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July 29 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

すべては“勝つべき時”のために ~ゴールボール~

7月22~24日の3日間にわたって、足立区総合スポーツセンターでは「ジャパンパラ ゴールボール競技大会」が行われた。約1カ月後に迫ったリオデジャネイロパラリンピックで連覇を目指す女子日本代表にとって、本番前の最後の実戦となった今大会。果たして彼女たちが掴んだものとは――。

イスラエルの集中砲火で3失点

今大会、出場したのはリオに出場が決定している日本とイスラエルに加え、10代、20代を中心に構成された、今後に期待が寄せられる日本Bチームと韓国の4チーム。2試合ずつの総当たり戦で行われた予選リーグでは、6戦全勝の日本が1位通過、そして4勝2敗でイスラエルが2位通過し、最終日の決勝に駒を進めた。

日本とイスラエルにとって、今大会は単なる親善試合ではなかった。実は、約1カ月後のリオデジャネイロパラリンピックの初戦と同じカードとなっているのだ。それだけに、特に決勝は、両チームにとって重要な意味合いを持っていた。

ジャパンパラ ゴールボール競技大会 2016

一カ月後の“本番”で、初戦で顔を合わせる日本とイスラエル。

その決勝、日本はセンターに浦田理恵(うらた・りえ)、ライトに小宮正江(こみや・まさえ)というベテラン勢を置き、レフトにはロンドンパラリンピック以降、急成長を遂げてきた若手の一人、欠端瑛子(かけはた・えいこ)をスタートで起用した。

「Quiet please. Play!」というレフリーのコールとともに試合が開始されるや否や始まったのは、イスラエルによる欠端への猛攻だった。なんと約10分もの間、イスラエルからのボールは、すべて欠端に投げ込まれた。まさに“集中砲火”である。最も経験値の浅い欠端に狙いを定めたのだ。

すると前半2分、イスラエルのライトから投げ込まれたバウンドボールに欠端がうまく合わせることができず、彼女の脚に当たったボールは後ろへと跳ね返った。ライトの小宮が勢いよくスライディングでカバーし、なんとか止めたように思われたが、ボールはわずかにゴールラインを割り、イスラエルに先制を許した。

「これが決勝なんだ、と思ったら、緊張してしまった」という欠端。前日までの予選リーグとは異なり、決勝という独特の雰囲気が彼女の感覚、動きを鈍らせていた。

前半3分、またもライトからのバウンドボールが欠端を襲い、膝に当たったボールは再びゴールへと吸い込まれた。そして前半も残り1分半となったところで、今度は浦田の足先に当たったボールがゴールへ。イスラエルに大きな3点目が入った。

前半終了間際に、小宮の移動攻撃で1点を返した日本だったが、イスラエルに試合の主導権を握られたまま、1-3で前半を終えた。

ジャパンパラ ゴールボール競技大会 2016

集中砲火を浴びる、欠端瑛子選手(右)。前半は苦しい展開となる。

若手続投の裏にあった意図

「後半は、欠端に代えて、温存していたエース安達阿記子(あだち・あきこ)を入れてくるに違いない」

そんな大方の予想は外れ、後半に入ってもメンバーの交代はなかった。前半で狙われ続け、2失点を喫した欠端は、体力的にも精神的にも厳しいように思えた。それでもあえて後半もスタートで起用したのは、なぜなのか。そこには、パラリンピックを見据えた指揮官の狙いがあった。

市川喬一(いちかわ・きょういち)ヘッドコーチ(HC)は、欠端続投の理由をこう語った。

「確かに、本来であれば代えるべき場面ではあったと思います。ただ、あそこで代えてしまったら、『あぁ、ダメだった』で終わってしまうと思ったんです。試合は常に展開が変わっていくもの。その中で修正をかけられるようにならなければ、うまくはならない。試合中に何を感じ、どう自分を分析するか。そういうことを実戦の中で、彼女に感じさせたいと思いました」

そんな指揮官の思いを、欠端も感じ取っていたのだろう。後半に入っても、イスラエルから集中砲火を浴び続けたが、必死に耐え続け、追加点は許さなかった。そして後半2分、欠端は安達に後を託してベンチに下がった。

ゴールボール欠端瑛子選手

前半に続いてターゲットとされるも、必死に耐え、流れを変えようとする欠端選手。

お互いに得点することができないまま、試合は終盤へ。すると後半11分、安達が技ありのゴールを決めた。イスラエルからのボールを安達が体で防ぐと、ボールはコートの外へ。レフリーの笛が鳴り、試合は一度止められた。そしてレフリーからボールを受け取るや否や、安達は忍び足で自分のポジションであるレフトから、センターとライトの間へと移動し、「Quiet please. Play!」というレフリーのコールとともに、イスラエルのセンターとライトの間を目がけて投げ込んだ。勢いよく転がっていったボールは、センターの手を弾き、そのままゴールへと吸い込まれていった。

「狙い通りのゴールでした。イスラエルのセンターは、中央からあまり動かないというデータが出ていたので、手先、足先に当たれば、必ず弾くだろうと思っていたんです」

リスタート時の移動は、レフリーのコールで足音がかき消されることもあり、相手にボールの出どころをわからなくする効果的な戦術の一つ。安達の頭脳プレーが光る一投によって、日本は1点差に迫った。

しかし、反撃もここまでだった。結局、追いつくことができず、日本はパラリンピック前の最後の試合を白星で飾ることはできなかった。

だが試合後、市川HCの表情は明るかった。

「やりたいことは100%できたので、満足しています。もちろん、勝てれば一番良かったとは思いますが、今大会の一番の狙いは勝つことではなく、パラリンピックに向けてのデータ収集。欲しかったデータはすべて取ることができました」

聞けば、「日本の全てを見せたわけではない」という。

では、本番でのポイントは何なのか。指揮官はそのひとつに「バウンドボールの処理」を挙げた。

「地面を這うボールは、少しずれていても止めることができるんです。でも、高く弾むボールはその少しのズレが命取りになる。だから、最初の出どころを掴むことが重要なんです。どの選手がどういうバウンドを投げるか、その特徴についてはしっかりと伝えたいと思っています。ただ、視覚からの情報がない中で、選手が試合中にどう感じるかが一番重要です。情報に惑わされることなく、選手が感じたままに動くということを大事にしていきたいと思っています」

エースの安達もまた、今回の敗戦をプラスに捉えていた。

「優勝できなかったことは、やっぱり悔しい。でも、この負けがパラリンピックに向けたいい引き締めになったはずです」

勝つべきは、パラリンピック本番。ディフェンディングチャンピオンの目覚めは、約1カ月後だ。

ゴールボール安達阿記子選手

日本代表を引っ張る、エースの安達阿記子選手(中央)。この敗戦を本番に生かすことを誓った。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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