騎手はこれが日本ダービー5勝と、歴代最多記録を更新した。

武豊

撮影:A-CLIP 浅野 一行 父と息子両方の背中を知る唯一の存在、武豊騎手

「ディープインパクトに最も似ている馬」への期待

その武豊騎手だが、キズナの展示に際しては自らがマイクを持ち、「ディープインパクトに最も似ている馬です」とのアピールを行っている。競馬に詳しい方で、しかもディープインパクトとキズナの双方の馬体を知っている方なら、その言葉を疑問に思われたに違いない。

それというのも現役時のディープインパクトはその武豊騎手をして、「跳ぶ」とも称された程の軽やかな走りをしていた。その源となったのが良質な筋肉をまといながらも、全く重さを感じさせない440㎏台程の、サラブレッドとしては小柄な馬体だった。

しかし、現役時のキズナは500㎏に迫る雄大な馬格の持ち主でもあった。切れのある走りはディープインパクトを彷彿とさせるも、「跳ぶ」とまでには至っていない気もする。

だが、その辺は我々には分からない騎手ならではの感覚なのだろう。武豊騎手がキズナとディープインパクトの共通点としてあげたのが、その乗り味だった。

「一歩目を踏み出したときから、父そっくりだと思いましたし、こういった馬はなかなかいないとも思えたほどです」と武豊騎手。種牡馬展示会では血統や馬体、そして歩かせた時の歩様など、「見て取れる要素」はあるが、実際の乗り味までは確かめるわけにはいかない。それだけに12回にわたってキズナの手綱を取った武豊騎手の言葉には、非常に説得力がある。

しかも、キズナの種付け料は、父の12分の1である250万円。もし、武豊騎手の話す通りに父と同等の身体能力があって、それが産駒にも遺伝されるとするのなら、あまりにもリーズナブルな設定である。

それを見越していた関係者も多かったのか、この種牡馬展示会の前に配合申し込みは既に満口。今後はシーズン中における体調を見ながら、配合数を増やしていくことになるが、シーズン前に満口となった種牡馬の例からしても、200頭に迫る繁殖牝馬を集める可能性も出てきている。

ディープインパクト

撮影:A-CLIP 浅野 一行 種牡馬としての貫録を見せる父、ディープインパクト

種牡馬として最大のライバルは父。そして同じ父の後継者たち

その一方で、父であるディープインパクトは、その高額な種付け料に見合った、良質な繁殖牝馬を配合相手に集めている。種牡馬としてのポテンシャルだけでなく、配合される繁殖牝馬のレベルも産駒成績を大きく左右する現在の生産界では、いきなり父を越えるような産駒実績を残すのは至難の業と言える。

しかも今年、社台スタリオンステーションには、キズナと同じディープインパクト産駒の後継種牡馬が2頭(スピルバーグ、リアルインパクト)スタッドインしている。現時点での配合申し込み、そして、種牡馬としての期待値でもある種付け料において、キズナは2頭を上回っているが、今後の産駒成績次第では、その評価が変わってくる可能性も出てくる。

しかし、キズナの初年度産駒たちが、同じディープインパクト産駒の後継種牡馬、そして父の産駒を向こうに回しながら、クラシックレースを沸かすことができれば、状況は変わってくる。優秀な繁殖牝馬たちが次々とキズナの元に集まり、より優れた産駒を送り出せる状況が整ってくるからだ。

キズナの初年度産駒のデビューは2019年。いきなり種牡馬としての資質を試されることになるが、その馬名の通りに父と仔の「絆」が繋がった産駒たちは、父を彷彿とさせるようなパフォーマンスを見せてくれるに違いない。

キズナ

撮影:A-CLIP 浅野 一行 産駒たちが父キズナと同じように夢を与えてくれる日を待ちたい

 

村本浩平

村本浩平

馬産地ライター。1972年生まれ。20歳の頃に「第1回ナンバー・スポーツ ノンフィクション新人賞」を受賞。現在は馬産地でもある北海道をフィ ールドとしながら、生産地で働くホースマンの声を届けている。また、 中学生の頃からファンだった北海道日本ハムファイターズの取材も続ける。

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