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November 04 2016 By 向 風見也

外国人より当たりの「痛い」男、梶川喬介。日本代表デビュー目前の誓いとは。

外国人より当たりの「痛い」男、梶川喬介。日本代表デビュー目前の誓いとは。

初めてラグビーの日本代表に入った。試合4日前の実戦形式トレーニングでは、主力組に入ってプレーした。国際間の真剣勝負、テストマッチでデビューを果たしそうだった。

だからだろう。東京郊外にある練習会場、サントリー府中スポーツセンターから出てゆくところを、自然と数名の記者に囲まれた。

晴れ舞台への意気込みを訊く質問に、ちら、ちらと相手の目を見つつ、誠実かつ簡潔な談話を返してゆく。

「まだメンバーが誰になるのかはわからないのですが、コンビネーションを合わせる機会があれば、しっかりと自分の役割を出したいといまは思っています」

梶川喬介。福岡県出身の29歳。国内最高峰トップリーグで前年度準優勝した東芝に入り、7年目を迎える。ひたすら身体をぶつけ合うロックのポジションにあって、代表経験者と競い合って先発の座を保つ。このたび、満を持して初代表、との格好だ。

ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ率いるラグビー日本代表は10月31日、始動した。ワールドカップイングランド大会で3勝を挙げた昨秋のメンバーは、「諸事情」などで12名のみの選出となった。17名いる新顔へも、大きな期待がかかっている。

11月5日にぶつかるのは、そのイングランド大会で4強だったアルゼンチン代表だ。国際リーグのスーパーラグビーでは、日本のサンウルブズがアルゼンチンのジャガーズに勝っている。それでもニュージーランド出身のジョセフは「アルゼンチン代表のジャージィを着たら、彼らは違うチームになる」と断ずる。

――もし、格上とのバトルで初陣を飾るとしたら。

たたき上げのニューカマーは、自らの立場をこう断じた。

「一番は、自分のプレーにフォーカスを置いて、自分の仕事をすることだと思います」

 

ベースボール・マガジン社制作の「ジャパンラグビートップリーグ2016―17オフィシャルファンブック」上では、「身長188センチ、体重105キロ」。身長200センチ台も多い国際舞台のロックにあっては、明らかに小柄だ。

真骨頂は、表面的な「大きさ」に現れぬ頑丈さにある。低空飛行のタックルでランナーを仰向けにしては、すぐに立って次の仕事場を探す。攻守逆転すれば、防御の厚い場所へ先陣を切って突っ込む。「ワークレート(仕事量)を上げよう」という本人の言葉を形にすると、そのまま楕円球界の侍となる。

エリートではない。各年代の代表歴がないまま、全国クラスの実績を持たない福岡工大でプレー。同じ大学から東芝へ入った後の指揮官、冨岡鉄平の縁もあり、何とか東芝の入部テストを通過した。

和歌山県で高校教諭を務める吉田大樹さんは、現役時代にプレーした東芝の文化を「真面目」「素直さ」「練習のきつさ」と表したことがある。心身ともに辛い局面へ自ら立ち向かう1人ひとりの男が、トップリーグ優勝5回という実績をもたらしたのだろうか。

事実、梶川が入社した2010年時のロックのポジションでは、身長184センチの望月雄太、大学からラグビーを始めた大野均がレギュラーだった。数字や過去のキャリアに頼らず、愚直な仕事ぶりで出番をもぎ取っていた。

梶川の入社2シーズン目が大詰めを迎えていた、ある冬の日のことだ。

試合形式のセッションを終えると、この折に選手だった吉田さんがまず梶川に話しかける。その輪に当時の和田賢一監督が加わるや、自然と後輩の話をする。自分と一緒に控えの「Bチーム」に混ざった梶川の接点でのしつこさを、素直な口ぶりでアピールしたのだ。

「きょう、Aチームの球出しが遅れたじゃないですか? あれって、ずっと梶川が絡んでいたからですよ、きっと」

質実剛健の風土に揉まれ、愛され、控え目な梶川は信頼を掴んでゆく。仲間が「あれって」と口にしたくなる場面を、1つひとつ積み重ねたからだ。

この年度はわずか「1」だったトップリーグ(プレーオフトーナメントを含む)の先発機会を、2012年度には「7」に増やした。翌13年度はすべての公式戦で背番号「4」をつけ、2015年からは副将も任されている。

昨年までジャパンを率いていたエディー・ジョーンズヘッドコーチにも、一時期、水面下で興味を持たれていたようだ。3度のワールドカップに挑んでわずか2回しか負けていない辣腕の指導者が、サイズ度外視で無印の闘志を買ったのだろう。

もっとも当の本人は、代表待望論にはさして動じない。「言われ慣れていないというのもあって」と、かすかに相好を崩したくらいだ。

――個人的な目標はありますか。

「(東芝の)ロックはポジション争いが激しいポジションなので、まずは全試合、スタメンで出場することを目標にしています」

――その先にあるものを、イメージすることは。

「まずは東芝で勝って優勝するというのが先決なので、そのために、チームのために役割を果たすのが大切だと思っています」

かような問答が何度、あったことか。

 

同じ東芝の先輩ロックで、98度もテストマッチに出てきた大野は怪我で辞退した。メンバー発表前にあった梶川の即席インタビューの折、その縁にまつわる質問も飛んだ。

返事は、合宿へ行く前に大野から「楽しんでこいよ」と言われた、という、やはり誠実かつ簡潔な談話だった。

――代表に入った感想は。

「素直に嬉しく思いますし、この合宿で自分の足りないこともわかったので、もっと勉強していいプレーヤーになりたいと思います。理解度を上げていきたいです」

――本当は、ずっと日本代表になりたかったように感じますが。

「そうですね。ラグビーをやっている間、ずっと日本代表というものに憧れはあったので、いま、こうやって選んでいただけたのはすごく幸せなことに思います」

今回は2016年度のトップリーグで9戦中5勝4敗と、チームが苦しむなかでのジャパン入りだった。しかし、10月の2度のミニキャンプで候補選手と会話をしたジェイミー・ジョセフは、今回の遠征メンバーの選考について「自分で奮闘できる選手、自立した選手を選んだ」と説明する。

新体制下のチームは、集合してから事実上4日分のセッションを経て初戦を迎える。指示行動を全うする男に白羽の矢が立ったのは、ある意味、必然か。

――自らの役割は。

「速く起き上がって、速く次のポジショニングにつくという繰り返し。シンプルなことをしっかりとやり切りたいです」

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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