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September 30 2015 By 向 風見也

ラグビー日本代表で注目度急上昇 五郎丸歩は何を背負っているのか

ラグビー日本代表で注目度急上昇 五郎丸歩は何を背負っているのか

まるで拝んでいるようだ、と、プレースキックの際の特徴的なフォーム話題で集めている。子どもにも若者にもアイドルにも「ゆるキャラ」にも、真似をされる。

ウェットなショートヘア。切れ長の瞳。公式で「185センチ、99キロ」のごつごつした体躯。絵になる見栄えも手伝ってか、テレビのワイドショーでも『Yahoo!トピックス』でも、格好の「トピックス」と化した。

周りが過熱するなかでも、しかし、五郎丸歩副将は変わらぬ「ルーティーン」を貫く。貫こうとする。

9月19日、ブライトンコミュニティースタジアム。4年に1度あるラグビーワールドカップのイングランド大会で、過去2回優勝の南アフリカ代表を破った。相手が反則をしたり、チームがトライを奪った後のゴールキックは、常に背番号15の五郎丸が蹴った。

球を置く。そこから後ろへ3歩、左へ2歩、離れる。背筋を伸ばし、胸の前で手を軽く合わせる。ゆっくり、助走する…。

自分が最も真っ直ぐな弾道を描けるフォームで、そのまま、真っ直ぐな弾道を放つ。一連の動作を本人は「ルーティーン」と表現する。繊細かつ個人的な世界観が、そこにはある。

五郎丸選手

日本―スコットランド 前半、PGを狙う五郎丸=グロスター(共同)

続く23日、グロスターはキングスホルムスタジアムでのスコットランド代表戦は10-45に終わった。五郎丸は初戦で9本中7本を決めたゴールキックを、この日は4本中2本、外した。数字上はそうだ。

もっとも、1本ごとに「ルーティーン」をやり切ったかどうかは己にしかわからない。見た目上の判断から「精度が違った要因は」と聞かれても、答えなどは出せまい。

「僕も機械ではない。外すときは外します。そんなに気にはしていないです」

プレースキックと同様、走りも繊細だ。働き場であるフルバックの位置(グラウンド最後尾)から味方の攻撃に加わる際は、相手守備網の死角へ滑り込むように駆け込む。敵が蹴った球を持って突っ込む場合も、真っ直ぐというより鋭角にスペースをえぐる…。いつだって五郎丸は、単調ではないサポートでチームを前に押し上げる。

「セオリーに通り、いるべきポジションにいれば、(目の前にスペースは)空きます。特別に難しいことはしていないです」

敵がたくさん集まる場所があれば、そことは違う場所でチャンスを伺う…。考えているのは、きっと、そういうことだろう。

名前は「ごろうまる・あゆむ」と読む。卒業生などから熱烈に支持される早稲田大学ラグビー部では、在籍中3度の学生日本一に輝いた。初めて日本代表となったのは19歳の頃で、牛丼を食べていただけで写真週刊誌に載ったこともある。外見、名前の響き、残したキャリアの合わせ技で、本人が望む、望まざるに関わらず人気選手となった。

磨かれる契機は、2010年にあったか。

所属先のヤマハ発動機がクラブの活動規模を縮小し、プロ選手だった五郎丸は社員への転向を余儀なくされた。「それまでバイトもしたことがなかった」のにワイシャツをまとい、「広報宣伝部」で電話の取り方ひとつから学んだ。

次第に醸成されたプレーの安定感は、グラウンド外での経験と無関係ではない。少なくとも本人はそう、自覚している。15年2月にヤマハが日本選手権初優勝を決めた後、「一言では表せない。色々、ありましたから」としみじみ語っていた。

エディー・ジョーンズヘッドコーチが就任した2012年度から、ジャパンで副将を務める。リーチ マイケルが主将となった2014年以降は、試合中に選手同士で課題を修正しようとより強く思うようになったか。もともとあった自主性の幹を、より太くしていった。

ミルトンキーンズはスタジアムmkでのサモア代表戦を5日後に控えた、9月28日の朝のこと。

普段は他のリーダーが仕切ることの多い選手間ミーティングを、五郎丸がリードした。もう1人の副将で、学生時代から五郎丸とライバル関係にあった同学年の堀江翔太は、「いつもはやらないようなところを、しかも、あれだけすんなりと…。自分がやらなあかんと思っているからこそ」と感心した。現チームの初代主将である廣瀬俊朗も、4歳年下の仲間に敬意を込める。

「あの人は、自分を持っている。4年間、僕を含めた色んなリーダーを観ながら、自分なりにやってきた。それがいいのかなと」

辛苦もあったであろう4年間、その総仕上げとしての過酷な直前合宿…。

そのすべてを通過した29歳の青年は、いま、穏やかに「自分」の思いを話すのである。

「能力を持った選手たちがいて、しっかりとトレーニングもしてきています。ヘッドコーチが打ち出した戦術を踏まえて、1人ひとりがやれることをやっていきます」

――中心選手としてマークされる気持ちは。

「…こう言うのはおかしいですが、楽しんでいます」

きっと、五郎丸歩は背負っている。ラグビーの歴史を変えるというチームのミッションを。そんなチームの顔とならざるを得ない、自分の、運命を。

(文/向風見也)

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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