TOPへ
December 27 2016 By ゆるすぽ編集部

「ワクワク星人を増やしたい!」摂食障害から立ち直らせてくれた水泳との再会が、大切なことに気付かせてくれた/トライアスロン中村美穂

「あっ、こんにちは~!」

穏やかで暖かな日差しが気持ちのいい小春日和の日。待ち合わせの場所で愛車のバイクにまたがり待っていたその人は、こちらに気が付くと顔をほころばせてそう言った。この日、天気が崩れるという予報もあったが、取材の時間に合わせるかのように、太陽が顔をのぞかせていた。

「もってますね」と伝えると、「いえいえ、晴れ女なだけです。ついてますよね!(笑)」と、朗らかな笑顔で返す彼女に、心が弾むのを感じる。

miho_B1

中村美穂――。

『スイムフォームコンサルタント』として活動すると同時に、国内外のトライアスロンの大会で優勝するなどの活躍を見せている美人アスリートだ。今回は、そんな二足のわらじを履く彼女の半生を追っていきたい。

スイムフォームコンサルタントとしての矜持

中村は『スイムフォームコンサルタント』として、ベビーやカナヅチの方からトライアスリートに至るまで幅広い層に対して日々、コーチングをしている。

「『楽に、速く、美しく』。この3点は比例するというのが私の考えです。美しいフォームで泳げていれば水の抵抗を減らすことができるので、楽に、速く泳げるようになるのです。ですので、まずは美しいフォームづくりを目指していくことが大事になりますね」

楽に、速く泳げるようになるということは、長い距離を長い時間泳ぐことが可能になるということを意味する。トライアスロンのクライアントが多いというのも納得だ。

「一言で『美しいフォーム』といっても、筋肉のつき方や関節の柔らかさといった体の特徴は違いますし、フォームのクセもばらばらです。型にハメるんじゃなくて、一人ひとりに合ったフォームを提案していますね。あとは、理解の仕方も人それぞれなので、100人いれば100通りの伝え方をしています。例えば手を伸ばす時にも、『すーっと前に』といった感覚で理解する人もいれば、『あと3センチ肘を前に出して』といった数字で伝えた方が理解する人もいます。他にも、『トン、トン!じゃなくて、トーン、トーン!ですよ』みたいにリズムで感じる人もいますし、上腕三頭筋やハムストリングといった具体的な筋肉名を出した方がイメージできる人もいます。クライアント一人ひとりと向き合って、その人の体の中で、脳の中で何が起こっているのか、いつも考えてレッスンをしていますね!」

以前教えていたあるカナヅチの生徒が、「自分の友達も泳げるようにしてあげてほしい」と紹介してきたことがあった。つまり、その人は泳げるようになったということ。それに気付いた中村は、いたく感動したという。

「あんなに怖がっていた彼女が、今は泳げるようになった…。一度自転車に乗れるようになると、また乗れなくなることがないように、水泳も一度泳げるようになれば泳げなくなることはありません。そう考えると、少しおこがましいかもしれませんが、この人の人生を変えることができたんじゃないかと思えたんですよね。そこに自分が立ち合えたことが、本当にうれしかったんです…」

miho_B2

本当に守りたいものを守るために

3歳のころから水泳を始めた中村は、中学・高校の時にはジュニアオリンピックやインターハイで優勝、国体では準優勝を飾るなど、輝かしい実績を残した。目標としていたオリンピックへの出場こそかなわなかったものの、大学卒業までの約20年間、自分でも「やりきった」という感覚を覚えた。そこでいったん水泳には区切りをつけ、一般企業へと就職することを決意した。それから仕事へとまい進した中村に、試練が襲い掛かる。社会人になってもアスリートの心のままストイックに仕事に取り組む中で、体に不調をきたしてしまった。摂食障害だった。中村はガリガリに痩せ細り、体重はわずか31㎏に。とにかくいつも寒かったそうだ。そんな中村に、自分を変えるきっかけとなる出来事が起こる。東日本大震災――。強い揺れに見舞われた彼女のすぐそばには、臨月の妊婦さんがいた。

「守らなきゃ!」

とっさにそう思った中村にできたことは、ガリガリの体で覆いかぶさることだけだった。幸いなことに、妊婦さんも、お腹の赤ちゃんも大事に至ることはなく、その後、無事に出産したそうだ。それ自体はもちろんとてもうれしい、心からそう思った。ただ同時に、ある恐怖心が脳裏をよぎった。

「自分に本当に守りたいものができた時、この体のままでは守れないかもしれない…」

中村は再び水泳を始めた。

「もちろん、そんな体で泳ぐことなんて無理です。それで、まずひっそりと入ったのは一番端の水中ウォーキングコースでした。1日10km以上泳いできた選手としてのプライドなんてみじんもありません。でも、もうね、塩素のにおいが“おかえりなさい”って言ってくれているようで涙が止まらなかった。水中ウォーキングなのにゴーグルをしてましたね(笑)」

