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June 30 2016 By 椎名 桂子

男子新体操の新境地を拓く~宮城県名取高校団体 ~ 壁に挑み続ける異色チームが「勝負の年」を迎える(後編)

男子新体操の新境地を拓く~宮城県名取高校団体 ~ 壁に挑み続ける異色チームが「勝負の年」を迎える(後編)

前編»男子新体操の新境地を拓く~宮城県名取高校団体~ 壁に挑み続ける異色チームが「勝負の年」を迎える(前編)

3年目の初戦「男子新体操団体選手権」での苦杯

2016年6月12日。

東京体育館で行われた「第7回男子新体操団体選手権」は、佐藤兄弟を擁する名取高校としては、この大会への最後の挑戦だった。
1年前、優勝に限りなく近い準優勝をおさめたゲンのいい試合。おそらく、この大会、名取は本気で優勝を狙っていたと思う。
作品は、去年と同じだった。後に控える高校総体のことを考えれば、この時期まで前年作品を引っ張るのは得策とは言えない。
しかし、それでも名取はこの作品で、今年も挑んできた。それだけこの作品で認められたい、勝ちたいという気持ちが強かったのではないかと思う。
今大会での名取の試技順は、16番目。ライバルと目される青森山田は7番、OKB体操クラブは10番と先に演技を終えることになる。
前年覇者・青森山田は、新作演技で挑んできた。多彩な隊形変化、工夫されたタンブリング、演技序盤は抑えた動きで独特の空気感を出し、徐々に強さを見せつけていくような作品で、「さすが」と思わせたが、鹿倒立で2人ミスが出て、連覇は黄信号か? と思われた。
OKB体操クラブも、持ち味のタンブリングの強さを前面に出し、長く同じクラブでやってきている選手たちならではの同調性もある見事な演技を見せるが、青森山田同様、鹿倒立で2人ミスが出てしまう。この時点で青森山田16.875、OKB体操クラブ16.800。(注:昨年後半から導入された新採点基準により、実施点が厳しくなったため、昨年までよりも得点は全体に低めになっている)
名取高校にとっては、優勝のまたとないチャンス、と思われた。

そして。

名取高校の演技が始まった。

名取高校

この2年間で、選手たちの身長も伸び、迫力も年々増してきた。
以前は、「三つ子」ばかりが注目されていたが、6人揃って動くシーンでは、三つ子ではなく六つ子にも見えるくらいに、他の選手たちの能力も上がってきた。
ジュニア時代に見たときは、「かっこいいけど、体操としてはどうなのか?」と感じるところもあった本多監督の独特な振付も、ここまでの精度になると、その裏にある努力や時間が伝わってくる。
もっともタンブリングの強い佐藤綾人は、3回ひねりもやってのけた。惜しくも着地は弾んでしまい、減点はついてしまっただろうが、そのひねりには「絶対やってやる!」という凄みすらあった。以前は、よくミスしていたバランスもわずかに揺れた程度、他チームでミスの相次いだ鹿倒立は決めた。

「これは・・・(優勝)いくんじゃないか」

そんな期待を持たせたまま、名取高校の演技が終わった。有力チームに、素人目にもわかるミスが出ていただけに、観客席は、「ここが優勝だろう」という空気になっていた。
もしかしたら、本人たちにも、その手ごたえはあったかもしれない。

名取高校

しかし、表示された得点は、16.675。

構成9.175は、青森山田より0.15、OKBより0.025低い。そして、実施も7.500と、鹿倒立でミスのあった青森山田より0.05、OKBより0,1低く、3位という結果だった。
大きなミスのあった上位2チームより実施が低くなってしまうのは、やはり細かい部分での減点が多いということなのだろう。たしかに名取の今回の作品のように動きが多く、速く、詰め込まれていれば、引きどころは増えてしまう。
タンブリングはかなり挑戦的だが、動きの部分では堅実に引かれにくい構成で完成度を高めてきている上位チームと比べると、実施点が出にくくなってしまうのだ。
さらに、名取の人気の源でもある独創的な構成。「ダンスなのか、新体操なのか」と物議をかもす作品。これがどうしても評価が分かれてしまう。審判も全員一致で高評価にはなりにくいのだと思う。

名取高校

そして、高校総体へ。

今までは、ミスやアクシデントで仕方のない減点もあった。
上にいるチームが圧倒的に強かったこともある。
しかし、今回は、「勝ってもおかしくない」と感じる試合だった。
それでも、切望していた結果には届かなかった。

試合後、本多監督は、「こういう演技では勝てない、ということかな、と思う」と言った。
そして、高校総体に向けては、「選手たちも結果がほしいと思う。それだけのことはやってきているので」と言葉を続けた。

「これ以上、自分のやり方につき合わせるのは監督のエゴだと思うので、高校総体は、認めてもらいやすい演技でいくか・・・考えています」

その表情は、悔しそうだった。

今、彼は本気で「壁」を感じているのだ。

名取高校

「あいつらに結果出してやりたいんで。ただ、そんなふうに考えて演技を作ったことがないので、ちょっと苦戦しそうです」

最後は苦笑いして、帰途についた本多監督。

上位チームならたいていもっているマットもない、専用体育館ももちろんない。
決して恵まれているわけではない環境で、磨き続けてきた「自分たちの新体操」で、日本一を獲ることを目指してきたのだ。
高校総体は、このチームにとっては「日本一」に挑む最後のチャンスだ。
どう戦うのか。そして、どんな結果が待っているのか。
注目したい。

名取高校

※高校総体男子新体操団体競技は、8月11日(木・祝)、松江市総合体育館で行われる。

椎名 桂子

椎名 桂子

2002年から個人ブログ、2004年からスポーツナビで新体操の情報発信を続けている。おそらく日本で唯一の「新体操ライター」。 トップ選手だけでなく、チャイルド、ジュニア、高校生などの試合も多数取材。女子のみでなく男子新体操にも精通する。練習の取材にも嬉々として出かける。

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