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February 25 2016 By 石狩ジュンコ

研究が進む月経周期による女性アスリートとコンディションの関係 運動生理学の須永美歌子准教授に聞く

健康な女性であれば毎月1度は必ず訪れる月経はデリケートな問題であるが故、女性アスリートにとって悩みの種となっている場合も多い。国立スポーツ科学センター(JISS)が女性トップアスリートたちに実施した調査によると、60%が正常月経、あとの40%が異常月経という結果だった。

近年は女性アスリートの活躍に伴い、スポーツ競技における月経の問題はたびたび取り上げられてきている。そこで今回は、日本体育大学で運動生理学を研究する須永美歌子准教授にお話を伺った。

数年前からは国も研究を支援、しかし現状は…

須永准教授は、女性だけが持つ月経周期がどのように競技パフォーマンスに影響するのかについて日々研究している。ここ最近は女性の社会進出の空気も後押しして、女性アスリートを対象とした研究は増えているそうだ。数年前からは国も、女性アスリートの競技力向上に関する研究に対して支援を始め、各メディアもこの分野に注目し始めた。しかし、世の中の流れや期待と実際の研究成果は必ずしも比例しているわけではないという。

「月経周期において女性ホルモンの濃度が上下するのですが、それがどのように心や体に影響を及ぼし、変化をもたらすのかという客観的なデータやエビデンスは意外と少ないんです。とくに私の専門である運動生理学分野では、男性を被験者として検討したものが主流であり,女性を対象とした研究は,まだまだ少ないのが現状です。さまざまな運動様式において男女差がどのように生じるのかというのは検証されていないんですね。運動時の反応に男女差が生じるならば、女性ならではの効率的なトレーニング法や体調管理法が考案できるのではないか、月経周期に伴う心や体の変化についてひとつひとつ理解することで、競技力向上や健康維持などに役立てられないかと思っています」

須永教授_rs

日本体育大学 須永美歌子准教授

研究がまだまだ発展途上である理由として、被験者と研究者に密な信頼関係が必要であることもいえる。月経のスケジュールや心と体の調子など女性被験者のプライベートな情報が必要になるため、男性の研究者が介入する場合にはまだ難しい現状があるのだそうだ。須永准教授の話では、運動生理学者の女性の比率はまだまだ少ないのだという。

女性トップアスリートの9割が「月経周期でコンディションは変化する」

一般的に女性が抱える月経についての悩みとしては、生理が来る3日~10日前(黄体期)に起こる月経前症候群(通称:PMS)が挙げられる。個人差はあるが、イライラ、憂鬱な気分、落ち着かない、集中できない、情緒不安定といった心の不調、そして乳房の張りや痛み、眠気、だるさ、下腹部の張り、腰痛、頭痛、むくみといった体の不調があるといわれている。さらに、月経中に痛みを伴う月経困難症がある。国立スポーツ科学センターが女性トップアスリート683人に実施した調査によると、「月経周期によってコンディションは変化する」と答えた人は9割にも上った。

young african nurse comforting female patient in doctor's office

須永准教授も以前、約200人の女子学生アスリートを被験者として、スポーツ競技をする上で「私はできる!」といった自信や気持ちの変化があるのかを調べた。PMSは月経前の黄体期に起こるといわれているが、月経期に自信が低下し、ネガティブな気持ちになると回答した人も多かったという。

「もちろん黄体期に変化があると答えた人もいました。月経周期に関する研究で難しいのは、その変化は個人差もありますし、『先月は不調だったけど今月は普通かな』といった個人内変動もあるので、統計的に顕著な差が出てくるわけではないんですよね。女性同士で集まると、『生理前はネガティブな気持ちになるよね』『食欲が増すよね』『そうそうわかる』とはなるのですが、それらの症状を科学的な根拠に基づいて説明するのは、まだ難しい段階です」

現在、女性アスリートの健康管理上の問題は、1997年にアメリカスポーツ医学会が発表した、利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗しょう症の「女性アスリートの三主徴」が着目されているという。消費量に比べて摂取するエネルギー量が不足することで、体脂肪が少なくなる。それによってホルモンのバランスが崩れ無月経に、そして骨が弱くなるので骨粗しょう症になるという関係だ。

