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March 24 2016 By 向 風見也

ワールドカップ優勝戦士のアダム・トムソン、縁ある日本のサンウルブズをどう観たか。

ワールドカップ優勝戦士のアダム・トムソン、縁ある日本のサンウルブズをどう観たか。

人呼んで長毛のマンモス。巨躯が金のミディアムヘアをなびかせていた。年を重ねてからは頭髪をさっぱりさせているが、プレースタイルは変えていない。

2016年3月19日、東京の秩父宮ラグビー場である。オーストラリアのレベルズで背番号8をつけていたのは、アダム・トムソンだった。公式記録で「身長192センチ、体重112キロ」の34歳だ。南半球主体の国際リーグ、スーパーラグビーの第4節。日本のサンウルブズを向こうに、空中戦でも地上戦でも圧力をかけた。

例えば5点リードで迎えた前半38分、自陣中盤左でサンウルブズにラインアウトを与えたシーンだ。

タッチライン際からボールを投げ入れるラインアウトにあって、相手の細田佳也が空中で捕った球を地上へ投げる。その先には、チーム最年長の大野均が待っていた。

しかし、そこにはトムソンもいた。大野の持つ楕円に腕をかけ、サンウルブズ陣営にもみくちゃにされながらも攻守逆転を果たした。「よく、見ていました」。テレビの解説席で、引退したての元日本代表主将、廣瀬俊朗がつぶやいた。

35―9。ホームチームの発足後初白星を阻んだ殊勲者は、「何か特別なことを考えたのではない。ただ目の前にボールがあった」と笑った。

撮影:長尾亜紀

中央でタックルするアダム・トムソン 撮影:長尾亜紀

 

オールブラックスの愛称を持つニュージーランド代表として、国際間の真剣勝負への出場数にあたるキャップを32も獲得した。世界ランク1位である強豪国の伝統を、確かに受け継いできた。2011年には、母国開催だった4年に1度のワールドカップで優勝メンバーとなっている。

日本にもなじみが深い。2013年からは国内最高峰であるトップリーグのキヤノンに入り、環境に慣れてか翌14年度から本領を発揮する。ラインアウトの作戦中枢を担い、密集戦の守りで渋く光った。

「ラインアウト…。特に変わったことはなく、ただ練習通りにハードワークしているだけです。たまたま捕っているのではなく、ハードワークの結果です」

当時の新人選手で、後にサンウルブズ入りを叶える身長197センチの宇佐美和彦にも、「必ず競れ」と教えたそうだ。

「日本のラグビーを観ていると、相手ボールのラインアウトには競り合うチャンスが多い。チームによっては、捕りやすいボールを投げているところもある。だから、キヤノンは必ず競り合おうとしています」

昨今のトップリーグは、強豪国の大物の加入もあってレベルが上がっている。その一端を担うトムソンは、同種のポジションを務める湯澤奨平に「自分が引っ張ろうという思いが、去年よりも強くなっているように思います」と目された。

「ラグビーにうまくいく秘訣はない。うまくいかない時はシンプルなプレーをすること。うまくいかない時に難しいことをやろうとすると、もっともっと状況は難しくなる」

「やはり、平均的なパフォーマンスを見せなければ。チームのクオリティの高さは、自分たちのプレーが良くない時にいい結果を残せるかどうかに表れます」

取材エリアに現れれば、万事に通じそうな勝負論を明かす。勝てる人は、思考が簡潔である。

 

サンウルブズ戦のノーサイドから約1時間後、スタンド下のミックスゾーンをトムソンが通る。肌寒い夕方なのに、上半身はタンクトップのみだった。この国になじみのある名士とあって、まもなく日本人記者に声をかけられた。

――本日のパフォーマンスについて。

「まぁまぁ、オッケーレベルだったかなと。サンウルブズのプレッシャーを受けたことで、ボールコントロールで課題を残してしまった。ただ、チームがチャンスをものにできたのはよかった」

――あなたが知る日本ラグビーのレベルから考え、サンウルブズはどこまで戦えると思いますか。

「自分はサンウルブズの戦いぶりにとても驚いています。スーパーラグビーというタフな場所にあって、限られた時間でいい準備をしているように映るからです。そこに関しては、プライドを持っていい。スコアラインには表れていませんが、見ごたえのある戦いをしている。初勝利まで、そこまで時間はかからないでしょう」

プラスチックの柵の向こうから矢継ぎ早に飛び込んでくる質問へ、整理された談話を返していた。

 

ニュージーランドでのワールドカップでトムソンが先発したゲームのひとつが、日本代表戦だった。本来は100キャップ到達に迫っていたリッチー・マコウ主将が先発予定も、「負傷」のため欠場となる。代理で出たのがトムソンだった。

対する日本代表は、5日後の次戦に必勝を期し「レギュラー」とされた選手の大半を温存。ファンや関係者から熱烈に支持されていた大野は、この大会中では最初で最後のスタメン出場を果たしていた。格上相手にタックルし続けながら、何年か経って「もっと色々チャレンジできたのに、セーフティーにプレーしてしまった」と後悔することとなる。

9月16日にワイカトであった一戦は、83-7でオールブラックスが勝った。

そして、5年後。日本でスーパーラグビーの試合があり、レッズを経てレベルズに新加入したトムソンと、37歳になっても現役を続ける大野が邂逅する。それが、ハーフタイム直前のワンシーンの背景となったのである。まったく、世界中のグラウンドは戦士の交差点である。

即席インタビューに応じていたトムソンは、関係者に急かされその場を辞す。レベルズはその足で空港へ行き、帰国する予定だった。

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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