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December 23 2016 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

ドイツの地で戦う日本人プレーヤー、それぞれの思い ~車椅子バスケットボール~

2016年12月10日、ドイツの地で行われた車椅子バスケットボールリーグのブンデスリーガ「BG Baskets Hamburg vs Köln 99ers」。それはリーグ戦の中の1試合であり、選手たちにとっては、いつも通り、チームの勝利を目指して戦っただけに過ぎなかった。しかし、日本の車椅子バスケットボールの歴史においては、確かな「軌跡」が描かれた試合だった。ブンデスリーガ史上初となった「日本人対決」。そこには、海外に挑戦する6人の日本人プレーヤーそれぞれの思いがあった。

香西が見せたスキルの高さ

ドイツ・ハンブルク市内にあるBG Baskets Hamburgのホーム会場「INSELPARKHOLLE」。2018年には、車椅子バスケの世界選手権が行われることになっているその会場で、BG Baskets HamburgとKöln 99ers両チームにとって2016年最後の試合が行われた。

白いユニホームに身を包んだBG Baskets Hamburgサイドには、ブンデスリーガ4シーズン目の香西宏昭(こうざい・ひろあき)、3年目の藤本怜央(ふじもと・れお)、2年目の千脇貢(ちわき・みつぐ)が、どっしりとした雰囲気を醸し出していた。一方、赤いユニホームに身を包んだKöln 99ersサイドには、いずれも今シーズン初めてブンデスリーガに身を投じた豊島英(とよしま・あきら)、村上直広(むらかみ・なおひろ)、網本麻里(あみもと・まり)のフレッシュな3人の姿があった。

18時半、ティップオフ。コート上には、それぞれのスターティングメンバーに選ばれた藤本、そして豊島と村上の姿があった。

車椅子バスケット藤本怜央選手

ティップオフの瞬間、藤本(右)はボールをめがけて、力強く腕を伸ばした。その30秒後、鮮やかにシュートを決めた。

試合開始約30秒で、まずは藤本が両チームあわせて初得点をマーク。その後も、BG Baskets Hamburgはゴール下を中心にシュートを決め、得点を積み上げていった。一方、Köln 99ersはBG Baskets Hamburgのディフェンスに手こずり、アウトサイド一辺倒の攻撃となり、さらにそのアウトサイドからのシュートもリングから嫌われ続け、なかなか得点を挙げることができなかった。

残り約4分のところで、BG Baskets Hamburgは香西を、そしてKöln 99ersは網本を投入。コート上の10人のうち、日本人プレーヤーが半数を占めるという光景は、駆け付けた日本人の観客を喜ばせたに違いなかった。

試合は、BG Baskets Hamburgの優勢に変わりはなかった。その中で「こういう一つのプレーが大きな差となるのだろう」と感じたのが、香西のプレーだった。藤本が外した2本目のフリースローに対し、香西はたったひとりで、村上、網本を含めたKöln 99ersのハイポインター3選手相手にリバウンドを制し、そのままシュート。さらに村上からのファウルを受けてバスケットカウントとし、難なくフリースローを決め、スリーポイントと同じ3得点を挙げてみせたのだ。

香西は他の3人の誰よりも速く動き出し、誰よりも早くゴール下でのポジションを確保していた。だからこそ、1対3という劣勢な状況でもリバウンドを制することができたのだ。香西といえば、華麗なスリーポイントに目がいきがちだが、こうした細かいスキルもまた、彼の強さのひとつとなっている。

車椅子バスケット香西宏昭選手

フリースローでも安定感を見せた香西。プレーの一つ一つが際立つ。

結局、BG Baskets Hamburgは第1クオーターで25-6と大量リードを奪った。そしてこの差が、この試合を決定づけたと言っても過言ではなかった。

第4Qに表れていた「最後まで戦う姿勢」

第2クオーター、Köln 99ersは攻撃のフォーメーションにリズムが出てきたように見受けられた。第1クオーターでは選手同士の動きが重なり、うまく連携し合えていないように感じられる場面が少なくなかったが、第2クオーターでは5人がクロスしあいながらディフェンスを崩し、シュートチャンスを作り出していた。第2クオーターに限れば13-10と、BG Baskets Hamburgのリードはわずか3点差と、Köln 99ersが善戦。それでも第1クオーターが大きく響き、38-16とダブルスコアで試合を折り返した。

