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July 24 2016 By 向 風見也

持ち味は「人」。サンウルブズ初代ヘッドコーチ、マーク・ハメットの指揮官像とは。

国際リーグのスーパーラグビーに今季初参戦したサンウルブズでヘッドコーチとなったマーク・ハメットは、開幕前、期待と不安をもって迎えられていた。

スーパーラグビーは、ほぼ週に1度のペースで強豪国のプロクラブと試合をするステージだ。

2015年秋のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げた日本代表が、2019年の同自国大会に向けて強化を促進させる。それを主目的とするサンウルブズに来たとなれば、どんな指導者でも国内愛好家の関心を集めるものだ。

もっとも、2014年に参戦が決まったサンウルブズは、名称決定前の2015年には消滅の危機に瀕していた。

当時、この組織のディレクター・オブ・ラグビーを務めていたのはエディー・ジョーンズ。日本代表のヘッドコーチとして、ワールドカップ直前の宮崎合宿を指揮していた。

あの時、1日3回以上の練習、たるんだように映る選手へのジョーンズの激昂が当たり前となったキャンプ地に、サンウルブズを運営するジャパン・エスアール側がチームの説明に訪れた。雇用契約の遅れと相まって、日本代表勢は契約に及び腰となった。

ジョーンズがイングランド大会後に日本代表の仕事を辞すと発表した2015年8月下旬からは、組織の存続と新ヘッドコーチの選定に話は進む。しかし、2015年のスーパーラグビーが閉幕したこの時期、実績のあるコーチに翌年度の予定がないはずがない。

選手やアシスタントコーチとして関わったクルセイダーズで7度の優勝を経験した1972年生まれの元ニュージーランド代表プレーヤーは、ヘッドコーチを務めたハリケーンズでは9、7、11、7位と中位以下に低迷。現地報道では、主力の離反などの黒いキャリアも明かされていた。

 

果たして、「ハマー」ことハメットヘッドコーチは、極東に集まった男たちと信頼関係を築いてゆく。

「選手の意見を引き出したい」とする堀江翔太主将は、開幕から約3週間前となる2月中旬の最初の強化合宿のさなか、ミーティングでのボスの言葉に感銘を受けた。

「ここでは、どんな発言をしても間違っていることにはならない。どんどん意見を出してほしい」

寒風吹く愛知県内のグラウンドで、ハメット本人も「自分からだけの発信で、それを信じてもらえなかったら、ごく平均的な出来高に終わってしまいます」と呼応。先んじて、同じ代表組の稲垣啓太に「選手に自分から考えるよう、コーチ陣の方から促してほしい」と伝えられていた。

着任当初はやや硬直した面持ちかもしれなかったハメットだが、時を追うごとに生来の大らかさを覗かせる。自分を取り囲んだ複数の記者のうちの1人に冗談を交えた問いかけをされては、大きなだみ声で「ハハハハハ!」と笑った。

勝負に挑む際の戦略の構築は、田邉淳アシスタントコーチや一部主力選手による「ストラテジーリーダー」という集団に委任した。攻防の起点であるスクラムの練習時は、腰を落として大男同士の組み合いを凝視。近代ラグビー界では珍しく専門コーチを置けないチーム事情にあって、日本代表時代の練習を採り入れる選手の試行錯誤を見守った。

4月23日、東京は秩父宮ラグビー場におけるジャガーズとの第9節で、36-28と初白星を掴んだ。ロッカールームでは、缶ビールを何度も一気飲みしたという。

1試合の出場に終わった井上大介は、こう証言する。

「ハマーは選手と一緒にお酒も飲むし、よく声もかけてくれる。選手の家族や彼女も大事にする。言わなあかんと思ったことしか言わないで、あとはこちらに任せてくれる」

 

シーズンは1勝13敗1分で終えた。故障者の続出、遠征に際する準備の乱れと、その時々で出現する障壁を乗り越えて、どうにかチームのプライドを保った。

今回が初来日とあって「いまは選手を吟味している状態」と口にした序盤戦は、堀江ら主力を連投。中盤戦に差し掛かると、ホームゲームの勝負どころで好調なベテラン選手を「先を見据えて」と交代せざるを得なくなった。

6月には日本代表のヘッドコーチ代行を務めたが、6月18日、愛知の豊田スタジアムでのスコットランド代表戦では4人の控えを残したまま13―26で屈した。一方で、相手反則からの速攻でチーム初のトライを導くなどしたスクラムハーフの茂野海人を、後半8分で退けた。足の先を痛めたからだというが、当事者によれば「自分の判断ではないので…。試合に関しては、出られる限りは出たい」。続く25日の同カードでも、1点リードで迎えた後半21分に茂野がアウト。16―21で屈した。

ハメットは自身の采配に関する質問に逃げも隠れもせず、率直な口ぶりで事情を明かしていた。白星を逃すなか、どうにか明るい言葉を振り絞った。

5月14日、準ホームにあたるシンガポールはナショナルスタジアムでの第12節。前年度3位のストーマーズを追い詰めながら、終盤に17-17と追いつかれた。「きょうは選手たちのパフォーマンスを誇りに思います。ひいき目に見ているかもしれないですが、我々の方が勝っていた」と言った。

 

戦術家、勝負師というより、人格者としての色が濃いようだった。関係者やファンには、「この状態で引き受けてくれたことがありがたい」と謝辞を述べられる。

そう。サンウルブズのファーストシーズンでは、戦う以前の問題もあった。それについては、選手も実名で辛口提言をしてきていた。

結果責任が問われづらいなか、ハメットは、ただただ感謝されてこの国を去るのである。

次のシーズンは、スーパーラグビーのハイランダーズでアシスタントコーチを務める。「これまで自分の人生で、何を得たいかを考えて行動しました。いま考えているのは、アシスタントコーチとしてコーチングに密に関わりたい」とのことだ。

「ヘッドコーチになると、どうしてもマネジメントのことなども考えなければならない」

過去の経歴を知ってか知らずか。スポットコーチとして国内の活動に関わった箕内拓郎は、「ハマー」への印象をこう語った。

「ヘッドコーチとして、本当に、タフな経験をしてきたのだと思います。(苦しい条件下で)常に、ポジティブですから」

小柄で苛烈な勝負師のジョーンズは、表面的な「人柄」とやらと職務能力はイコールで結ばれないことを強引かつ鮮やかに証明した。かたやハメットは、他者と仕事をする際のふるまいの大切さをいかつい体で示した。

日本代表の新しいヘッドコーチには、2016年度までハイランダーズを率いたジェイミー・ジョセフが着任する。サンウルブズの次の船頭役は、まだ、決まっていない。

マーク・ハメットHC

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

向 風見也 Facebook Twitter Blog

1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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