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February 22 2016 By 高樹ミナ

卓球「みうみま」、歩き出したそれぞれの道

卓球「みうみま」、歩き出したそれぞれの道

同い年生まれで名前も一文字違い。幼い頃に卓球を始め、切磋琢磨して大きくなった伊藤美誠と平野美宇。「みうみま」の愛称で共に世界での活躍を嘱望されてきた二人の少女は、ここへ来て別々の道を歩き出した。伊藤は一足先にリオデジャネイロ五輪へ、平野は2020年東京五輪での代表入りをめざす。宿命のライバルであり、普段は仲の良い二人はここから先、どんな歩を進めるのだろうか。

伊藤美誠、先んじて代表内定へ

まだ残暑厳しい2015年9月。日本卓球協会から2016年リオデジャネイロ五輪代表候補が発表された。リストには大本命の福原愛(ANA)、石川佳純(全農)が並ぶ。注目はもう一人、団体戦のメンバー。そこには成長著しい新星・伊藤美誠(スターツ)の名前があった。当時の伊藤は弱冠14歳の中学3年生。リオデジャネイロ五輪時には高校1年生になることから、メディアには「2004年アテネ五輪の福原に並ぶ史上最年少記録」の見出しが躍った。

伊藤美誠といえば、「みうみま」の愛称で知られる平野美宇(JOCエリートアカデミー)とのダブルスペアで快進撃を続けてきた。奇しくも二人は2000年生まれの同い年。しかも名前も一文字違い。美誠は美しく誠実な人になってほしいという願いと、「誠」は男性の名に多いことから、女性でも強くたくましく育ってほしいという願いが込められている。美宇はその年、スペースシャトルのエンデバー号が打ち上げられたことから、果てしなく広がる美しい宇宙に愛娘の前途洋々な未来をイメージした父親が名づけたという。

卓球を始めたのは平野が3歳、伊藤に至っては3歳の誕生日を迎える直前だった。いずれもコーチは母親。自ら卓球教室を営み多くの子どもたちを指導する平野の母・真理子が娘の楽しみとして卓球を教えていたのに対し、自身も選手として勝負の世界に生きていた伊藤の母・美乃りは、はなから娘をトップ選手にするつもりで育てた。

みうみまのダブルスペアが誕生したのは5歳のとき。そんな“歴史ある”二人のダブルスを「1+1=2の足し算じゃなく、掛け算で何倍にも威力が増していく」といずれの母親も口をそろえる。その見立ては後に、弱冠13歳で優勝した2014年ITTF(国際卓球連盟)ワールドツアー・ドイツオープンとスペインオープン、さらにはその年のグランドファイナル優勝の快挙へとつながっていった。

女子シングルスで準々決勝進出を決めた伊藤美誠

卓球全日本選手権第5日  女子シングルスで準々決勝進出を決めた伊藤美誠=東京体育館

なげやりな気持ちから這い上がった平野美宇

厳しい競技の世界に身を置くライバルでありながら、共に成長してきたと自負する伊藤と平野。世界ランキングを10位に上げていた伊藤がリオデジャネイロ五輪の代表候補に選ばれたときのことを、平野は先の全日本選手権大会(1月17日決勝)でこう振り返っている。

「いろいろな人から『(美誠ちゃんに)置いていかれてるね』と言われて、自分でもそう思ったりして。最初は悔しかったのに、いつの間にか悔しくなくなってきて、そんな自分が悔しかった。代表選考が終わった9月頃は『もうどうでもいいや』って思うこともあったんですが、それじゃダメだなって。そこから気持ちを切り替えて頑張りました」

気持ちを切り替えられたのは、コーチが変わったことが大きいと平野は言う。昨年10月、前任の劉潔(リュウ・ジェ)コーチに代わり、元中国の選手で日本ではミキハウスで石川佳純らを指導していた中澤鋭(なかざわ・るい)コーチが平野を担当。まだ20代と若く情熱あふれる劉コーチとは姉妹のように息の合ったコンビで成長を遂げてきたが、指導者として実績のある中澤コーチは平野に足りないパワーを身につけさせる指導に力を入れている。とりわけ平野の武器であるフォアハンドは、体からラケット、そしてボールへと効率よく力が伝わるようフォーム改善に取り組んでいるのだ。

「変えたのは体の使い方。腕だけじゃなく、下半身を使って打つことを意識しています。ただ本当にフォームを変えられるのか、前の自分より弱くなったらどうしよう、そう思うと不安でした」と平野。しかし、全日本選手権で成果の一端が表れ、シングルス準決勝で伊藤にストレート勝ち、決勝でも石川佳純相手に強打を放って見せ場をつくり、史上最年少となる15歳で準優勝を果たした。その記録もさることながら、課題にしてきたフォアハンドの強化が結果につながったことで平野は、「ほっとしています。ここまで調子を上げられてよかった。頑張ってよかったです」と自信を取り戻している。

卓球全日本選手権第3日  ジュニアの部女子シングルスでベスト4入りを決めた平野美宇

卓球全日本選手権第3日  ジュニアの部女子シングルスでベスト4入りを決めた平野美宇=東京体育館

 

美宇・美誠が交わす、4年後の約束

平野より先に五輪の大舞台を踏むことになる伊藤は、2月28日開幕の世界卓球団体戦(マレーシア・クアラルンプール)に臨む。一方の平野は世界卓球の代表から漏れたため、引き続き打球のパワーアップに取り組みながらワールドツアーを転戦。世界ランキング10位入りを目標に掲げている。

二人のダブルスペアは、リオデジャネイロ五輪で伊藤が福原、石川いずれかとペアを組むためひとまず解消となるが、その後は「2020年東京五輪をめざし、二人でまた頑張っていきたい」と伊藤も平野も公言している。

「一番刺激をくれる相手」と互いを認め合う二人を見ていると、「平野に差をつけた伊藤。伊藤に置いていかれた平野」という安直な評価はちょっぴり違うように思えてくる。卓球に限ったことではないが、アスリートの成長過程は十人十色。特に15歳ととびきり若い二人を評価の秤にかけるのは時期尚早というものだろう。

リオデジャネイロを経由して東京五輪へ向かう伊藤、4年後の東京五輪に照準を合わせる平野。それぞれ別のルートで2020年をめざすズバ抜けた才能は、大人たちが目を向けがちな国内の勢力争いではなく、常に世界を見据えている。めざすは「打倒、中国」。世界ナンバーワンに君臨する絶対王者を超えることなのだ。

(文・高樹ミナ/写真・共同通信)

高樹ミナ

高樹ミナ

千葉県出身。アナウンサーからライターに転身後、競馬、F1、プロ野球などを経て2000 年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季大会を取材。16年五輪・パラリンピック招致委員会に在籍した経験も生かし、スポーツの意義と魅力を幅広く伝える。国内外で取材活動を展開。

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