第3クオーターは再びBG Baskets Hamburgが主導権を握り、このクオーターだけで28-9と圧倒。トータルスコアは66-25となった。しかし、「最後までチーム全員が諦めずに戦った」という試合後の豊島の言葉通り、第4クオーター、Köln 99ersは意地を見せた。第3クオーターまでシュート1本にとどまっていた村上が、開始1分の間に、立て続けにシュートを決めると、中盤にもミドルシュートを決め、ようやくいつも通りのプレーを見せた。さらに、豊島がレイアップシュートを2本入れると、最後は網本が得意のバックショットを決めてみせた。そのほかのチームメイトの活躍もあり、第4クオーターはKöln 99ersが26-19と初めてリードを奪った。

しかし、トータルでは85-51とBG Baskets Hamburgが勝利。これでシーズンの前半が終了し、BG Baskets Hamburgは6勝2敗で(9チーム中)3位、Köln 99ersは2勝6敗で7位となった。シーズンは2017年1月7日に再開し、4位以内に出場権が与えられるプレーオフを目指した戦いが繰り広げられることとなる。

藤本、若手への叱咤激励に意味するもの

試合後、日本人プレーヤーの6人に話を聞くと、そこにはそれぞれの意識や思いの中での「今」があった。

高校卒業後、米国のイリノイ大学に留学し、いち早く海外へと渡ったのが香西だ。彼は、大学卒業後の2013-14シーズンからBG Baskets Hamburgでプレーし、今やチームで一番の古株となっている。そんな彼にとって、ブンデスリーガ初の日本人対決となったKöln 99ersとの試合は、他の選手とは少し違う思いがあった。

「一選手として考えれば、この試合も他の試合と何も意味合いは変わらないんです。僕たちとしては、とにかく勝利を目指した。ただ、それだけです。でも、みんなよりも早くこのリーグに来た自分としては、やっぱり感慨深いものがありました」

イリノイ大学在学中、日本人は香西ひとりだった。入れ替わるようにして米国へと渡った日本人選手はいたものの、結局はひとりひとりの「点」でしかなかった。だからこそ、ブンデスリーガでは、「点」ではなく、「線」へとつないでいきたいという思いがあった。そんな中、翌2014-15シーズンに藤本が、2015-16シーズンに千脇が同じBG Baskets Hamburgに入り、そして今シーズンは初めて他チームのKöln 99ersに、20代の3人が入った。

「ようやく『線』になりつつあるのかもしれない」

この日、初めてドイツの地で見た3人の姿に、香西はそんな気持ちを抱いていた。

一方、香西とはまったく別の気持ちを抱いていたのが、藤本だった。「日本人初対決」について聞くと、「僕はそれには全く興味がない。ここに来ている理由は、僕自身が世界レベルでどう戦うか、ということだけですから」と一蹴された。その表情や口調からは、肘の故障を抱えながらも、それでもなお自らを追い込むストイックさゆえの厳しさがにじみ出ていた。

そんな藤本に、「日本のバスケ界にとっては?」と、さらに質問を投げかけると、こんな胸の内を明かしてくれた。

「そういう意味では、(Köln 99ersの)3人もいい挑戦をしてくれていると思いますし、彼らよりも早く来て戦っている僕としては、そういう挑戦する気持ちを感じながら同じコートで戦いたいと思っていました。そのうえで、格の違いを見せてやる、と。でも、試合中の彼らの表情は優しすぎると思いました。本気で勝負に来ているのか、戦うためにここに来ているのか、わからなかった。それが残念だったなというのが、正直な感想です」

4度のパラリンピックに出場し、今年のリオデジャネイロ大会ではキャプテンを務めた藤本。日本のエースとして戦い続けてきた彼も、今年で33歳となった。ベテランの域に達しつつある彼だからこそ、自らの後を継ぐ若手への思いは強い。だからこそ、あえて厳しい言葉を投げかけているように思えた。「厳しさ」は「期待」の大きさの表れであるに違いない。

2シーズン目を迎えた千脇は、「相手がどうとか、先を見据えて、というようなことは考えていなくて、とにかく自分自身の仕事がどうだったか、今何をすべきかということだけにフォーカスしています」と語り、「日本人対決」に関心がないというよりは、チームでの自らの存在意義を確かなものにすることに集中しているようだった。

