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November 12 2016 By 向 風見也

「明大卒1年目でリコーのレギュラー→日本代表」。松橋周平に自信を与えた客観視の力とは。

――気後れしていませんね。

目玉を光らせ、口角を上げ、松橋周平がきっぱりと言う。

「自分の強みを代表に選んでくれたのだから、自分の強みを出したいと思います」

ラグビー選手だ。年代別代表になった経験がないまま、2016年秋、初めて正規の日本代表に選ばれた。11月5日のアルゼンチン代表戦で、後半10分から登場する。国際間の真剣勝負、テストマッチでのデビューを果たした。突進を重ねた。

会場の東京・秩父宮ラグビー場で、確かな手応えを明かす。

「跳ね返されるかな、とは思っていたんですが、そんなことはなく。ただ、でかい相手に上から覆いかぶさって来られると…。この瞬間に(相手の体の芯から)ズレれば、もっと前に出られる。そこがわかったのは、いい勉強でした」

この午後に見つけた改善点と、その改善方法をクリアに振り返っていた。

 

雪深き長野で育ち、ラグビーと出会った。高校は千葉の市立船橋高に進んだ。当時の監督で、女子ラグビー界でも名の知れた小泉幸一から熱心に誘われたためだ。

「シンプルなことを言ってくれて、後は自分で…。努力することを教わりました」

千葉には全国大会の常連である、流経大柏高が屹立していた。そのため松橋は、目立った成果を残せなかった。それでも「将来は日本代表になりたいというモチベーションは、ずっと持っていました」。地区大会での活躍などにより、大学日本一優勝12回の古豪、明大の門を叩いた。「メイジは、憧れでした」。下級生の頃から、伝統の紫紺のジャージィを掴んだ。

注目度が高まったのは、2016年からだ。松橋はリコーへ入社すると、一気に階段を一気駆け上がってゆく。

ポジションはアスリートが集うナンバーエイトで、公式サイズ上は「身長180センチ、体重99キロ」。国際舞台にあっては決して大きくない。それでも果敢に球をもらい、相手の懐へぶち当たる。ぶち抜く。たとえ上背のあるタックラーでも、視界の下へ飛び込む鉄球は掴まえにくいのだ。

黒いジャージィの背番号「8」は、試合を重ねるごとに長所をアピール。国内最高峰トップリーグではルーキーながらレギュラーを獲得し、前半節9戦で8トライをマークした。1年目の選手では最多で、全体でも3位につけている。その流れで、11月に4つのテストマッチをおこなう日本代表へ加わったのだ。

明朗快活な学生選手が、一気にインターナショナルのステージに手をかける。

そのストーリーの裏には、いったい、何があったのか。それを知るには、雌伏期間に光を当てなくてはならない。

 

あれは、3年生から4年生になろうとしていた頃のことだ。

左ひざの半月板を痛めていた松橋は、直近のシーズンでは不完全燃焼。学生生活最後の季節を前に、手術に踏み切ることにした。出遅れを覚悟し、怪我の完治を優先した。

ただ復帰するのではなく、明らかに成長して復活したい。それを実行すべく心掛けたのが、プランニングとその都度のレビューだ。

復帰までの明確なプランを打ち立て、実行度合いを常にレビューした。その日の意識のありようや短期スパンでの目標など、漠然としがちな項目も確固たる情報として頭で整理。それを活かし、当初のプランをブラッシュアップしてゆく…。

「強くなって戻ってくる。その思いから逆算して、足りないものを…と」

戦線に戻った10月頃には、代表でも活かせる特別な力を手にしていた。

「ここで、自分を客観的に観られるようになったと思います」

ひとつのトレーニング、ひとつのゲームを受けて、課題の発見とその解消方法を自分で考えることができる。その自信があるからこそ、物おじせずに強者に立ち向かえるのだ。

「最近はマインドコントロールができるようになってきた。いまも毎試合、毎試合、楽しみで…」

10月31日からの代表合宿では、全体練習後にジェイミー・ジョセフヘッドコーチから1対1で助言を受けたりもした。ボスの描く画の中で持ち味をどう活かすか、自分なりにイメージしていた。

 

「いつになく緊張しているけど、わくわくもしている」

アルゼンチン代表戦を間近に控え、尾又寛汰が松橋の鼓動を耳にした。明大ラグビー部の1年後輩にあたる尾又は、入学時に寮で同部屋だった松橋と仲が良かった。

「ある程度は上下関係もあったんですけど、お兄ちゃん的な感じで。下の学年の部員を積極的にご飯に誘うとか、コミュニケーションを取りやすくすることをずっとやってくれていました。優しいだけじゃなくて、僕のプレーの悪いところも指摘してくれました」

だから、リハビリ中の松橋とも間近で接してきた。当の本人が「強くなって戻ってくる」と五感を研ぎ澄ませていたことを思い出し、こう、語るのである。

「食生活にも気を付け、意識を高くやられていた。いま代表に選ばれたことには『!』という声もあるかもしれませんが、僕のなかでは、マツさんならそれぐらいは行くだろうと思っていました」

ジョセフ率いる日本代表は、32名のメンバー選考に難儀してきた。前年のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げた際のメンバーは、「諸事情」などで12名のみの参画。新顔は松橋ら17名と多く、イングランド大会4強のアルゼンチン代表には20―54と大敗していた。

受難の時期。裏を返せば、いまは松橋が存在感を示す絶好機でもある。持ち前の客観視の力で、タフな30分の経験をどう転化させるか。

「いまの強みに関して、もう1個、引き出しを作る。すぐに色々とやろうとせず、1個、1個…と」

チームは27日まで、欧州を転戦する。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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