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November 17 2016 By 向 風見也

35歳で初の日本代表。ヤマハの仲谷聖史、ビンテージワインへの道。

ラグビー日本代表のヘッドコーチになったばかりのジェイミー・ジョセフは、2016年11月10日、ワイン発祥の地とされる東欧のジョージアで言った。

「ワインと同じで、プロップは熟成するほどいい」

2日後には、首都トビリシのミヘイルメスキスタジアムでジョージア代表とテストマッチ(国際間の真剣勝負)をおこなう予定だった。ジョセフが「ワイン」の喩えを出したのは、話題が山路泰生に及んだからだ。山路は31歳にして初めて代表のリザーブに入った苦労人だった。

プロップというポジションは、首や足腰の太さが求められる黒子役だ。8対8で組み合うスクラムというプレーで最前列の両脇へ入り、腰を落とし、相手のプロップと対峙。重圧をかけるタイミング、組み合う瞬間の肩や首の位置などをその都度調整してゆく。自分が力を入れやすい姿勢を保ち、相手を力の入れにくい姿勢にするためだ。力勝負に収まらぬ、センチ単位の駆け引きをする。

そのためプロップのスクラム合戦では、しばし「ワイン」よろしく熟練者の一日の長が見られる。ジョセフが言いたかったのはそういうことで、今度のメンバーには、山路の他にも「熟成」ぶりが請われるオールドルーキーがいた。

 

仲谷聖史。11月5日に東京の秩父宮ラグビー場で初のテストマッチを経験したばかりの35歳だ。アルゼンチン代表に20―54で屈したこの午後に続き、ジョージア代表戦でも左プロップとして先発する。

ジョセフは「前回、非常にいいパフォーマンスをしていたので、次のスターティングのチャンスを与えました」と説明する。スクラム自慢のアルゼンチン代表と伍していたと観て、連続起用を決めたという。

10月3日、ジョセフ体制下初の代表候補が発表されている。そこには名前のなかった仲谷だが、第2回合宿開始4日前の19日、「追加招集選手」となっていた。

10月31日に遠征メンバー入りがリリースされた際は、日本ラグビー協会を通じて「正直なところ、本当に自分なのかとまだ実感が湧きませんが(以下略)」とコメントした。

そして、ボスの「ワイン」発言があった11月10日。トビリシの滞在先で心境の変化を明かす。

「こうやって試合に出させてもらうようになったいまは、しっかりと自分のやることをやっていかなあかんな、と思うようになっています」

徐々に実感が伴ってきた。

 

大阪府立島本高出身。今度のジャパンの主将である堀江翔太を、同じ高校の4学年後輩とする。

立命大を経て2004年に入ったヤマハでは、2010年度、親会社によるチームの強化規模縮小に直面した。数名の移籍を受け、ライバルより10名以上は少ない36名でシーズンへ挑んだ。

「本当に選手がいなくなって、練習に入ってくれたコーチがアキレス腱を切ったり…。満身創痍でした」

当の本人も肩の故障に泣いた。下部リーグとの入替戦を迎えた時は、「(観客席で)ビデオを撮っていました」。ちなみにこの日のゲーム主将を務めていたのは、後にフランスのトゥーロンでプレーする五郎丸歩だった。

残留して迎えた2011年度、ヤマハが強化を再開する。その折にやって来た長谷川慎フォワードコーチは、サントリーでの現役時代に「スクラム番長」の異名を取った元日本代表プロップだ。最前列のみに依存しない、8人一体型の組み方を構築する。

仲谷もその教えを吸収する。初めて日本選手権を制した翌年度の2015年春には、長谷川コーチとチームのフォワード陣で、10日間で8つのクラブとスクラム練習のみをおこなうフランス合宿を敢行した。

故障などのため長らくレギュラーの座を離れた仲谷だったが、2016年、一気に出番を増やす。

実はこの年から、国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参戦していた。8月のトップリーグ開幕時は、スーパーラグビーのリーグ戦が終わって1か月ほどしか経っていなかった。

ヤマハで同じポジションを務める山本幸輝や高校の後輩であるパナソニックの堀江ら、多くの代表格はサンウルブズへ加わっていた。当該の選手は帰国後のコンディショニングに苦慮。かたや春先からじっくりと長谷川の指導を受けていた仲谷は、国内初戦から好調を保っていた。

「自分は怪我が多かったので、首脳陣からもいて欲しい時にいてもらえるようにと言われている。コンディションのピークを試合に持っていけるような体調管理をしています」

身長170センチ、体重105キロ。小さくとも芯の通った身体を活かし、スクラムでもタックルでも相手の懐の深部へ刺さる。仲谷が代表候補へ追加されるのに先立ち、長谷川のジャパンのスポットコーチ就任も公になった。

 

ジョージア代表戦当日。

日本代表の背番号「1」は、交替するまでの58分間、「(攻撃時は)両15メートルラインの間の持ち場で仕事をする」などの「自分のやること」に専心する。対戦国での怒号にも似た歓声を浴びながら、苦くて美味しいテストマッチに舌鼓を打つ。

スクラムは、幾度も押された。自分より16センチ、15キロ大きな対面のレバン・チラチャバら最前列の3名からは、「組んでからの第2波」の破壊力を感じた。

「対抗するには、ちゃんと(相手に)刺さっとかないけなかった…」

再確認したのは、凡事徹底の難しさだ。長谷川コーチの指導するスクラムにおいては、正しいフォームによる8人全体の連結が必須。そのため最前列の選手は、ただ自分が頑張るだけではいけない。組み終わった後のプレーを考えがちな後ろの選手へ、スクラムに集中するよう促さなければならなかった。

その声掛けが不十分と感じたか。仲谷は、内なる感触をこう思い返す。

「自分に余力があって、後ろからもっと圧力があって、(自分が味方と相手に)挟まれているというのが、いいスクラムなんですけど…。そうするまでには、もっと詰められる(向上できる)と思いました」

口を酸っぱくして、後ろから押してくれいう意味の組織内用語を伝え続ける。その大切さは、戦前からわかっていたはずだった…。

「ヤマハでも、毎回、言っていることなんです。やはり毎回、毎回、言わないと、意識が散漫になってしまうので」

過去には、グラウンド内外で豊穣な経験を積んできた。どのエリートにも似ていない渋みを醸し、1日でも長く世界に「刺さっとく」といきたい。トップリーガーとしての熟成期を迎える通称「ナッカン」は、国際舞台におけるビンテージワインへの道をようやく歩み始めた。

撮影:長尾 亜紀

撮影:長尾 亜紀

向 風見也

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1982年富山県生まれ。2006年に独立し、ラグビーライターとして「ラグビーマガジン」「ラグビーリパリパブリック」「スポーツナビ」などの雑誌やwebサイトで寄稿。書籍の執筆や構成、イベントの企画・司会も行う。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。共著複数。

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