試合前日の練習も含めて、印象深かったのは、チームメイトから「ミッチ-」という彼のニックネームが非常によく聞こえてきたことだった。それほど彼がチームに溶け込んでいるという何よりの証しだろう。千脇自身、まだ感じている「言葉の壁」を少しでも解消しようと、ひとりでも積極的に日本人以外の選手の輪の中に入る。それが、コート上のコミュニケーションにつながり、ひいては千脇自身のプレーに大きく関わってくるからだ。千脇は今、こうした小さな努力を積み重ねながら、自らの存在意義を示そうとしているに違いない。

豊島、スター選手不在のチームだからこその成長

この試合、両チームあわせて唯一40分間出場し続けたのが、豊島だった。彼のトランジションの速さや、長いリーチを生かし、隙あらば相手のボールをカットしにいくプレーは、ドイツの地でも光っていた。さらに得意のレイアップシュートも3本決めるなど、攻守にわたる彼の能力の高さは、チームの誰もが認めているに違いない。

車椅子バスケット豊島英選手

この試合、3本のレイアップシュートを決めた豊島。攻守にわたってチームの中心的存在となっている。

実は豊島は、リオ前から、国内でやり続けることに限界を感じ始めていたという。

「(藤本)怜央さんがドイツに行ってしまってから、なかなか自分よりもうまいとか速いという選手が、チームの中にはいないというのが現状で、そこで自分をさらにレベルアップさせるのには限界があるなと感じていました。だから今回、海外への移籍の話が出た時に、自分を成長させるいいチャンスだと思ったんです」

チームにはスーパースター選手は不在だ。しかし、だからこそ、豊島は自らを成長させられると考えている。

「確かにスーパースターがいるチームだったら、レベルの高いバスケができると思うんです。でも、そういう選手というのはだいたいハイポインター。そうすると、その選手に頼りがちになると思うんですね。でも、今のチームは誰でも得点できるようにすることが求められている。そういう方が、今の僕にとっては大事だし、成長させられるのではないかと思っているんです」

次世代を担うハイポインターとして期待を寄せられている村上は、この試合、前半はなかなかシュートを決められずに苦しんだ。そこには、自らが「癖」と語る「若さ」が出てしまったようだ。

車椅子バスケット村上直広選手

「日本人対決」を意識し、少し気負いが出たと言う村上(右)。自らの課題は、十分にわかっている。

「知っている日本人選手との対決ということで、前半は『やってやるぞ』と気負ってしまいました。特に同じハイポインターで、ずっと背中を見続けてきた怜央さんには『今の自分を見てもらって、褒めてもらいたい』というふうに思ってしまったところがありました。そういう余計な感情を抱かずに、いつも冷静にプレーすることが大事だということはわかってはいるんですけど……」

そして、パラリンピアンとしては日本人女子で初めてのブンデスリーガ挑戦となった網本は、開口一番に「(BG Baskets Hamburgは)強かったです。スピードも高さもパワーも、すべてにおいて差があったなと思います」と率直な感想を述べ、こう続けた。

「もちろん、各国代表がいるチームと対戦できたことは、いい経験になりました。でも、これを『経験』のままで終わらせるつもりはありません。チームも着実に良くなってきているので、それに自分も遅れることなく、貢献していきたいと思っています」

チームメイトには、網本の他に同じハイポインターの女子選手が2人いる。いずれもリオに出場した選手で、銀メダルのドイツと、ベスト4のイギリスという強豪国の代表だ。ポジション争いにおいてはライバルだが、2人から学ぶことは多く、大きな刺激を受けている。自分の成長はもちろん、それを日本へと持ち帰ることで、国内でレベルアップを図っている選手たちといい相乗効果を生み出せるのではないかと期待している。

車椅子バスケット網本麻里選手

パラリンピアンとして、日本人女子初のブンデスリーガ挑戦者である網本。経験を自分のものにしようと意欲にあふれている。

今回の「日本人対決」は、確かにシーズンの中の単なる1試合に過ぎない。しかし、こうした6人のそれぞれの思いが凝縮された1試合であったことも事実である。そしてこれが、香西の言うように「線」となって次につながっていくかは、これから次第なのだろう。成長とともに、意識も考え方も変わっていくはずだ。そんな6人の「軌跡」を、ドイツの地で、また見てみたい。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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