TOPへ
November 24 2016 By 小林 香織

「陸上が好き」「走っている自分が好き」、世界の頂を見据える義足スプリンター高桑早生が選んだ「スポーツのある人生」

キラキラとしたまっすぐな瞳で、「陸上が大好き」だと語る高桑早生。そんな彼女は骨に悪性腫瘍ができる骨肉腫という病により、中学1年生のとき左脚の膝から下を切断した。義足になったあとも部活動でテニスを続けていた高桑だったが、高校入学のタイミングで陸上に転向、わずか1年で世界を舞台に活躍するアスリートに駆け上がったのだ。

9月に開催されたリオパラリンピックでは、あと一歩メダルには届かなかったものの、出場した3種目すべてで入賞を果たし、短距離では自己ベストを更新した。2020年にさらなる躍進が期待される24歳の若きスプリンター高桑早生に、陸上へ懸ける思いと4年後に向けた課題を聞いた。

 

「スポーツのない人生は考えられない」左足を残すより自由に動ける切断を選んだ

「正直、何が起きているかわからなかった」。それが3日後に手術を控えた中学1年生の高桑の心境だったという。病の発見が遅れたために、すぐに手術をしなければならず、左脚を残すか切断するかの選択を迫られた。

「担当の先生から、『今は義足の性能が良くなっているから、義足になったほうが好きなスポーツを楽しめるんじゃない』とアドバイスをいただき、とてもじゃないけどスポーツができなくなる人生なんて考えられなかった私は、自ら切断を選びました。もう一度スポーツができるようになりたい。手術のときはそれだけが希望でしたね」

義足を付けて再び中学校へ通い始めた高桑は、これまでできていたことができなくなっている自分に最初は焦りを隠せなかった。それでも所属していたテニス部の活動を続け、体育祭にも出場するなど、大好きなスポーツの道を追い求めた。

ただ、前だけでなく横にも後ろにも動かなければならないテニスに次第に限界を感じ、何か新しいことを始めたいと思っていた矢先、「陸上」との出会いが訪れる。義足と一体化した体で風のように駆け抜ける選手の姿を目にした高桑は、瞬時にその魅力に引き込まれたという。

「義足を付けて颯爽と走る姿を見て、大きな衝撃を受けると同時にそのカッコよさに見惚れてしまいました。陸上は自分の体ひとつで記録を出すスポーツであり、なおかつ障がい者陸上には義足という道具が加わる。その不思議な感覚も魅力的だと思ったんです」

そうして導かれるように陸上を始めた高桑は、周りをあっと言わせるような著しい成長を見せる。走り始めてたった1年で初めて臨んだ国際大会(アジア)で、金メダルを獲得するという快挙を成し遂げたのだ。さらに、その2年後にはロンドンパラリンピックで入賞。本人は「ノリと勢いでやってきた」とあっけらかんと話すが、紛れもなく彼女は陸上界の新星に違いない。

 

リオパラリンピックのテーマは「死ぬ気で走る」、つかんだ手応えと2020年への宿題

高桑早生

高桑にとって2度目のパラリンピックとなった2016年のリオ。万全のコンディションで臨んだものの、200m:7位、100m:8位、走り幅跳び:5位とメダル争いに食い込むことは叶わなかった。だが、成長の確かな手応えをつかむことができたと高桑は語る。

「前回のロンドンでは200m:7位、100m:7位という成績だったので、リオではその順位を抜くこと、そして走り幅跳びではメダル獲得が目標でした。正直、掲げていた“ロンドンの自分超え”を果たせなかった悔しさは残ります。ですが、メインの短距離で自己ベストを更新できたことは何よりの収穫でした」

そしてもう一つ、今回のリオで高桑がコーチから与えられていた課題が、「死ぬ気で走ること」。とくに距離が長い200mではスタートラインに立ったときの「ラスト50mで倒れたらどうしよう」という恐怖心が、スピードにブレーキをかけてしまっていたからだ。「死ぬ気で走ったところで絶対に死なないから大丈夫」、今大会ではコーチのその言葉を心に置いていた。

「実際にリオでスタートラインに立ったとき、恐怖心よりも『死にはしないからやりきろう』という思いが強くありました。その気持ちを信じて走りきったからこそ、自己ベストの更新につながったんじゃないかと思っています」

2020年の東京パラリンピックでは、リオで残した宿題を絶対に達成したいと意気込みを見せる。

「2020年までの4年間は、これまでよりもさらに苦しい期間になると思いますが、リオで残してしまった宿題を達成するためにも負けてはいられません。ただ、今は燃え尽き症候群のような状態なので、まずは来年ロンドンで行われる世界選手権に向けて、気持ちを立て直すところから始めています。4年後、絶対に結果を出すために前進あるのみですね」

 

「できなくてもいいからやってみる」いつでもチャレンジ精神を大切にしてほしい

高桑早生

幼い頃からスポーツに魅了され、義足になってからも変わらずにスポーツの道を歩み続ける高桑。陸上に対する一番のモチベーションも、心の底から湧き上がる「好き」という気持ちだと話す。

「私はとにかく走ることが大好きで、走っている自分も好きなんです。好きだからこそ、もっと速く走れる方法を追求したいという気持ちも生まれる。その思いが一番のモチベーションになっています」

高桑の人生で、確実に転機といえる陸上との出会い。こんなにも一心不乱に取り組めるものと出会えたのは、彼女が「できる」「できない」にかかわらず、果敢なチャレンジを続けたからに他ならない。そんな高桑は、自分と同じように障がいのある人たちへ温かいエールを送る。

「義足になってからも、できるかどうかじゃなく、なんでもやってみる、ということをすごく大切にしてきました。そうやって好きだと思えるものに突進し続けた結果、今の私があります。できなくてもいいからやってごらん。私がいつも心に置いているその気持ちを、ぜひみなさんにも大切にしてほしいです」

さらに、読者へのメッセージとして自身が感じるパラスポーツならではの魅力を語った。

「人間の体と義足が一体化して生み出されるパフォーマンス、それは一般的なスポーツでは味わえないパラスポーツ独特の見どころだと感じています。車椅子を使った競技もそうですし、パラスポーツを見ることで、みなさんの頭の中にあるスポーツの概念が広がるんじゃないかなって。一つのスポーツジャンルとして魅力的な世界だと思うので、私をキッカケにパラスポーツに興味を持っていただけたら、こんなにうれしいことはありません」

天性の明るさを感じさせる高桑だが、義足になったばかりの中学1年生当時は、暗く沈んでいた時期があった。立ちはだかる壁を一つひとつ乗り越え、陸上という最高の希望に出会った彼女に、もう落ち込んでいる暇はない。2020年、28歳になる高桑は、どんな走りを見せてくれるのだろうか。陸上界の新星・高桑早生の姿を追い続けたい。

*高桑 早生(たかくわ さき)
エイベックス・チャレンジド・アスリート:https://www.challeath.com/
公式BLOG:高桑早生 公式ブログ
高桑早生 公式Twitter:@SaKi_t_44

 

(取材・文:高良 空桜)

小林 香織

小林 香織 Facebook

2014年デビューのフリーライター。現在、「恋する旅ライターかおり」名義で、恋愛・旅・ライフスタイルジャンルの執筆にも挑戦中。人生の豊かさ、可能性を広げるためのメッセージを発信したいと願っている。自由な人生バンザイ

この記事が気に入ったら
いいね!しよう