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May 18 2016 By 向 風見也

「五郎丸対サンウルブズ」のもうひとりの注目選手? ツイ ヘンドリックの人情と縁

鼻にピアスをした若い女性とショッピングモールへ出かける老夫婦が列車に揺られる、オーストラリアはブリスベーン。空の青と風の生暖かさも似合うこの地には、サンコープスタジアムという競技施設がある。

2016年5月21日、ここで、昨秋のラグビー日本代表というブームを目撃した人にとっての注目カードがおこなわれる。

国際リーグはスーパーラグビーの第13節、サンウルブズ対レッズだ。

日本から初参戦するサンウルブズにはワールドカップイングランド大会に出たメンバーが10人、入っている。かたや本拠地のレッズにも、二人のジャパン戦士がいる。

1人は五郎丸歩。祈りに似たフォームからなるプレースキックで、イングランドでの快進撃の象徴と化した。帰国後に撮りためたであろうコマーシャルは今の日本の朝を彩り、最近ではフランスのトゥーロンへの移籍報道が「Yahoo! トップ」に躍っている。

そしてもう1人は、ツイ ヘンドリックだ。

五郎丸がここまで先発2回とエンジン全開に至らぬなか、在籍2年目のツイはここまで全11試合ともスターティングラインアップに名を連ねている。自軍ボールラインアウトから出たボールを最初にもらって突進する役目を得るなど、フランカーとして確かな信頼を得ている。

 

 

まだヘンドリック・ツイと名乗っていたニュージーランド人が東京郊外の日野市百草園へ移り住んだのは、2007年の春のことだった。帝京大の留学生として、東洋の島国での学生寮暮らしを始めた。この頃、五郎丸はライバルの早大の副将を務めていて、帝京大主将の堀江翔太はいずれサンウルブズのリーダーとなる。

その堀江が愛称「ヘンディー」の話を求められ、こんなエピソードを明かしたことがある。

いつの試合の前だったか、ロッカールームで気合を込める仲間に対し、静かに祈りを捧げたというのだ。

確認を求められた当の本人は、「帝京大に助けられている。チームの力になりたかった」と、日本語と英語を交えて振り返った。来日後はスタッフや現役部員の通訳のサポートがあり、試合中に怒って反則を取られても最終的には許されていた。

どこか三男坊の気風が漂うアイランダー系の青年は、上級生になれば帝京大の留学生グループのリーダー格になった。

自分がペナルティーを取られた主な理由を、レフリーの視界の外で相手に噛みつかれた際に逆上したことだと反省。こちらも後にサンウルブズ入りする1学年下のティモシー・ボンドらに、自分と同じ過ちをしないよう助言することとなった。2015年度終了時に大学選手権7連覇を成し遂げる岩出雅之監督も、かような真の上下関係に目を細めていた。

この春からサントリーの主将を務める流大は、帝京大6連覇時の船頭でもある。学生時代を思い出し、こう話していた。

「ヘンディーさんは、僕とはずいぶん学年が離れているのですが、よく帝京大へ激励に来てくれていました」

義理と人情に生きるアスリート、かもしれない。

 

 

2011年から日本最高峰のトップリーグへ参戦。パナソニック入りした初年度から問答無用のラインブレイクを連発し、2013年から加わったサントリーでは日本国籍も取得した。ツイ ヘンドリックとなった。

渦中、イングランド大会を見据える日本代表からも声がかかった。2012年6月10日、東京は秩父宮ラグビー場でのパシフィック・ネーションズカップ第2戦目で初キャップ(国際間の真剣勝負への出場の証し)を掴んだ。

この日はトンガ代表に20-24で屈したが、「ヘンディー」はトライを挙げるなど出色の出来だった。エディー・ジョーンズヘッドコーチは「素晴らしい。ただ、日本語を話せないのはいけません。帝京大に4年間もいたはずですが」と冗談を言いつつ、以後4年間、ツイをジャパンの選択肢とし続けた。

元オーストラリア代表監督とあって当地へ多大な影響力を持つジョーンズは、スーパーラグビーのオーストラリアチームに外国人枠とは別の「日本人枠」を設置するよう助力。ツイのレッズ入りの裏には、そうした背景もある。人の縁は侮れない。

2015年のワールドカップ。過去優勝2回の南アフリカ代表を34-32で下した9月19日のブライトンコミュニティースタジアムにおいて、ツイはジャパンのナンバーエイトとして駆け回った。

「うれしい。4年間、日本代表で…。ベリーハッピーね」

大会中に設けられた取材機会を終える頃、日本語でこう漏らした。

「思い出されるのは、ラグビーのこととは違うことだったかもしれません。チームに小さなグループもたくさんあって、それぞれで楽しんでいるところもありました」

10月11日、グロスターはキングスホルムスタジアム。アメリカ代表を28-18で下しながら予選敗退が決まった夜のこと。グラウンドの隅で集合写真を撮っているさなか、ジャパンの面々が大声で歌った。

ボブ・マーリーの『バッファロー・ソルジャー』に、日本語の詞をつけた替え歌である。作ったのは「ヘンディー」だった。

撮影:長尾亜紀

撮影:長尾亜紀

 

 

身長189センチ、体重107キロの28歳。6月にスコットランド代表と戦う日本代表にも名を連ねた。後進に勝者の文化を伝えることも、今後の役割となろう。

「イングランドでは、選手たちが主体的にやっていく意識が高まっていました。選手がチームをリードして、選手が高い基準を持っていた。個人としてもベースを上げて、チームを引っ張れるようになりたいです」

五郎丸もいて、堀江もいて、さらにはツイもいる。スーパーラグビーにあっては勝ち星に恵まれていないチーム同士の対戦とされるが、日本列島にとっては黄金カードかもしれない。

向 風見也

向 風見也 Facebook Twitter Blog

1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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