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December 28 2016 By 小林 香織

「いつか私だけの白鳥の湖を踊りたい」繊細さの裏に隠されたトップダンサーの闘志ー米沢唯(後編)

日本最高峰のバレエ団として、究極の美を追求する新国立劇場バレエ団。ここでトップダンサーとして活躍するのが、今回のヒロイン・米沢唯だ。わずか3歳でバレエを習い始めた彼女は、成長とともにその魅力に引き込まれ、紆余曲折を経てプロダンサーの道を歩むこととなる。

後編では、プロの道を断念しようと決めた彼女が今日に至るまでの軌跡、そしてバレエに懸ける強い思いを届けたい。美しく繊細な踊りの裏に隠された、トップダンサー・米沢唯の闘志を垣間見た。

「もう一度バレエダンサーとして生きていこう」運命を変えた監督との出会い

3年間の渡米経験で、難聴に加え声が出なくなるほどギリギリの状態に追い込まれ、日本に帰国した米沢。プロダンサーの夢はあきらめたつもりだったが、「もう一度チャレンジしたい」という気持ちは日増しに膨らんでいく。

いてもたってもいられなくなり、いくつかの海外のバレエ団に問い合わせメールを送ると、その1つから返事があった。差出人は、2010年から4年間、新国立劇場の舞踊芸術監督を務めた、デヴィッド・ビントレー氏。「来シーズンから新国立劇場バレエ団のディレクターを兼任することになったから、そちらのオーディションに来ないか?」という内容だった。

「実は、そのとき初めて新国立劇場バレエ団の存在を知ったんです。オーディションに参加すると、その場で『君をソリスト(※)として採用する』と。そこで、『もう一度、バレエダンサーとして生きていこう』と心を決めました。ビントレーさんとの出会いによって、私の人生が再び動き出したんです」

※ソリスト…ソロまたは数人で踊ることの多いダンサーの階級。

米沢唯

2016年「シンデレラ」リハーサルにて

新国立劇場バレエ団に入団してまず米沢が驚いたのが、これまでの踊りとのスタイルの違いだった。いわゆるバレエのメソッドを学んだことがなかった彼女は、教師からありとあらゆる指摘を受けたのだ。

「立ち方から動き方まで、ああじゃない、こうじゃないと事細かに言われ、最初こそ戸惑ったものの『私が求めていたものはこれだ』と思いました。アメリカではどんな踊り方をしても『個性』として認められていましたが、私は心が赴くままに踊るのではなく、一番美しく見える踊りを突き詰めたかったんです」

米沢唯

2016年「シンデレラ」リハーサルにて

クラシック・バレエの真骨頂「白鳥の湖」は、一度も満足できたことがない

西ヨーロッパで発生し広まったバレエは、西洋人の体のラインを生かして、美しく見せる踊りだ。日本人が美しいバレエを踊ろうとするならば、体形を変化させるだけでなく、反自然的な動きも求められる。

ありのままの素材を生かすのではなく、「できない」ことを努力によって「できる」ことに変えていく、そんなバレエの厳しさも米沢にとっては魅力だったという。

「私の一番のモチベーションは、『とにかく上手になりたい』という向上心です。プロとして技術を磨くなら、楽しいだけじゃ嘘だと思うんです。血のにじむような努力があって初めて舞台に立てる。私は何の苦しみもないまま舞台に立つのは恐ろしいし、つまらないと思います」

米沢唯

2015年「ホフマン物語」にて

プロ意識の塊のような米沢は、どの演目にも惜しみなく愛情を注ぐ。「舞台に立つ以上、自分のすべてを投げ打って挑もう」、その気持ちはいつでも変わらない。しかし、そんな彼女が一度も満足したことがないと話すのが、クラシック・バレエの真骨頂とも言える「白鳥の湖」だ。

「『白鳥の湖』は、いくらやっても『今日は満足できた』と思えたことがないんです。もちろん毎回全力でぶつかっているんですが、何かが足りない。体のラインの美しさや愛の奥深さとか、バレエのすべての美しさを集めたような究極の作品なので、それだけ難しいんです」

舞台は一度きりの魔法!アートのような美しさと恋愛ドラマを感じてほしい

米沢にとってバレエとは、人生そのもの。ひとたび舞台に上がれば、全観衆が彼女の踊りに釘付けになる。現在、公演中の「シンデレラ」では、キラキラと光り輝く衣装を身にまとい、観客を夢の世界にいざなう。

華奢な体からあふれ出るエネルギーと、洗練されたしなやかな動き。「今しか演じられないシンデレラを観ていただきたい」、そう語っていた米沢の魂がダイレクトに伝わるような、見事な演技だった。

米沢唯

2014年「シンデレラ」公演にて

一般的にやや敷居が高い印象があるバレエだが、「構えずに気楽な気持ちで観に来てほしい」と米沢は話す。

「セリフがないバレエは、子供から大人まで広く楽しめるのが何よりの魅力です。生演奏の迫力と躍動感のある踊りが相まって、舞台に引き込まれていく瞬間がきっとあると思います。『何が起きるかわからない』という舞台ならではの魔法にかかったような感覚と、アートのような肉体の美しさ、そして恋愛ドラマに、思う存分、浸っていただけたらうれしいです」

物心ついたときからプロを志し、バレエ漬けの日々を過ごした米沢。彼女がそんな人生から得たのは、どんなにつらく悲しいことがあっても、一つ残らず舞台の糧にできること。踊りには、その人の生きざまがそのまま表れる。だからこそ、どんな出来事も前向きなエネルギーに変えていけるのだ。

若くして深い苦しみを乗り越えた彼女は、ヒロインとして華やかな舞台に立ちながら、それでもなお貪欲に成長を続ける。近い将来、米沢唯にしか踊れない「白鳥の湖」を、堂々と披露してくれる日が必ずやってくる。どうか期待していてほしい。

 

米沢 唯(よねざわ ゆい)
新国立劇場公式ホームページ:https://www.nntt.jac.go.jp/

 

(取材・文:小林 香織)

小林 香織

小林 香織 Facebook

2014年デビューのフリーライター。現在、「恋する旅ライターかおり」名義で、恋愛・旅・ライフスタイルジャンルの執筆にも挑戦中。人生の豊かさ、可能性を広げるためのメッセージを発信したいと願っている。自由な人生バンザイ

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