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July 01 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

高桑早生、進化の一歩手前 ~パラ陸上~

2カ月後に迫ったリオデジャネイロパラリンピック出場が、ほぼ確実視されている高桑早生(たかくわ・さき)。4年前、20歳で初めて出場したロンドンパラリンピックでは、100m、200mともに日本人で唯一のファイナリストとなり、大観衆の前で世界トップランナーの一人としてロンドンの風を切った。あれから4年が経とうとしている。リオに向けて、最終調整に入った高桑が今、課題としているものとは――。

アジア新から1カ月後、新たに浮上した課題

昨シーズン、メインとしている100mで一度も自己ベストを更新することができなかった高桑だが、パラリンピックイヤーの今シーズンは、着実に調子を上げてきている。GWに行われた日本選手権では、13秒59をマーク。2014年7月以来の自己ベスト更新を果たし、アジア記録保持者となった。

高桑早生

日本選手権で自己ベストをマークし、アジアの頂点に立った。

 

「練習で取り組んできた動きが、しっかりとレースでも発揮できているという感覚があったので、走りながら自己ベストが出ている感触はありました」
そう笑顔で語る高桑の表情からは、リオに向けての自信が窺えた。

1カ月後の6月のジャパンパラ競技大会(ジャパラ)でも、13秒62と安定した走りを見せ、リオ出場に、一歩前進するレースとなった。「調子も上向きで、いい感触を得ているので、この後もしっかりと調整していきたい」と高桑もインタビューに答えている。だが、表情や声に日本選手権の時のような明るさはなかった。

実はその裏で高桑には、ある課題が浮上していた。
「走りが安定した分、慣れが出てきてしまって、思い通りの走りができていないんです」

力強い走りを実現させるため、2年ほどかけて取り組んできたことの一つが、義足側の脚の動き。体全体で強く押し込むことで、地面との接地時間を長くし、大きな反発力を生み出す。その反発力を利用して、ストライドの広い、大きな走りを目指した。日本選手権で自己ベストをマークしたのは、その動きがほぼ完璧に仕上がっていたからだった。

高桑早生

大きなストライドでのびやかに走り抜ける高桑選手。

ところが、日本選手権後、高桑は自分の走りにいい感触を持てなくなってしまった。接地を強く意識しすぎるあまり、今度は脚を後ろへと大きく蹴り出すような走りへと変化してしまったのだ。そうすると、脚が後ろへと流れてしまい、推進力の妨げになる。

 

高桑はこう説明する。
「接地時間を長くして、ストライドを伸ばす動きというのは、もう意識をしなくても自然にできるまでに体に染み込んでいるんです。つまり、自動化されたということです。それなのに、さらに意識し続けたことで、その動きが強調されてしまい、全体的な走りのバランスが崩れてしまったんです」

そこで、ストライドを伸ばすのではなく、脚の回転を速くすることに、より意識を置くようにした。そうすると、義足側の脚の接地時間が短くなり、健足側の脚の地面をとらえるタイミングを早くする必要があるという。

しかし、一度体に染みついた動きをそぎ落とすことは、容易なことではない。高桑は、今の自分を「手垢の付いた走り」と表現する。

「日本選手権までは、“自動化”された動きだったのが、今は“癖”になってしまったんです。“自動化”と“癖”とでは、まるで違う。日本選手権では走っていて気持ちが良かったけれど、今はその感覚がない。もっと前で踏み込む動きができていたはずなのに、というモヤモヤした感じから抜け出せないでいるんです」

そんな中でも、ジャパラでは13秒台をしっかりと出している。それについては、高桑自身も手応えを感じているようだ。

「どんな状態でも、13秒台を出すベースが、今の自分にはあるな、と感じています。あとは、そこに何を上乗せするのか。今の課題がクリアできれば、もう一段上のレベルにいくことができる。そう信じています」

高桑が言う“手垢”が取り除かれた時、彼女の走りはさらに進化を遂げるに違いない。今はその道半ば。2カ月後、リオの地で会心の走りが見られることを期待したい。

高桑早生

リオの地でも、会心の走り、そして満面の笑みを期待したい。

 

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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