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July 16 2016 By 向 風見也

サンウルブズ&サモア代表のトゥシ・ピシ、日本を離れるカウントダウン。

34歳のラグビー選手であるトゥシ・ピシが、6年間もプレーした日本を去ろうとしている。

目下在籍中のサンウルブズは2016年7月13日現在、国際リーグのスーパーラグビーの試合をあと1つ残し、南アフリカへ遠征中である。

 

 

先の6月に34歳となったピシは、これまでいくつものジャージィに袖を通してきた。

サントリー入り前にはニュージーランド州代表選手権に出るノースハーバー、ニュージーランドからスーパーラグビーへ加わるクルセイダーズ、フランスのトゥーロンを渡り歩いた。来日後は、これまたスーパーラグビーのハリケーンズでも期限付きでプレーしている。

スタンドオフを本職とする。身長183センチ、体重93キロの体躯で、守備網の目の前まで駆け上がる。パスを受け取るや、ナイフのステップを繰り出す。抜かれまいとする相手がさらに間合いを詰めたら、隣の味方とのパス交換でその背後を突破する。相手にとってはやっかいな、走り屋兼司令塔だった。

サントリーでは時にスーパーサブとして、時に先制打を放つ先発要員として、ひたすら持ち味を発揮した。

環太平洋の真夏を想起させる太陽の笑み、上腕に刻まれたタトゥ、何よりランを軸にした多彩な攻めで、楕円球ファンを沸かせた。

グラウンドの外では、どこまでも献身的だった。

ピシにパスを出すスクラムハーフの日和佐篤に「チームのために一生懸命だったと感じます」と、ピシから球をもらうインサイドセンターの中村亮土には「コミュニケーションをよく取ります。練習中のプレーから、休日に何をしていたかまで」と尊ばれた。サントリーの日本代表経験者から、ひたすら賛辞を送られたのだ。

 

 

万事に備える。それを、流儀とする。久々のスーパーラグビーの舞台を控えた1月も、その一環でオーストラリアへ渡った。

サントリーで指導を受けた、元日本代表ストレングス&コンディショニングコーディネーターのジョン・プライヤーを訪ねたのである。マンツーマンのトレーニングを通し、身体を追い込み、精神を整える。

日本から初参戦したサンウルブズへ加われば、「ストラテジーリーダー」の1人となる。戦術略を皆に落とし込む、首脳陣とのパイプ役を担うこととなった。

「色んなメンバーが集まっているなかで、まず大事なことは皆が同じ考えを持つこと。グラウンドでやってゆくなか、色々な感触を掴んでいきたいと思っています」

開幕から約4週間前の始動とばたつくクラブにあって、初日の練習から自然とリーダーシップを発揮した。

「チームに加入したきっかけはともかく、最初の試合に向けてのプロセスを充実させたい」

東京にある辰巳の森ラグビー練習場では、しばしマーク・ハメットヘッドコーチや堀江翔太主将らと青空会談をしていたものだ。

「新しい組織。試練もあると思います。ただ、戦う者として試練に立ち向かう。スター選手がいようがいまいが、結束して同じ方向へゆく」

本番での奔放に映るパフォーマンスと、準備段階で垣間見える実直さ。この2つを貫き、11試合で出番を得た。

 

 

「気負いがありました」

こう語ったのは、5月7日の東京は秩父宮ラグビー場。第11節でフォースに22―40と敗れた直後のことだ。いまだ1勝だった新興グループの、普遍的な課題を説くようだった。

「自分たちのプレースタイルを信じなければならない、という気持ちはあった。それが実現できている時は上手く戦えるので、最初から一貫してそうできるようにしたい」

スタンド下の取材エリア。柵の向こうでジャーナリストが行きかうなか、カウントダウンも始めていた。

あともう少しでアジアの島国を離れるという、センチメンタルに満ちた、カウントダウン。

――別なステージへ進む理由について、語ってください。

「その決断は、早い段階でありました。タフな選択でしたが、いずれにせよ日本を離れるつもりでした。サントリー、日本でプレーできたことには感謝をしています。ただ、新しいチャレンジも楽しみにしています」

――残りのゲームで、何を成し遂げたいですか。

「全ての試合でできる限りいいプレーをして、できる限り貢献する。それが自分の目標です。あと何試合かしかないからどうこうではなく、毎試合、ベストを尽くす」

 

 

シーズン終盤の7月2日、またも秩父宮に姿を現した。今度は試合に出るためではなく、試合を観るためにだ。

ワラターズとの第15節を前に、ギプスをはめていない方の右手でサンウルブズのメンバーと握手を交わす。そう。左手を負傷していた。惜別のプレーを示せぬまま、この国を離れざるを得なくなった。

――決まっていることとはいえ、寂しさはありませんか。

「もちろんです。これから感情的にもなるでしょう。しかし、それはあまり考えないようにしています」

ウォーミングアップをグラウンドレベルで見届け、12―57の敗戦に悔やんだ。

サンウルブズが南アフリカへ渡るなか、国内所属先だったサントリーでリハビリとジムワークを重ねる。感傷的にならぬよう、次の仕事の仕込みに取り掛かるのだ。

今度は、イングランドのブリスドル・ラグビーで才気を放つ。そのための「ベスト」を尽くす。そのための「ベスト」を、ただただ尽くすのである。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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