次第に元気になっていく体、前向きになっていく心。自分自身の変化を感じた。

「摂食障害から立ち直らせてくれたのは、一度は離れた水泳でした。一歩踏み出すことができたのは、もともと自分が水泳をやっていたからだなと。健やかな心身がそろって初めて健康なのだと思うようになって、スポーツの仕事をしたいと考えるようになったんです」

miho_B3

写真提供:中村美穂

トライアスロンとの出会い

スイムフォームコンサルタントとして独立した中村は、着実にクライアントもついた。やがてトライアスロンをしている生徒が増えていった。

「私自身はずっと水泳をしていたので、スイムを教えることについての自信はあります。ですがトライアスロンの場合は、スイムの後にバイク・ランが続くという点が競泳競技とは違いますし、波も風も潮の流れもある海と競技用のプールでは泳ぎ方も変わってくる。トライアスロンをしている人にスイムを教えるからには、自分もやっておかないといけないなと思うようになったんです」

こうしてトライアスロンを始めた中村は、大会デビューしたオリンピック・ディスタンス(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)ですぐに優勝してしまった。当然、周りの仲間は盛り上がり、頭をガシガシたたいて笑ってくれたそうだ。

miho_B4

写真提供:中村美穂

元来、人を驚かせたり、ワクワクさせることが大好きな中村は、もっとみんなをビックリさせたくなった。次はもっと長い距離に挑戦しようと、アイアンマン・ディスタンスへの出場を決める。スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195kmと、まさにアイアンマン(鉄人)のレースは通常、2~3年かけて準備して参加する。だが中村はデビューしてわずか半年で挑戦し、なんとこれもいきなり完走してしまったのだ。

「もうみんなビックリしてましたよね。『えっ、もうそっちいっちゃったの?』って(笑)。やっぱりみんなをワクワクさせていたいんですよ。周りがワクワクしながら楽しんでくれているのを見てると、自分もワクワクして楽しくなってきちゃいますしね(笑)」

そう話す中村の顔には、少しいたずらな笑みが浮かんでいた。

「日本伝統のロング・ディスタンスのレースに挑戦したいと思っています。厳しいコースですが、きちんと準備をして、もっともっとみんなを驚かせていきたいですね!」

ワクワクし続けるためには…

中村が大切にしている考えに、“Flow”というものがある。

「世の中のあらゆることって、回っているんだと思うんですよ。例えば、食事についていえば、食べて、排出されて、終わり、ということではないですよね。食べた物がお腹に入ることで、血流が良くなり、栄養が吸収されて、それがエネルギーとなって熱を発するから、運動ができる。運動するとお腹が空くから、また食事を取る。どこか一つでも悪かったり滞っているところがあると、Flowは止まってしまう。健やかな日々を過ごすためには、Flowさせることが何よりも大事なんだと考えています。これは食事や体に限った話ではありません。Flowさせるためには、何か一つだけを大事にしていてもいけない。健やかな体、健やかな心、仲間、トライアスロン、ビジネス、家族、趣味――。これらのことはそれぞれ独立しているんじゃなくて、全部が回っている。だから、何が一番大事ということじゃなくて、全てのことが大事で、全てのことを大切にしたいと考えているんです」

健やかな日々を送るために、自分の周りにあるものを全てFlowさせることを大事にしている。そして、こうしたFlowを持続可能にしていくこともまた、大事だという。

「持続可能なものにしてこそ、本当にFlowさせることができます。持続可能にするために大事なこと、それがワクワクなんだと思うんですよ。毎日、全てのことにワクワクして過ごしていたいですね」

自分は常にエンターテイナーであり続けたい。中村は声を弾ませながら、言葉を紡ぎ出す。

「ワクワクし続けるためには、自分一人がハッピーであってもダメ。周りにいる人みんなもハッピーでないといけない。一人でおいしいコーヒーを飲んでいても、それって本当にハッピーなのかと思うと、そうじゃない。やっぱり誰かと一緒の方がもっとおいしいし、もっとハッピーを感じられる。人の幸せが、自分の幸せなんだなって。周りにいる人たちがワクワクしてハッピーになれば、それが結果的に自分のワクワクやハッピーにつながっていく。だから、自分がハッピーだと思うことを伝えられて、ワクワクを分け合えるような人でありたいですね!」

摂食障害という苦難に遭った経験があるからこそ、気付いた大切なことがある。そんな自分だからこそ、伝えられることがある。常識にとらわれることなく、流行や人の意見に流されることなく、人とは少し違ったとしても、自分らしく生きていたい。他の人がやらないようなことであっても、足を止めずに一歩目を踏み出し、挑戦し続けていきたい。中村は、人生の目標にこんなことを挙げてくれた。

「ワクワク星人を増やしたい!」

彼女は次に、一体どんなことで僕たちをワクワクさせてくれるのだろうか。彼女の笑顔の周りは、ワクワクした人たちであふれていく。これからも、ますますそんな人が増えていくに違いない。

<文・野口学(text by Manabu Noguchi)>

miho_B5

写真提供:中村美穂

ゆるすぽ編集部

ゆるすぽ編集部

“みんなでつくるスポーツニュース”をコンセプトにwebサイトを展開。(http://www.yurusupo.com/)ファン目線を大事にし、スポーツニュースで報道される以外のさまざまなスポーツネタをゆる~く紹介しています。「ボーダレス」にも記事を展開。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterをフォローしよう!

前の記事へ
一覧に戻る
次の記事へ
前の記事へ
一覧に戻る
次の記事へ