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May 13 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

敗戦を糧に。進化し続ける宮城MAXが8連覇 ~日本車椅子バスケットボール選手権大会~

5月3~5日の3日間にわたり、東京体育館では「第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会」が行われ、決勝で宮城MAXが千葉ホークスを73-44で下し、8連覇を達成した。エース藤本怜央(ふじもと・れお)は4試合で150得点を挙げ、11大会連続、12度目の得点王、そして2大会ぶり3度目のMVPに輝いた。昨年、リオデジャネイロパラリンピック出場権を獲得した日本代表チームの選手同士が火花を散らすなど、例年以上の盛り上がりを見せた今大会。3日間にわたって繰り広げられた熱戦を振り返る。

第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会のプレーする藤本怜央選手

宮城MAXのエース藤本怜央選手。迫力のプレーで、4試合で150得点。11大会連続、12度目の得点王かつ、2大会ぶり3度目のMVPに輝いた。

宮城MAX、磨きのかかった守備力

2大会ぶり6度目となる、MAXとホークスの決勝は、しばらくはともにスコアが「0」のままと、選手たちの緊張感がスタンドにまで伝わる雰囲気の中でのスタートとなった。

試合が動いたのは開始2分、エース土子大輔(つちこ・だいすけ)のミドルシュートでホークスが先制した。しかし、これで目を覚ましたのはMAXの方だった。エース藤本を中心とした多彩な攻撃で、あっという間にホークスを突き放し、第1クオーターは16-8とダブルスコアとしてみせた。さらに第2クオーターでは藤本がスリーポイントを2本決めると、その藤本にディフェンスのマークがいった隙を突いて、豊島英(とよしま・あきら)がミドルシュートを決めるなど、ホークスを翻弄した。

一方のホークスは、MAXの堅いディフェンスに苦戦を強いられ、エース土子がインサイドを攻めることができず、苦し紛れにアウトサイドからシュートを打つシーンが多く見られた。第2クオーターを終えて35-14。土子に一度もインサイドでのシュートを決めさせなかったMAXのディフェンスが光る前半となった。

土子が思うようにプレーできなかった理由のひとつは、豊島のディフェンスにあった。実は土子は前半で3つのファウルを犯している。そのうちの2つがオフェンスファウル。いずれも相手は豊島だった。土子はこう語っている。

「あのオフェンスファウルは、うまく豊島選手にディフェンスされてしまいました。それと僕がボールを持ってディフェンスを崩そうと、スクリーンプレーをかけようとしても、豊島選手のチェアスキルに邪魔をされてしまって、うまくいかなかった」

第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会でプレーする宮城MAXの豊島英選手

鉄壁のディフェンス力で相手のファウルを誘発した、宮城MAXの豊島英選手(右)。チェアスキルが光る。

ディフェンス力を発揮したのは、豊島だけではない。藤井新悟(ふじい・しんご)も味方が戻りきれていない場面では、早めにボールマンにチェックに行くことで、相手に速い攻撃をさせなかったのだ。

ホークスの杉山浩(すぎやま・ひろし)HCが最大の敗因を「スタートでオフェンスがリズムに乗れなかったこと」を挙げていることからも、いかにMAXのディフェンスに苦戦を強いられたかがわかる。

第3クオーターはMAXの19得点に対し、ホークスは18得点と応戦したものの、内容的にはディフェンスを崩してゴール下を攻めるMAXに対し、ホークスはほとんどがアウトサイドからのシュートだった。さらに第4クオーターでは最後まで全員が動き続けてゴールを狙う姿勢を見せたMAXに対し、ホークスは動きが止まっているシーンが多く見受けられた。

結果は73-44。この試合、5割以上の41得点を挙げ、得点王に輝いた藤本の強さに加えて、磨きがかかったディフェンス力が、MAXを前人未到の8連覇へと押し上げた。

そしてもうひとつ、MAXにとって重要だったのが、日本選手権前に味わった悔しさだったに違いない。ドイツ・ブンデスリーガに参戦していた藤本不在のMAXは、3月の長谷川杯、4月の関東CUPで負けを喫している。なかでも関東CUPは全敗という結果に終わっている。その時、アシスタントコーチを兼任する藤井はこう語っていた。

「負けたことで、悔しさとやる気をもらいました。やはり日本一への思いが薄れていたのではないかと。そのことを戒めてもらえた。もう一度気持ちを引き締め直して、必ず8連覇します」

