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June 23 2016 By 向 風見也

勉強熱心で穏やか。ラグビー日本代表の宇佐美和彦が、「勝って反省」で出世目指す?

勉強熱心で穏やか。ラグビー日本代表の宇佐美和彦が、「勝って反省」で出世目指す?

勝って反省する。白星を得た一戦からも明確に課題を洗い出し、次なる舞台に向けた準備に反映させる。スポーツチームの健全な姿だ。

2016年6月11日、北米大陸はカナダのバンクーバー。鮭とアイスワインの街にあるドーム型競技場、B.Cプレイススタジアムで、ラグビーのテストマッチ(国際間の真剣勝負)があった。ホームのカナダ代表を相手に、同カードで過去11年無敗の日本代表が挑んだ。

26―22。勝ったのは日本代表だった。とはいえ前年秋のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げたチームとしては、やや不満足な出来だったか。当時の主力でもある立川理道ゲーム主将も「最後に勝ち切れてよかった」と話す前に、「自分たちのテンポを長く保つ場面は少なかったですが…」と前置きしていた。

人工芝の上で、ただただ「僕のせいで…」を繰り返す24歳がいた。宇佐美和彦。身長は197センチ、最近の体重は自己申告によれば115キロとする。うなだれていても、大きい。

この午後は日本代表の背番号4をつけ、ラインアウトのサイン出しを務めていた。

ラインアウトとは、ボールがタッチラインの外に出た際の試合再開のためのプレーだ。グラウンドの端あたりにある5メートル線の向こう側へ両軍の選手が縦に並び、一方のチームの選手1人がタッチライン際に立ち、その群れへ球を投げ入れる。以後は大抵、味方に太ももを支えられた長身選手同士の空中戦が始まる。

サイン出しとは、自軍ボールのラインアウトが始まるたびにどこでどのように捕球するのかを決定、それを味方の投げる人、支える人、自らを含めた飛ぶ人全員に伝える仕事だ。任された選手は万事に動じない落ち着きが求められる。地域ごとの味方の方針、その場の相手の様子を踏まえ、数秒で最適解を弾き出さねばならないからだ。

ところが…。

前半23分、自陣10メートル線上右での1本。並び立った5人が有機的に動いて相手を錯乱させようとしたが、むしろ自分たちの呼吸が合わなかった。右往左往しているうちに飛んできた球は、カナダ代表に渡った。「自分の滑舌が悪くてサインが伝わらなかった」そうだ。

続く26分、今度は敵陣22メートル戦付近右でチャンスを得る。ラインアウトの直後にテンポよくボールを動かすことが決まっていた関係で、後ろから2番目の自分が最後尾の選手に支えられて捕ることが決まっていた。それでも宇佐美は、相手が自分をマークしていると思って、その手前の小瀧尚弘を飛ばすよう指示した。

ボールが投入された頃には、自分の隣にいた相手が小瀧のところへ移動していた。

攻守逆転。

「小瀧の方へ動いて…。最初から僕が飛ぶようにすればよかったんですが、テンパっていて…」

この人にとって、このカナダ代表戦は9回目のテストマッチだった。うち6つは、明らかに格下とされるアジア諸国との試合だ。

勝敗が世界ランクに影響する条件下、歯ごたえのあるぶつかり合いをしながらベストなサインを出す…。言うは易しおこなうは難し。そう宇佐美は再確認したようだ。

 

 

野球少年だった。入学した愛媛県立西条高校の野球部は地域有数の名門だったため、かえって入部に消極的だった。もともと身体が大きかったから、入学試験を受けた頃からラグビー部に誘われていた。気づいたら、楕円球を触っていた。

部員数が試合のできる15名に満たなかったため、県大会には他校との「合同チーム」で出場した。関西大学Aリーグで優勝争いをする立命大に入ると、彼我の経験値の差に圧倒される。「自分は下の下なんで」と言い続けた。

その謙虚さは、かえって評価の対象になったか。

勤勉さと素質さのシンクロで選ばれた20歳以下日本代表では、「不器用だけど、チームがやるべきことをやりきることができる」と謳われた。

3年時には、正規の日本代表候補となった。後にワールドカップで結果を出す当時のエディー・ジョーンズヘッドコーチに、運動量豊富な若手の大型ロックとして期待をかけられたのだ。

立命大卒業後の2014年には、国内最高峰トップリーグのキヤノン入り。指揮官の永友洋司監督はすぐに、ジョーンズから宇佐美の起用に関するアドバイスのようなことを告げられたようだ。「これを言っちゃうのはまずいかもしれませんが、エディーとは常に連絡は取り合っています。ワールドカップに出られるように育てたいと思います。トップリーグの試合時間を増やす、ということです」と話した。

本人は、自然なありようで期待に応えてゆく。

神奈川県川崎市のオフィスから東京都町田市のグラウンドへ通う新入社員だった頃は、移動中の電車で自費購入のiPadを起動。実戦練習の映像を見返し、自分がどれだけ動き回れているかを厳しくチェックした。

 この逸話が記事になった頃には、キヤノン不動のレギュラーとなっていた。秋には日本代表のツアーに正規メンバーとして帯同し、ワールドカップイヤーの15年にテストマッチデビューが叶った。

キヤノンの他の選手は、こぞってiPadを買うようになっていた。

 

 

慎ましくも果敢に動くことで周りの人間の心を動かす若者は、結局、2015年のイングランド大会には出られなかった。ベテランが揃うロックのポジション争いに、敗れた。

その理由を、当の本人は「オンとオフの切り替えの部分で足りなかった」と分析した。休む時にすべてを忘れて休むことで、苛烈な戦場で全身全霊の力を発揮する資質の必要性を指したのだろう。

大会で美酒に酔った当時37歳の大野均は、それと似た話題に触れた際に「あぁ…確かにオフの前、宇佐美を飲みに誘ったら『いや、自分はいいです』と言っていました」と言葉を足した。

まさか、休養日の直前に酒を飲まなかったから落選したわけではなかろう。ただ、真面目で運動神経の高い戦士同士のつば競り合いの優劣は、本当に些細なところでしか見分けられないものだ。ここから若き巨躯に求められるのは、言葉の本当の意味での強さと図太さかもしれない。

2019年の自国開催ワールドカップには必ず出たいと、宇佐美は言う。イングランド大会で獅子奮迅の働きを示した35歳のトンプソン ルークには、「俺は今回までだから、次、頑張れ」と告げられている。

「去年の経験は活かしつつ、またイチから。皆と同じスタートラインに立ったつもりです。もっともっと頑張らないといけないと思います」

 

 

反省ばかりのカナダ代表では、好プレーも披露している。「相手のブロックがいないコース」を見極めてのキックチャージ、長い手足を伸ばして相手のモール(複数人による塊)を破壊する動作…。スピード感や大きなスケールといった、人々がスポーツに求める要素をふんだんに示している。

いま、日本代表はスコットランド代表との2連戦の只中だ。スコットランド代表は欧州6強の一角で、日本代表がイングランド大会で唯一勝てなかった相手だ。

サラリーマンとしての初任給でI padを買ったプロ選手の宇佐美は、勝って反省した次に先輩を泣かせた強豪に挑んでいる。まずはもう一度、謙虚に登録メンバー入りを狙う。

中央が宇佐美選手 撮影:出村謙知

宇佐美選手(中央) 撮影:出村謙知

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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