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May 19 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

秦由加子、3カ月後の“本番”に向けてつかんだ手応えと課題 ~世界トライアスロンシリーズ横浜大会~

5月14日、「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」が山下公園(横浜市)で行われ、リオデジャネイロパラリンピックの国別出場枠がかかるポイント争いが佳境に入っているエリート・パラトライアスロンの部では、世界のトップ選手たちが熱いレースを繰り広げた。昨年、同大会初優勝を飾り、連覇に期待が寄せられた秦由加子(はた・ゆかこ)は最後のランで、リオでの金メダル候補の一人、アリサ・シーリー(米国)にトップを譲り、惜しくも2位となった。

男子にも劣らないスイムで先行

「悔しいなぁ」

ゴール直後のインタビューで、秦はトレードマークの笑顔を見せながらも、そう言って無念さをあらわにした――。

その日、秦は調子の良さを感じていた。降りしきる雨の中行われた昨年とは一転、今年は快晴に恵まれたことも、彼女の気持ちを明るくさせていた。トランジットエリアには応援団が詰めかけ、「秦由加子」と書かれた旗が潮風に気持ちよさそうに翻っていた。それもまた、彼女のモチベーションを上げたことは言うまでもない。

「前日からすごく調子が良くて、練習も『よし、もうこれで十分』というかたちで終えたんです。今日は万全な体調でスタートラインに立つことができましたし、何よりたくさんの方々が応援に来てくれていたことが力になりました」

心身ともに最高の状態で、秦はレースに臨んだ。

1種目めのスイムは、元々水泳選手としてパラリンピックを目指していた秦にとって最大の強みとなっている。一方、秦と一騎打ちとなったシーリーは、最後のランを得意としており、前日の会見でも「スイムが弱点」と語っていた。そのシーリーを秦が、スイムでいかに引き離すことができるかが、後のバイク、ランに大きく影響することは明らかだった。

「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」

ゴーグルに手を当て、前を見据える秦由加子選手。気合がみなぎる。

7時5分、暖かな日差しが降り注ぐ太平洋でレースがスタートした。昨年マスターしたという波に対して抵抗の少ない泳ぎで、秦はシーリーとの差を広げていった。一緒にスタートした同じクラスの男子選手のトップにも劣らない泳ぎを見せた秦は、11秒57の好タイムで沖に上がった。すぐさまトランジットエリアで義足を装着し、バイクに乗り込んだ。

「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」に出場した秦由加子

シーリーに約2分半の差をつけた、力強いスイム。

しばらくして、スイムを終えたシーリーがトランジットエリアに入ってきた。秦との差は約2分半。これを秦が守り切れるかが注目された。

バイクでの手応え、ランでの課題

「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」に出場した秦由加子

トップのままバイクを走りきった。

「もしかしたら、このままいけるかもしれない」

トップのままバイクを終えてトランジットエリアに入ってきた時、秦は優勝への可能性を感じていた。

昨年、彼女が課題のひとつとして挙げていたのはバイクでの技術を上げることだった。ポイントとしていたのは、カーブ。いかにスピードを落とさず、と同時にバランスを崩さずに、カーブを曲がることができるか。その技術習得に努めてきた。カーブの多いコースとなっている今大会で、その成果を十分に発揮。最後まで攻めの走りをした秦はトップでトランジットエリアへ。シーリーとの差はほとんど縮まることはなく、最後のランに臨んだ。

「実は、もしかしたらバイクで追いつかれるかもしれないと思っていたんです。でも、そうはならなかった。だから、これはいけるかもしれないと思っていたんです」

だが、ランの間にスイムで作った貯金はなくなり、2周目の途中でシーリーにとらえられた。そのまま並走することなく、一瞬のうちに抜き去って行ったシーリーの背中は、あっという間に小さくなっていった。

結局、秦はシーリーに3分以上の差をつけられて2位でゴール。ランでの2人の差は約5分と、改めて課題が浮き彫りとなった。

「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」に出場した秦由加子

必死でシーリーを追いかける秦選手。ランは、今後の課題。

秦は今大会を、昨年7月から今年6月までの1年間にわたるパラリンピック出場枠獲得のためのポイント付与対象レースの最後の出場としている。その期間内での世界ランキングは6位。リオ出場は、彼女のクラスにどれだけの枠が与えられるかによるため、今はまだ何とも言うことができないが、あとは信じて待つのみだ。

「一つずつランキングを上げてくることができました。発表を待つかたちになりますが、必ず枠に入りたいと思っています」

リオでの目標はメダル争いに食い込むこと。そのためには、得意のスイムを磨き、手応えを感じているバイクをさらに引き上げ、そして最大の課題であるランをどこまで克服することができるか。9月、リオの地でトレードマークの笑顔が見られることを期待したい。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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