負けて改めて強くした勝利へのこだわり。それが“王者の目覚め”となり、そこにエースという大黒柱が加わったのだ。いまだ衰えを見せるどころか、進化し続けるMAX。果たして、来年はどんな姿を見せるのか、楽しみだ。

王者を苦しめたNO EXCUSEに見た変化

そのMAXが今大会、最も苦戦を強いられたのが準決勝だった。この試合での勝利がMAXを8連覇へと導いたと言っても過言ではない。優勝を決めた後のインタビューでMAXの岩佐義明(いわさ・よしあき)HCはこう語っている。

「準決勝が大きかった。ああいう厳しい試合を勝つと、力になる。だから、今日の決勝は絶対に勝てると思っていた」

その準決勝の相手だったのが、日本代表チームの指揮官でもある及川晋平(おいかわ・しんぺい)HCが率いるNO EXCUSE(東京)。ドイツ・ブンデスリーガでプロとしてプレーしている香西宏昭(こうざい・ひろあき)を加え、圧倒的な攻撃力で勝ち上がってきていた。

試合は予想通り、日本代表では“Wエース”としてチームを牽引する藤本と香西の得点の奪い合いとなった。藤本が立て続けにミドルシュートを決めれば、香西は得意のスリーポイントで対抗してみせた。お互いに一歩も引かないプレーに、スタンドの観客からも歓声が上がり、試合はヒートアップしていった。第1クオーターこそMAXが5点をリードしたものの、第2クオーターでNO EXCUSEが追い上げ、前半を終えて33-33。まさに手に汗握る接戦となった。

そんな中、試合を決めたのは第3クオーターだった。約5分間で17得点を挙げたMAXに対し、NO EXCUSEは香西の4得点のみ。MAXが一気に流れを引き寄せ、試合の主導権を握った。

第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会でプレーするNO EXCUSE、香西宏昭選手

NO EXCUSEのエース、香西宏昭選手。劣勢の第3クオーターでも、焦らずシュートを決めた。

それでも藤本は、最後まで恐怖心を拭えなかったという。

「宏昭の表情には“いつでも逆転できる”“いつでもシュートを決める”という心の余裕があった。今までで一番強い宏昭を感じながら、戦っていました」

第3クオーター、終了のブザーと同時に放たれた香西のスリーポイント。それは、ハーフラインに程近いところからのシュートだったにもかかわらず、ボールはきれいにゴールへと吸い込まれていった。

「まだ、これからだ」

そんな香西の気持ちが乗り移っていた鮮やかなシュートに、MAXも恐ろしさを感じたに違いない。

実際、第4クオーターはMAX16得点に対し、NO EXCUSEは17得点と互角に渡り合った。しかし、NO EXCUSEにとって第3クオーターでの連続失点は、やはり大きかった。結果は69-63。MAXが逃げ切るかたちで接戦を制し、決勝へと駒を進めた。

この試合でチームに大きな自信をもたらしたのは、MAXだけではなかったはずだ。負けたとはいえ、王者をあともう一歩のところまで追い詰めたNO EXCUSEにも手応えはあったに違いない。もちろん世界レベルの香西が入ったことによって、チーム力がアップしたことは言うまでもない。しかし、それ以外にもNO EXCUSEには確かな変化が見られた。それはベテランに頼らないバスケをしていたことだ。

昨年までのNO EXCUSEは、菅澤隆雄(すがさわ・たかお)、森紀之(もり・のりゆき)、寺田正晴(てらだ・まさはる)といったベテラン勢の安定感が光るチームという印象があった。それは、選手権の1カ月前に行われた関東CUPでも同様だった。しかし、MAXとの準決勝という大事な試合でスタートを任されたのは、24歳の森谷幸生(もりや・ゆきたか)。故障明けということもあり、関東CUPではなかなか力を発揮できていなかった森谷だが、この試合ではしっかりとチームにフィットし、重要な戦力の一人としてプレーする姿があった。

第44回日本車椅子バスケットボール選手権大会でプレーするNO EXCUSEの森谷幸生選手

24歳の森谷幸生選手。若々しいプレーが光った。

既に及川HCから信頼を寄せられ、主力となっている28歳のキャプテン湯浅剛(ゆあさ・つよし)に続いて若手が台頭してきたNO EXCUSE。29歳の池田貴啓(いけだ・たかひろ)にも期待が寄せられており、ベテランと若手の融合が進めば、さらに強くなるはずだ。今、進化の途上にあるNO EXCUSE。今後、注目したいチームのひとつだ。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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