TOPへ
June 10 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

リオの地でつかんだ新感覚 〜義足ハイジャンパー・鈴木徹〜

今年9月に行われるリオデジャネイロパラリンピック。そこでの活躍が期待されている注目のアスリートの一人が、鈴木徹(すずき・とおる)だ。日本人で唯一の義足ハイジャンパー。リオ出場が確定すれば、2000年シドニーパラリンピックから5大会連続出場となる。鈴木は今、自身初となるメダルへの道のりを着々と進んでいる。

理想の跳躍を生み出した一歩一歩の強さ

昨年4月、9年ぶりに2mに成功した鈴木は、その2週間後には2m01にまで記録を伸ばし、自身が持つ日本記録を更新。“2mジャンパーの返り咲き”は、日本のパラ陸上界にとって待ち望んでいたものだった。

再び鈴木がパラ陸上界を賑わせたのは、今年5月。リオデジャネイロパラリンピックと同じ会場で行われたグランプリシリーズで、2m02の跳躍に成功してみせたのだ。

「あの時は跳んだ瞬間に、自分の足がバーを越えていくのが見えた気がしたんです。実際には見えてはいないのですが、それくらいいいイメージで跳べたのだと思います。初めて味わう感覚でした」

実はグランプリシリーズの3週間前、鳥取で行われた日本選手権での気づきが、記録更新へとつながっていた。日本選手権で鈴木は、1m96に終わっている。そこで浮き彫りとなったのが、助走での課題だった。

義足ハイジャンパー・鈴木徹

2016日本選手権での鈴木選手。助走に課題が残った。

「助走で一歩一歩の踏み込む力が弱かったために、踏み切りの際に地面から十分に力をもらうことができていなかったんです。そうすると、上に跳ぶことはできても、バーを越えずにそのまま体が落下してしまう。そこで日本選手権後は、助走の所にマーカーを並べることで、一歩一歩を意識して力強く踏み込んでいく練習を重ねました。そうすることで、助走でうまく地面からの反発を受けて、力強い踏み込みができるようになったんです。それが、リオでの自己ベスト更新につながった、一番の要因だったと思います」

リオでの跳躍は、単なる記録更新ではない。約3カ月後には、そこでパラリンピックの本番が行われる。その会場との相性の良さを感じられたのは、鈴木にとって大きな収穫となった。

またリオでは、“新感覚”もつかんだ。それは、助走から踏み切りに入る前のカーブでの姿勢だ。これまでは、上半身が起きた状態のままカーブして踏み切りに入っていた。だが、リオでは無意識に重心を少し下げた状態でカーブに入り、そのまま踏み切ったという。それがさらに力強い踏み切りを生み出し、美しい放物線を描いた跳躍を実現させたのだ。

「踏み切りに入っていくカーブのところで地面に吸い付くような助走ができれば、重心が下がった分、地面から大きな反発力をもらい受けることができる。その力が踏み切った際に解放されることで、大きなジャンプ力を生み出すんです。その感覚をこの時期につかんだことはとても大きい。それを少なくとも3回に一度は出せるように精度を高めていくことができれば、メダル争いのラインとなることが予想される2m05は跳べると思っています」

義足ハイジャンパー・鈴木徹

跳躍のタイミング練習を繰り返す。

新たな課題は助走のばらつき

グランプリシリーズの翌週、山梨県陸上選手権でも2m01をマークした鈴木は、さらにその翌週、6月4日に行われたジャパンパラ競技大会でも2mジャンプを狙った。成功すれば、自身初となる1シーズンで3度の記録となる。リオデジャネイロパラリンピックの最終レースでもあったジャパンパラで2mを跳ぶことができれば、本番に向けていい弾みになるとも考えていた。

1m90、1m94は、1本目で難なくクリア。1m97は1本目、踏み切りの位置がバーに近すぎて、お尻が当たり失敗。しかし2本目には、しっかりと余裕の高さでクリアしてみせた。

しかし、実はこの時、鈴木にはある問題が浮上していた。助走のばらつきだった。鈴木自身が踏み切る位置を調整していたのではなく、助走のリズムに狂いが生じたことで、1本目と2本目の踏み切りの位置が異なっていたのだ。

鈴木は一気にバーの高さを2mに上げたが、助走のばらつきは最後まで修正することができずに3本続けて失敗。3本ともに踏み切りの位置が異なっていたことが、助走のばらつきを表していた。

ジャパンパラでは1m97で終わったが、鈴木はこの結果をマイナスにとらえてはいない。

「以前は1m85からスタートしていたのですが、やはり世界で勝負するためにはもっと高いところからスタートしなければと、先週の山梨選手権からは1m90からスタートしているんです。それを2週続けて1本目でクリアしたというのは、それだけ自分にとってのアベレージが高くなっている証拠だなと。実際、以前は『高いな』と感じていた2mのバーが、今では1m90くらいに見えている感覚があるんです」

心身ともに確実に、そして着実に、世界の頂に近づいているという感触をつかみ始めているのだろう。鈴木の表情には、自信が満ち溢れていた。

3カ月後、リオの地で誰よりも高く、そして美しい跳躍を見せてくれるに違いない。

義足ハイジャンパー・鈴木徹

鈴木選手には今、自信がみなぎる。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう