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June 29 2016 By 向 風見也

ラグビー日本代表入りした22歳の松田力也、スコットランド代表戦で見せた素顔とは。

ラグビー日本代表入りした22歳の松田力也、スコットランド代表戦で見せた素顔とは。

白い電光に照らされたパロットグリーンの芝の上。赤と白の縞模様のジャージィを着た青年が、紺色の衣をまとう大男たちに取り囲まれた。

2016年6月25日、東京は味の素スタジアム。欧州6強であるスコットランド代表との2連戦の2ゲーム目に挑んだラグビー日本代表は、歓声とため息のるつぼで躍っていた。

最後尾のフルバックを務める松田力也は、あの時、自陣の深い位置で向こうからのキックを捕球していた。すぐさま前方へ駆け上がり、分厚い防御網に突っ込む。

結末は、本人の望まぬものだった。松田は日本代表の援軍が集まる前に、複数のスコットランド代表勢に絡まれた。寝たままボールを手離さない、ノット・リリース・ザ・ボールの反則を犯してしまった。マリウス・ミトレアレフリーの笛が、けたたましく鳴った。

対するグレイグ・レイドローに、だめ押しのペナルティーゴールを決められた。2点差を追っていた後半37分に、スコアを16―21と広げられたのだった。そのままノーサイドの瞬間を迎えた。

すべてが終わってから、「自分の中ではランという選択肢しかなくて、もっと広い視野を持っていれば試合の流れを変えられて、もっと違った結果になったんじゃないかなと思います」と反省した。

 

身長180センチ、体重90キロの22歳。つぶらな瞳とシステマチックにビルドアップしたボディを誇る、いわゆる、期待の星だ。

前年秋のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げたナショナルチームにあって、将来性を買われて今季初選出された。2019年の同日本大会を見据え、本人は「ここで終わりにしないためにも、100パーセントの力を出して次に繋げたいです」と意気込んでいた。

「迷ってしまうといいプレーはできないと、このレベルになると改めてわかる」

常に世界を見据えてきた。後に京都工学院高と名前が変わる伏見工高の主将時代から、20歳以下日本代表などの上位層のグループに選ばれていた。列強国の巨躯と対峙するなかで、相手の死角へ駆け込む意識を磨いた。「当たって(相手を)飛ばすプレーは、世界では通用しない。(国内でも)選択しないようにしています」と、10代の頃から言っていた。

帝京大学に入ると、司令塔であるスタンドオフの位置で1年時から主力になった。強気の走りで魅せた。いまはトライ後や相手の反則をもらった際のゴールキッカーも務め、直近の春季大会では約9割の成功率を記録。前年までに、チームの大学選手権の連覇記録を7へ伸ばした。

岩出雅之監督率いる常勝集団は、選手に専門家を招いてのメディアトレーニングを施している。松田も若者特有の歌舞いた発言はほぼせず、意見を伝え終わったら、にっと、笑顔を作る。人と人との距離の取り方は現代日本の「大人」にとっては心地が良く、選手の礼節にシビアな列島の楕円球ファンにも絶対に嫌われない。

それでも実際は、感情の起伏とも縁が深かろう。

伏見工高での引退試合となった、2013年1月3日の全国高校ラグビー大会準々決勝でのことだ。

試合前から泣いた松田は、臀部の肉離れのために巻いていたテーピングをずっとひらつかせ、優勝する大阪の常翔学園高に肉薄。26―27と屈し、また泣いた。

会場である大阪の花園ラグビー場のロッカールームを出ると、ライトやらカメラやらICレコーダーやらに囲まれた。目を開けられないまま、声を絞っていた。

「1点差で負けた悔しさを忘れずに、絶対、日本代表になって、この場所でプレーしたいです」

 

アスリートの素顔は、「オフショット」にはない。グラウンドのなかにある。

今度のジャパンで副将を務めた立川理道も、「ラグビーをしている時は怖い、厳しい顔をしていると言われる。でも、その時の顔の方が自分としては好きです」と話したことがあった。

本当の松田力也の素顔も、きっと、試合中と練習中にしか見られまい。

6月18日に愛知の豊田スタジアムであった対スコットランド代表1戦目で、松田は前半15分に登場していた。松島の故障により急きょ出番を得た格好だったが、「自分自身は納得していないですけど、周りに落ち着いていると評価してもらえたのはすごくいいことだと思うので、次はもっとさらに余裕があるなと言ってもらえるように、いいプレーをしていきたいです」と振り返っていた。

そして、公式で「34073人」のファンが集った味の素スタジアム。

前半19分には、自陣ゴール前左から好走する。まず、パスをもらった瞬間、目の前の相手の背後を抜け出す。ハーフ線付近まで駆け上がり、目の前に並ぶ2人のタックラーを見据える。「好きな間合い」を保って、である。

向かって左側にいる選手の虚を突くステップで、左大外から右方向へ切れ込む。2人とも巻き込み、着実にボールを確保する。

攻めはこのまま逆側で続き、スクラムハーフの茂野海人のトライが決まる。

最後の最後はその走りで失点を招いた松田だが、鮮烈な印象も残していたのだ。

戸惑っていても冷静であるように見られる顔つき、格上を相手に力を発揮する勝負根性。これが松田力也の素顔であろう。

ちなみにこのゲームの前日には、「無理にいいプレーを、いいプレーをと考えてしまうと緊張する。できることをやろうとしています。それは大学で監督の方から話されていることなので、それが生きていると思います」と話していた。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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