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October 20 2016 By 向 風見也

「アフロ」でも「五郎丸」でもなく。NECラグビー部の瀧澤直主将が示す元気と根気とは。

千葉県のラグビー協会は、柏の葉公園総合競技場の自由席エリアに「タッキーアフロシート」を設置した。我孫子市で活動するNECの主将、「タッキー」こと瀧澤直を応援するエリアだ。

2016年10月15日、日本最高峰ラグビートップリーグの第7節がおこなわれた。「タッキーアフロシート」への参加者は、瀧澤本人のサイン入りクリアファイルがもらえる。おかげでバックスタンドには、色とりどりのアフロのかつらをかぶった観客が集まった。

緑と白のジャージィに背番号「1」をつける「タッキー」は、いつだってウェーブのかかった長髪を振り乱す。本当は天然パーマなのだが、「アフロ」のキャンペーンにぴったりの個性だった。

出席が義務付けられている試合後の公式会見では、憎めぬ表情で丁寧に語る。

「恥ずかしさと嬉しさがありました。僕がアフロなのかどうかは別として、注目して応援していただけているのは光栄です。これは(参加者にも直接)お話ししたのですが、恥ずかしくなければ、余裕があれば、他の会場でもやっていただければなと思いました」

試合は14―33で敗戦。対するサントリーの開幕7連勝を許し、戦績を2勝5敗とした。

 

身長173センチ、体重115キロの30歳。スクラム最前列の左プロップを務めながら、懸命な走りとタックルを重ねる。

愛知県の千種高から早大の理工学部に入ると、体育会のラグビー部で5年間、プレー。卒業後はリクルートに就職して競技から離れたが、4カ月でNECに転職。再び楕円球を追うようになると、娯楽性を請われるようになった。

シーズン終了後のオールスターゲームは、華試合の要素が強かった。瀧澤は出場するたびに、普段は蹴らないゴールキックに挑んだ。

両手を胸の前で合わせ、腰を落とし、ポールを見定める。場内を沸かせながら、右足を振り抜く…。昨秋のワールドカッイングランド大会でスターとなる、五郎丸歩のフォームを真似ていた。

「見た目がエンターテイメントなので、皆もそう扱ってくれる。自分の理解したうえでがんばりたいなと、思っているところです」

NECの主将としては、我慢の日々を過ごす。

就任1年目にあたる2014年度は、日本選手権で帝京大に敗戦。トップリーグ勢が大学生に屈したのは、9季ぶりのことだった。ワールドカップ後のフィーバーに沸く昨季は、リーグ戦で1勝しか挙げられなかった。

指導陣と選手との呼吸の不一致。怪我人の続出。チームの現状を誰よりも深く認識したうえで、瀧澤は記者会見に出続けた。

大敗した直後に「いいプレーができなきなかったことは悔しいですけど、この環境でラグビーをできたことには感謝しています」と言ったり、久々の白星を挙げて「お、勝つと拍手をしてもらえるんですね」とほほ笑んだり。

「会見での話を誰が(記事として)読むかわからない。弱いことを言って相手に自信をつけられても嫌ですし、チームメイトに『何だ、主将はネガティブに考えているんじゃん』と考えられてもあれですし」

どんな状況でも、元気と根気を絶やさない。下を向いていては、主将はできない。

 

「タッキーアフロシート」が企画されたホームゲームの後、会見場に集まった十数名の在京ジャーナリストに「たくさんお越しいただき、ありがとうございます」と発した。「あ、他の試合は地方でやられているんでしたっけ? そうですよね、やっぱり。ふふふふ。僕はわかるんですよ、そういう事情が」と続けた。

2016年度のNECは、クラブ改革を志している。新たに就任したピーター・ラッセルヘッドコーチは、06年からニュージーランドのインターナショナル・ラグビー・アカデミーでコーチ育成に尽力。2012年からの3年間は、イングランド・プレミアシップのニューカッスル・ファルコンズを率いてきた。

攻撃の方向性には明らかな芯が通り始めており、当事者の瀧澤もこう言うのである。

「うまく言葉では説明できないですが、いい方向に変わっています。今年は悩むことなく、ヘッドコーチの指し示す方向を信じて一生懸命やればいいだけだと思えるので。結果がついてこないのはピーター本人に申し訳ないのですけど」

司令塔は、あのワールドカップでプレーした田村優である。前年度まではゲームプランの構築まで任されることのあった「キング」を孤立させないのも、主将の仕事である。

「特にプレーの面で優がいいと思ったものは、尊重する。それ覆す理由や材料を、僕は持たないので。優の言う方向性をどう実行するかを考える。優の言う方向性を僕が大切にしているんだということを、チームに落とし込む。僕は僕で、優の言わないような気持ちの部分などを発信していく…。いまはそう、思えています」

 

日本ラグビー界は、危機的状況を迎えている。五郎丸や田村がプレーしたイングランド大会後のブームはとうに去り、今季7節までの1試合平均観客動員数は「4869人」。ちなみに昨季のそれは、史上最多の「6470人」だった。

数種類のラーメン店などが豊富なフードメニューを展開した柏での一戦も、公式で「4088人」。各現場の努力は明らかだが、「コアユーザーとライトユーザーの意識のかい離」という課題は横たわったままだ。日本代表の常連組の一部は、その状況を憂いて日本ラグビー協会との対話を要求。諸事の問題解決に神経を注いでいる。

2019年には、日本でワールドカップがある。「コアユーザー」に熱く支持される「タッキー」は、この状況をどう観ているのだろうか。

「プレーをしながら環境の改善に取り組む選手は本当にすごいですし、尊敬しています。僕にそういったことをできる余裕はないのですが、今回の髪のことをやって下さった機会を大切にしたりと、できる範囲のことはしていきたいかな、と思っています」

そう。どんな状況でも、元気と根気を絶やさない。

「選手であれば、日本代表になりたいというのは目標のひとつです。ただ、いまは与えられた状況のなかで、チームを勝利に導かなきゃいけない」

ひとつのラン、ひとつのスクラム、ひとつのタックルで、この国のスタジアムにつむじ風を起こさんとする。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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