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September 07 2016 By 向 風見也

ラグビートップリーグ。サントリー入社2年目でキャプテンの流大は、悩みの最中?

ラグビートップリーグ。サントリー入社2年目でキャプテンの流大は、悩みの最中?

一時的に降ったシャワーの雨が上がり、空は濃紺色に染まっていた。

2016年9月3日、東京は外苑前にある秩父宮ラグビー場。国内最高峰であるラグビートップリーグの第2節の試合が終わった。サントリーがホンダに、50-0で快勝した。

黄緑色の芝。蛍光イエローのジャージィをまとう勝利チームが、円陣を組んでいた。

ここから新任主将としての仕事をするのが、後半21分に退いていた流大だった。

自分よりも背の高い男たちと肩を組み、澄んだ瞳を開き、時折、口角を上げる。「ちょこっとだけベンチで考えた」という、締めの言葉を発す。

いったんロッカー室へ戻ると、蛍光灯のついた会見場へと足を運ぶ。

新任の沢木敬介監督とともに椅子に座り、整理された言葉で勝利談話を重ねる。帝京大時代に専門家のメディアトレーニングを受けていて、頭のなかでメッセージを整理するのは苦手ではない。

自分なりに感じた試合展開を思い返し、「前半、うまくいかないことを経験できたこと、後半にそれを修正できたことも良かったです。次は前半からサントリーのラグビーができるように準備をしていきたいです」と述懐した。

この夜、24歳の誕生日を翌日に控えていた。

2010年度からの3シーズンで5つの国内タイトルを獲得した名門にあって、入部2年目で主将となっていたのだ。

 

 

姓は「ながれ」、名は「ゆたか」と読む。出生地の福岡から熊本の荒尾高へ越境入学し、帝京大進学を機に上京。最終学年時には主将として、大学選手権6連覇を果たした。

それだけではない。シーズンを締めくくる日本選手権では、トップリーグ勢を破った。2015年2月8日、芝のすっかり禿げた秩父宮で、古豪のNECを31―25で破る。

攻撃の起点たるスクラムハーフとして、真骨頂を示した。密集の起点という狭いスペースに立ちながら、その前後の広いスペースを感じて試合を運んだのだ。

相手ウイングであるフィジー代表のネマニ・ナドロが前のめりになったと見るや、その背後をキックでえぐる。「ポジショニングを見ることができた」。連続攻撃のさなかに向こうの反則を誘えば、一転、キックではなく速攻を仕掛ける。「相手の出足、動きを見て、ちょっと変化を加えました」。公式戦での学生の社会人撃破は、9シーズンぶりの出来事だった。

亀井亮依。2016年度の帝京大主将として8連覇に挑む青年は、公式で身長166センチ、体重71キロという山椒のOBをこう思い返す。

「流さんは、一言、一言が重く、深い。周りを巻き込む。日々、気持ちの乗らない練習があった時も、皆の気持ちを上げてゆける。自分もそういう力をつけていかなければいけないと思います」

一体、どのタイミングで手綱を締めていたのか。本人は即答する。「それは空気でわかります」。日々、心配りの感性を研ぎ澄ませ、ここぞの瞬間にベストな行動を取る。サントリーの沢木監督が「僕はリーダーって、センスだと思うんですよ」と船頭を任せるのは、自然な流れかもしれなかった。

「あくまで僕の考えですけど、リーダーの素質のない人にいくらリーダーになれと言っても、リーダーにはなれない。そんななか流にはリーダーの素質がある。意志を持ってトレーニングをして、周りにも言うことを言う」

 

 

晩夏、当事者は、新たな悩みに直面していた。

学生時代と社会人時代では、主将として引っ張るべき対象がまるで違う。同じ寮で暮らす後輩のみならず、年長者、プロフェッショナル、日本代表の常連、海外出身者と、さながらラグビー選手のサラダボウルにあって、「空気」を見定めているのだ。皆のテンションが高まっていないと察知しても、伝えるべき言葉の選択に詰まってしまう。

50-0で大勝したホンダ戦でも、談話の通り、前半はぎくしゃくした感を残していた。具体的には、攻撃の勢いを引き出せなかったという。

さらには主将といえど、レギュラーは確約されていない。この位置には前年度まで、南アフリカ代表のフーリー・デュプレア、日本代表経験者の日和佐篤が入っていた。デュプレアはすでにスパイクを脱いだが、日和佐はホンダ戦でも途中出場。テンポアップに成功した。

会見中の沢木監督は、2人のパフォーマンスを振り返りつつ、隣の流を見やるのである。

「流も前半からいいビジョンでキックを蹴っていましたが、きょうに関して言えばもっとボールを持っていてもよかった。後半は日和佐が入ってうまくテンポをつくってくれた。ここからお互い、いいチャレンジが続く。きょうも、いい勉強ができたと思います。ね」

ここまで開幕2連勝中だが、流もただただ気を引き締める。

「正直、いいパフォーマンスを出せていないのが自己評価です。一方で日和佐さんはいいサントリーのラグビーをつくれていた。日頃の練習からしっかりとコンペティションをして、負けないようにやっていきたいと思います」

 

 

31歳のチームメイトで日本代表の畠山健介は、先輩選手に檄を飛ばす際の後輩主将に、どこか配慮の色を感じた。

先代主将の真壁伸弥が身体を張ることに主眼に置いていたことから、「皆を置き去りにする勢いで突っ走る、あれはあれでいい主将でした」とし、「流はまた違うタイプだとは思いますけど、本人としてもチャレンジのシーズン。しっかり、チャレンジしてもらいたいです」と続けた。

そう。酒量販店対象の営業マンとしても「要領よく、数字を出す」という流は、あえて「空気」を読まないフェーズへ突入しかかっているのだろうか。

沢木監督が本人のいないところで「悩んで、その分、成長してもらえればいい」とエールを送るなか、覚醒前夜の当事者が言う。

「いま、思うのは、プレーで、引っ張ること。いろいろと考えすぎていた部分もあるので。悩むことは後々の成長にはつながるでしょうけど、そのウェートが多すぎるとプレーが本当に良くなくなってしまうので。皆もサポートしてくれますし、まずはしっかりとしたパフォーマンスで、チームを、前に出す」

物語の続きは、秋の深まる天然芝の世界で。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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