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March 16 2016 By 向 風見也

「観察」を走りに変える。スーパーラグビー・レベルズの松島幸太朗、日本凱旋なるか。

綿毛。

ゴムまり。

スーパーボール。

柔らかさや弾力をイメージするものになら、ひと通り例えられてきた。ボールを持てば不規則なリズムで芝を踏み、人垣をかいくぐる。

松島幸太朗。ジンバブエ人の父と日本人の母の間に生まれたプロラグビー選手で、走り屋が務めるアウトサイドセンター、ウイング、フルバックといった位置をこなす。斜めにかぶったキャップがよく似合う、身長178センチ、体重87キロの23歳だ。

中学の一時期を過ごしたラグビー大国の南アフリカでは、友だち同士でタッチフットを楽しんだ。タックルの伴わない、楕円球を使ったレクリエーションだ。長所は自然と磨かれた。

――どうやって、相手をかわしているのですか。

全国大会での90メートル独走トライなど、すでに漫画並みの活躍をしていた神奈川の桐蔭学園高時代、少年はぽつり、「かわすっていうか…前へ行こうとしている感じです」と応じた。ただただ「前へ行こう」と思うなか、防御をすり抜けた。

大学へは行かず、2011年から単身で南アフリカへ渡った。世界最高クラスのスーパーラグビーに参加するシャークスの下部組織で、才気を育てた。2013年に帰国した頃には、日本代表に入っていた。

そして、2015年9月19日。4年に1度あるワールドカップのイングランド大会は予選プール初戦で、過去優勝2回の南アフリカ代表とぶつかる。背番号11を付けた「マツ」は後半28分、得意のランで五郎丸歩のトライを演出した。ノーサイド。34-32。大会24年ぶりの白星を挙げたのだった。

「低く、バツバツ入ろう、と。日本ではよくあるプレーだけど、向こうの人にとってはそうとは限らないから」

 

チーム全体の献身的な守りについて、実体験を踏まえて断言していた。自らも大会を通じ、巨木をなぎ倒すタックルで魅せた。柔らかくて、弾力もあって、強靭でもあった。

「観察」。それが、しなやかで強いランナーのもうひとつの特徴だ。単独取材の折、本人が語る。

「結構、電車に乗った時とかに人を見るのが好きで。『この人、こういう癖があるな』とかいうの、よくわかるじゃないですか」

――例えば、車両の中で化粧をする女性がいたら…。

「たまにノーメークで乗って来て、ふと見たら別人のようになる。それをゼロから作り上げるのは、なかなか、勇気がいるなと思います」

ここまで喋り、かすかな笑み。おとなしいと思われがちのようだが、仲間内では小さないたずらの主犯格で通る。国内所属先であるサントリーの同僚、流大は、「インタビューとかでも、もっと明るく喋ったらいいのにと言っているんですけどね」。万人に与える印象と実相とのずれを指摘する。

なるほど。「前へ…」とつぶやいていた頃と比べ、20代前半の松島はやや饒舌になった。猛者とぶつかる武者修行時代に競技中のコミュニケーションの重要性を感じ、「それで自然と、普段もそうなっていったかも」とのことだ。

 

特別な技能と全体を俯瞰する目を持ち合わせるアスリートは、えてして、集団スポーツにおいて重宝される。あの伝説的なグループのなかでも、然りだった。

イングランド大会の日本代表には、この国で初めてスーパーラグビーを経験した田中史朗がいた。おもにプレーする強豪国ニュージーランドのエキスを注入しようと、辛口の進言を重ねていた。

練習が緩いと感じるや「勝つ気あんのか」と叫んだり、自分以外の選手起用などに関して指揮官のエディー・ジョーンズへ抗議をしたり。伝える内容とトーンから、最終的には田中自身が「僕のことを好いていない人もいると思う」と自覚する空気も流れた。

それでも若き主力格は、先輩方の立ち位置を客観視していた。雰囲気には流されなかった。時にスポーツ紙上を賑わす発言の主を、あくまで成功のためのカンフル剤と捉えたのだ。

「なかなかあそこまでストレートに言える人はいない。僕も、同じ思いでしたし」

大会期間中のジャパンは、田中の発案から試合ごとにジグソーパズルを用意した。準備を終えたと自覚した選手やスタッフから順にピースを置き、全員の心構えが整ったら完成する仕組みだった。

「なくしそうやからって置くのはナシな。意味、ないから」

田中が全員の前でこう発すれば、松島は黙って頷いた。

「実際にそういうことをポロリと言っている人もいて…。そういう人には、ぐさりと刺さったかなと。僕が言ってもいいんですけど、そうしたら『若手が何を…』という人も出てきたと思う。田中史朗のような人が言った方が、人は納得する」

ちなみに2人は普段からじゃれ合うようになり、松島は敬語を使わなくてもよくなったそうだ。結局は歴史的な3勝を挙げるナショナルチームにあって、松島は「プレーに集中する」と言っていた。実は、孤独かもしれぬジョーカーの心の友でもあった。「観察」を組織運営に生かした。

 

いまは、オーストラリアのレベルズに在籍する。ワラターズで過ごした前年度に続き、2シーズン目となるスーパーラグビーへ挑んでいる。2016年の3月19日、日本から初参戦のサンウルブズと第4節をおこなう。

ある試合で、体調不十分ななかでも見事な突破を決めたことがあった。その直後には、「コンディションが100パーセントではないなかでも、抜けることができた。スペースに、走り込めている」と言い残した。疲れがたまっていても「スペース」を「観察」し、妥当なプレーを選択できる。気質とプレースタイルのリンク。そう。つくづく、ラグビーには人間がにじむ。

サンウルブズ戦の会場は東京の秩父宮ラグビー場。メンバー入りが叶えば凱旋帰国となる松島は、ファン待望の一戦をどう見つめるか。

レッズ戦を前に、練習に臨むレベルズの松島幸太朗=11日、メルボルン(共同)

レッズ戦を前に、練習に臨むレベルズの松島幸太朗=11日、メルボルン(共同)

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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