しかし、須永准教授が実際に日体大の女子学生を対象に調べてみると、きちんと食べていて骨密度も高く体脂肪も充分にあるのに、疲労骨折や無月経になってしまう学生もいるそうだ。この三主徴については新体操や中長距離など、細い体が必然となる競技選手では当てはまるかもしれない。一般の女性でも、体脂肪や骨格がしっかりしているのに月経不順になってしまう女性もいるだろう。月経には、エネルギー摂取量だけでなく、ストレスや食べた物、ホルモンバランスなど、他のさまざまな要因が関係するため、一概に言い切ることは難しい。須永准教授は「今後は、女性の健康障害を予防するための運動や栄養に関する指針のようなものを作っていきたい」と意気込む。

 男性指導者や周囲が理解を示す姿勢が求められる

実際に月経周期に伴う心や体の不調が現れた時、女性アスリートが最も悩むことは男性指導者への相談ではないだろうか。これは当人同士の信頼関係が最も必要になってくるが、選手に理解を示す姿勢も大切だと須永准教授は語る。

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「一番問題なのは、『そんなことをいちいち気にしているから調子が出ないんだ』という精神論です。これは男性だけでなく、同じ女性でも自分に月経に関する症状が出ない場合において言えます。男性指導者にとっては経験もなく理解しがたいので、競技パフォーマンスが悪かった時に、怠けや言い訳と思う人も少なくないでしょう。もちろん競技パフォーマンスに影響する因子は多岐にわたりますから、その時の不調が必ずしも月経周期が要因でない場合もあります。ただ、その一つの要因として月経周期というものがあるということは、女性アスリートに関わる男女ともに理解していくことは必要だと思います」

須永准教授は学生向けにスポーツと月経に関するセミナーで講演もしているが、そこに男性指導者が登壇したりすると「男の先生であっても生理について相談してもいいんだ」と思う学生は多いのだそうだ。生理についての悩みを誰にも言えないという辛さが、競技における不調を助長することもあるだろう。男性指導者も月経に関する知識を持ってアスリートの心と体に寄り添うことが、今後はもっと求められるはずだ。

自分の月経周期による影響の受け方を知り、自分に合ったストレスマネジメントを

PMSや月経不順の治療としては、一般的には婦人科で処方される低用量ピルがある。

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日本ではまだまだ避妊効果の面だけが知られている低用量ピルだが、ホルモンバランスを整えるので月経痛が緩和されたり、毎月決まった日に月経が来たりと、そのメリットは多い。須永教授もセミナー等で、月経周期に伴う不調に関しては根本的な治療が必要な場合もあるため、日常生活に影響を及ぼすほど月経痛など症状がひどい時には婦人科の受診を勧めることもあるのだそうだ。

「婦人科の受診についてはアスリートに限らず、すべての女性が向き合うべきだと思っています。日本女性の婦人科受診率の低さについては、改善されていく必要があると思います。ピルが必要な人もいますが、ピルを飲めば全てのことが解決するということでもありません。アスリートも月に何度も大会や試合があるときもありますので、ただ単に生理日をずらせばよいという簡単な話でもありませんよね。私は、“月経があることは健康の証拠”だと考えています。健康な状態で練習に取り組むことによって、より良いパフォーマンスを発揮することができると思いますし、競技力向上につながると信じています」

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須永准教授は、ピルについては、知識や情報を得た上での一つの選択肢だと捉える必要があると語る。また、講義で「生理前はイライラしたりお腹が膨れたり体重が増えたりすることがある」と説けば、暗示にかかったように「生理前にはイライラするものなんだ!」と感じてしまう人もいるという。自分が不調を感じるのは生理前なのか生理中なのか、体のコンディションが悪くなるのか、心のコンディションが悪くなるのかといった違いには本当に個人差がある。中には、月経周期の影響を受けない人もいる。だからこそ、一番大事なのは自分の体と向き合い、月経周期によってどのような変化があるのかを知り、情報や知識を得た上で、自分に合ったストレスマネジメントや月経との付き合い方をしていくこと。そうすることが、女性アスリートの競技パフォーマンス向上につながるのだろう。須永准教授のさらなる研究、そして月経によって辛い思いをする女性アスリートが一人でも減ることが望まれる。

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(石狩ジュンコ)

石狩ジュンコ

石狩ジュンコ Twitter Blog

フリーライター。89年、山形県生まれ。 女性の生き方、社会問題、カルチャー、インタビュー、翻訳などを執筆中。 好きなものはラジオ、仏教、「スターウォーズ」、「ミナミの帝王」、純喫茶、ブティック。 スポーツ歴は小学校でバスケ、中学校で陸上(中長距離、走り幅跳び)、高校で女子サッカー。

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