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May 25 2016 By 向 風見也

「ベストを尽くす」って、どういうこと? サンウルブズのエドワード・カーク、古巣レッズとの戦いに秘めた思い。

「ベストを尽くす」って、どういうこと? サンウルブズのエドワード・カーク、古巣レッズとの戦いに秘めた思い。

オーストラリアはブリスベーンの群青の空には、いつだって白い陽が照る。

南半球の街とあって、2016年5月21日は秋の只中だ。国際リーグであるスーパーラグビーの第13節が終わった午後5時ごろ、サンコープスタジアムは日没を迎えていた。

ホームチームであるレッズはこの午後、一般のファンにグラウンドを開放していた。一戦を交えたばかりの選手が、足やら肩やらに氷を巻いてサインや写真撮影に応じる。

珍しい一団がいた。日の丸の描かれたハチマキと真っ白な柔道着をまとって、黒帯には狼のロゴをあしらっていた。現地在住のジャーナリストによれば、人数はざっと80人程度。年恰好は20代といったところか。

皆、エドワード・カークの親族と友人だった。

カークはブリスベーン生まれ、ブリスベーン育ちのラグビー選手だ。一昨季まではこの地のレッズに在籍し、国際リーグのスーパーラグビーで39の公式戦でプレーしてきた。

今回は、レッズの対戦相手として凱旋した。

「日の出ずる国の狼」こと、日本のサンウルブズの一員である。あごひげを新天地のファーストジャージィと同じ橙色に染め上げ、灰色のセカンドジャージィをまとい、芝を駆けた。

 

人呼んで「カーキー」。身長191センチ、体重101キロの25歳。肉体接触の多いフランカーやナンバーエイトというポジションに入り、「ベストを尽くす」を有言実行する。

「練習試合でも本番でも、ベストを尽くして成長する」

「やるべきことをやり続ける。チームのためにベストを尽くす」

ジャッカルが得意だ。倒れ込んでくる相手のランナーを自分の懐へ引き寄せ、腰を落としてボールに絡みつく。その妙技をジャッカルと言う。

日本で、シンガポールで、南アフリカで。転戦した先々で、カークはジャッカルで魅せた。相手のテンポを鈍らせ、攻守逆転をもたらした。

たとえ劣勢でも、気落ちせず持ち味を発揮する。そう。「ベスト」を尽くす。

南アフリカはブルームフォンティンのコミュニティースタジアムで現地時間の4月18日、チームはチーターズを相手に苦戦。それまでの長期遠征の疲労からチームはやや低調気味で、前半29 分頃には3―38と流れを失っていた。

グラウンド中盤の左タッチライン際で、空中の起点にあたるラインアウトから相手のポール・ショーマンが真正面から突っ込んでくる。身長190センチ、体重104キロの突進役を、サンウルブズが待ち構える。

第一の刺客のトゥシ・ピシがタックルに入った刹那、楕円の宝に、カークが、絡んだ。そのまま身を前方にひねらせ、攻撃権をもぎ取った。

17-92と記録的な大敗を喫したが、誇りは失わなかった。

「ポテンシャルがある限り、戦い続けないといけません。逆境に立たされても、絶対に後退しません」

38歳とチーム最年長の大野均は、「性格も明るく、普段は冗談も言う。ただプレーは真面目で、何でも吸収しようとしている」と評す。グラウンド外ではファンキーで通る「カーキー」は、都内の練習場で出待ちのファンを見つけたら「Where are you from?」と芯のある高い声で話しかける。「Oh,Tokyo?」と握手をする。

「自分が面白いのかどうかは自分ではわかりません。ただ、ラグビーは楽しむためにやっている。真剣にするだけではなく、エンジョイも大事」

舞台裏でも、公人でありチームマンとしての「ベストを尽くす」。

 

前年度は、地元のレッズと契約できなかった。膝の故障を抱えるなか、役割の重なる別な選手にその座を奪われた。

「スポーツ選手としては、そういうこともある。あれはタフな経験でしたが、落ち込まずにいました。落ち着いて物事を考える時間ができました」

辛苦をこう振り返ったカークは、「変化」を求めた。2015年の夏ごろ、初めて出生地以外のクラブとサインを交わすのだ。日本のサンウルブズは当時、選手が不揃いで消滅の危機に瀕していた。

オーストラリア在住の日本人記者の間では、選手の推定年俸に基づくコストパフォーマンスの観点から「いい買い物では」との声が舞った。天の配剤で極東の島国に流れ着いた若き闘将は、そのまま11試合続けてメンバー入りを果たした。

5月の古巣との対戦には、特別な感情はあった。しかし、それは湿っぽさとは無縁のものだった。

「地元では家族に会えるのも楽しみです。ただ、第一の目的はラグビーです。サンウルブズのために戦える。楽しみな理由は、それ以外にありません」

――契約してくれなかったチームを見返そう、とは思いませんか。

「そういう気持ちはありません。サンウルブズに関わる人たちは、皆、いい人ばかり。チームが1つひとつのことを成し遂げ、マイルストーンを分かち合い、喜び合えている…。初日から、ずっとそう思っています」

 

昔の仲間と本気で戦う。いまの仲間のために戦う。つまりは「ベストを尽くす」。5月21日の背番号「8」は、ただただプロアスリートだった。

「レッズのメンバーとは17歳の頃から一緒にトレーニングをしている。特徴も熟知している。その意識をもとに、思い切り戦う」

前半7分ごろ。ハーフ線付近でハードランナーのサム・ケレヴィにタックル。

「速く、激しいプレーが自分の持ち味なので、毎回それを出そうとしています」

起き上がる。

「ただ今日は、より激しく行こうと思っていました」

自陣10メートル線上右、接点の周りに立つ。

「応援、家族、恋人…」

波状攻撃を待ち構える。

「ラグビーをやっていることを支援する皆へ、気持ちを表す」

レッズが誇る日本代表戦士、ツイ ヘンドリックのランを捉える。

「スーパーラグビーの一員となったからには…」

ジャッカル。

「ただ参加するだけではいけない」

倒れた選手が球を手離さない、ノット・リリース・ザ・ボールという反則を誘った。

「期待に応えるという自分にとってハッピーなことが、周りにとってもハッピー。この現状はとてもいいことです」

結局、25-35で敗れた。ショートステップで相手をかわすなど、接戦にあって多彩な持ち味を示しはした。一方、気負ってか、いくつかペナルティーを食らいもした。「部分、部分で勢いがなくなったところがあります」と、反省の弁も忘れない。

もっとも、「引きずるタイプではありません。終わったことをくよくよしても仕方がない」。あくまで、次に「ベストを尽くす」ために歩き出す。その姿勢で、柔道着の支援者たち1人ひとりを引き寄せたのだろう。ノーサイドを受けてグラウンドに降り立ったオセアニアの人たちは、皆、東洋のクラブを応援していた。

そして、地元の後押しを受けた陽性の職人は、シーズン終了後も日本でのプレーを希望する。

「いまサンウルブズでやれていることがベスト。自分の大好きなラグビーを再確認できた」

元同僚と過ごした80分は、スーパーラグビー出場50試合目という節目になった。

撮影:長尾亜紀

撮影:長尾亜紀

向 風見也

向 風見也 Facebook Twitter Blog

1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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