サバット(SAVATE)元世界女王の原 万里子選手。今年のクロアチアでの世界大会では、惜しくも準優勝・銀メダルだったことは、以前レポートした通りである。
▼以前の取材記事
世界女王になりたくて!/サバット世界大会
その世界大会で、ロシアの興行主から原選手に試合のオファーがあったということも、前述の記事でお伝えしたが、今回はその大会「ボックス・サバット・プロ」を窪田コーチが報告してくれたので、みなさんにもお届けする。11月17日、日本から遠く離れたロシア最大の観光都市サンクトペテルブルクで、その試合は行われた。
窪田コーチいわく、「今回は、想像を絶する規模のプロ興行で、驚きの連続だった!」という。
会場は、六本木ヒルズの2~3倍はあろうかという巨大なショッピングモールで、そこに特設リングを設置し、買い物客が足を止めて観覧できるようになっていたそうだ。計量は、特設ステージでの公開計量。しかも、テレビカメラが入っており、「ラスベガスのボクシング⁉」、「かつてのK-1⁉」と見紛うかのような派手な演出。試合当日には在ロシア首席領事が招待され、日本語の通訳もつき、生バンドが国歌を演奏してくれたという。
その状況でのメインイベント。原選手と対戦相手の写真を使ったチラシや、勝者にはベルトが用意されるなど、いやがうえにも盛り上がる状況が用意されていた。今回の試合は、彼女が得意なフルコンタクト(コンバ)のワンマッチ。ちなみに、世界大会で負けたのは、アソーというライトコンタクトの大会だったため、この試合に懸ける思いは強かったそうだ。

入場シーン
そして気になる結果はというと、窪田コーチからの報告は、世界大会に続いてまたしても心残りとなる言葉だった。
「そこまで完璧にお膳立てがなされていたし、得意なコンバのワンマッチでもあり、“あとはベルトを獲って帰るだけ”だったのですが、またしても不満の残る結果となってしまいました」
1R目は、武器となるキックの距離をキープして、得意のシャッセ(横蹴り)を的確に決めてプラン通りの試合展開だったという。
「このラウンドでこちらが勝利を確信しました。ということは、相手側にとっては、このままでは勝てないということで、当然その後は戦略を変えてきました」
窪田コーチは、「キックの距離をつぶしてパンチで来るということは想定内で、対策もしてきた」と。ところが、その後の展開が想定外であった…
「相手の戦略が、“キックの距離をつぶす”まででなく、パンチすら打ち合えない距離まで突っ込んできたので、クリンチに終始されてしまいました。口の悪い観客なら、『相撲じゃないぞ!』とでも言いたくなるような展開のまま最終ラウンドまで過ぎてしまい、受けた攻撃が、バッティングによる額の打撲だけという不本意な展開となってしまいました」
な、なんと、非常にもどかしい戦いが頭に浮かぶ。
そして、窪田コーチは言葉を続けた。
「明確な差をつけなければ、アウェイでは勝てないことは覚悟していたので、判定で敗れたのは仕方のないことですが、せめて“サバットの試合”をさせてやりたかったです」
勝負では勝てないと思った地元ロシア選手が判定に逃げ込んだだけと言える。
「ここのところ、飛行機のトラブルによる調整乱れや不可解な判定など、実力以外での不運が続いていたので、スッキリと勝たせてやりたかったのですが、またもや残念なご報告となって申し訳ありません」
本当にやり切れなさだけが残る。原選手は消化不良だっただろう。しかしながら、収穫もあったようだ。
「ただ、試合以外では、会場、運営、待遇、観客などなど完璧な大会で、それなりに楽しむことができ、また今後に向けて、“こういう展開の試合もあり得る”“こんな相手にも勝ち切る”という課題が見つかったので、原と共に、また“次”に向けて頑張っていきます」
弱気のコメントではなく、非常にポジティブな窪田コーチのコメントだった。海外での興行試合という新しい展開に、今後の日本サバットおよび原選手の未来が広がっていると感じた。原選手のさらなる活躍に期待したい。