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September 23 2015 By 向 風見也

ラグビーW杯、大金星に導いた日本代表リーチ主将の「仕事」

ラグビーW杯、大金星に導いた日本代表リーチ主将の「仕事」

2日前に「マイバリカン」で頭を刈った日本代表キャプテンのリーチ マイケルは、2015年9月19日、会場のブライトンはコミュニティースタジアムにいた。4年に1度のワールドカップ第8回大会の予選プール初戦、世界ランクで10つ上の南アフリカ代表とのゲームを直前に控えていた。

26歳のプロ選手だ。球を持つ、持たないに関わらず、羽ばたく鷲のごとく強く優雅に走る。

「俺は、ラグビーを仕事だと思っている。だから、中途半端なことは絶対にしない」

ウォーミングアップを終えると、小さく、円陣を組んだ。リーダーの「仕事」をするためだ。お互いがお互いの肩に手を置きながら、内なる興奮を沈めるようにロッカールームへ戻る。チーム一丸という意をわかりやすく示せるよう、14日前のウォームアップマッチから採り入れた所作だった。

このチームはまもなく、現地で「ラグビー史上最大のアップセット(大番狂わせ)を起こした」と報じられる。

リーチ マイケル

「カラー」 ラグビーW杯1次リーグ 喜ぶリーチ主将  南アフリカに勝利し、ガッツポーズで喜ぶリーチ(中央)ら日本フィフティーン=ブライトン(共同)

なぜ、ラグビーの日本代表には外国人がいるのか。「居住3年以内で代表資格獲得」という大らかなルールが生み出す、列島では避けられない議論がある。ただ、リーチはめったにその標的にならない。

フィジー系ニュージーランド人だった15歳の頃、来日した。札幌山の手高校では、雪のなかでの反復練習に四苦八苦。刺身や焼き肉を好物としてみるみる身体を大きくし、東海大学の2年時に日本代表デビューを飾っている。

大学のクラブの寮内では、持ち主のわからなくなった落とし物を入れる「忘れ物箱」に入ったウェアを「どうせ捨てるなら…」と引き取った。いいプレーをした後も「まだまだ…」と謙虚な姿勢を貫いてきた。インタビューでは「将来は日本で体育の先生になりたい」と話したこともある。あらゆる思想、信条を持つ日本のラグビーファンから共感を集めた。

15年。南半球最高峰であるスーパーラグビーのチーフスでレギュラーとなった。現地の「Wi-fiの強いカフェ」で応じた「LINE電話」によるインタビューでは、「日本のラインアウト(タッチライン際での空中戦)の技術を、向こうが知りたがっています。それで結構、教えています」と話したものだ。ラグビー王国であるニュージーランドのクラブで「練習の空気は試合と一緒。気は休まらない」と驚きながら、自分が長く住んだ異国のことも誇らしげに思えた。

 

ジャパンの主将を任されたのは14年からだ。指導者としてのワールドカップ通算戦績を13勝1敗とする負けん気の鬼、エディー・ジョーンズヘッドコーチからはしばし「日本人的だ」と注意されてきた。

試合中の所作でもお咎めを受ける。着任1年目の6月21日、東京は秩父宮ラグビー場で欧州6強の一角であるイタリア代表を26-23で破った日のことだ。前半17分にペナルティートライ(反則がなければトライが決まっていたと判断された場合の得点)を喫した折、リーチはレフリーに判定の基準について確認を取っていた。それをジョーンズヘッドコーチは「チームメイトと話すべきだ」と断じたのだ。

もっとも本人は、別な意見を持っていた。「あの時、レフリーとはいいコミュニケーションが取れたと思います」。勝利請負人としての指揮官を信頼しつつも、話のすべてを鵜呑みにしない。リーチは、謙遜心と自己顕示欲を絶妙に配合させるアスリートだった。2013年に日本国籍を取得しているが、その直前まで「トップリーグ(日本最高峰リーグ)の外国人枠を変えて欲しい。日本の高校と大学を出た選手は日本人として出てもいい」と訴えてもいた。本当は、いわゆる「日本人的」とは違った人だ。

大会直前、決然としたさまで呟いた。

「俺が仕切れるところも、増やしていきたい」

 

ブライトンでの一戦。白星をもぎ取ったリーチは、3点リードを追うノーサイド直前、ある決断を下していた。

敵陣で相手の反則を得た際、着実に3点を狙うペナルティーゴールではなく、大男が組み合うスクラムからのプレー再開を決めた。相手が一時退場処分で1人少ないなか、トライで5点を、と、逆転を狙った。

「いいプレーができたのは、いままでやってきたことを信じてやってきたから」

 

34―32。24年間ワールドカップ未勝利だったアジアの小国が、過去2度も世界一となった南半球の雄に勝つ。その後の公式会見で、リーチは戦前にジョーンズヘッドコーチからもらったという助言を紹介した。

「お前の好きなようにやれ」

大金星の裏には、ジョーンズヘッドコーチの周到な準備もあった。ただ、最後の最後はリーチの「仕事」が色濃く反映された。

23日、チームはグロスターで、予選プール第2戦目のスコットランド代表戦に臨む。激闘からわずか中3日という過密日程下、欧州の強豪とぶつかるわけだ。チームがかねて目標に掲げる「ベスト8」への道は、まだまだ険しい。ただ、試合終了から約1時間後ジャパン陣営は、「金星」への熱狂もそこそこに次戦へと気持ちを切えていた。

きっとリーチは心中で、自ら語った決意を反芻している。

「日本ラグビーの歴史を変えられるのは、俺たちしかいない」

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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