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February 24 2015 By 伊澤佑美(いざわゆみ)

コスプレ記者が、東京マラソンに当たったら

「ドナルド頑張れ〜!!」「かわいいよ〜、ドナルド〜!」沿道から名指しで声援がかかる。足はだんだんと重くなるが、不思議と気持ちは軽い。声をかけてくれた見知らぬ沿道の人たちに手を挙げて応えると、また「わっ!」と湧く。それがくすぐったいような、うれしいような。声をかけられるたびに、「私はドナルドなんだ、だったら最後まで笑顔で走りたい」という強い力が湧き上がった。結果は4時間44分39秒、一度も歩かず、まさしく”完走”。過去に、普通のランニングウェア姿でフルマラソンに3度出場した経験があったが、”完走”は初めてのこと。ゴール後は涙が出た。ちょうど1年前のことだ。

4-1「東京マラソン2014」をドナルド姿で走った筆者

今年の抽せんはハズレ。取材する側として会場に入った。朝7時にスタートエリアの入り口が開場すると、金属探知機と手荷物検査を通り抜けた約3万6千人のランナーが、いっせいになだれ込む。道路に荷物を広げて着替える人、準備体操する人、写真を撮る人、トイレに行列する人でごった返している。すぐに、去年と様子が異なることに気がついた。コスプレランナーが少ないのだ。昨年はあちこちで目を見張るような大掛かりなコスプレランナーを目撃し、写真撮影する人、してもらう人で沸いていたが、今年はそんな様子が見られない。人をかき分けるようにしてコスプレランナーを探すと、最初に見つけたのは、頭に顔出しのかぶりモノだけを身につけた、ジバニャンだった。やはり、今年は”アレ”が影響しているのだ。

“アレ”とは、今年初めて募集要項に明記された服装規制のこと。正しくは「東京マラソン競技中の服装などに関するガイドライン」。事実上のコスプレ規制と言えるだろう。東京マラソン財団広報担当によると、今回の規制は飲料の持ち込み制限同様、警視庁からの指導の一環だという。2年前のボストンマラソンのテロ以降、特に意識して安全対策を強化してきた東京マラソンだが、「大きな衣装などは他のランナーにぶつかったら危ないし、中に何を隠しているかわからない危険性もある」(同担当者)ということで、ガイドライン化に踏み切ったようだ。

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「東京マラソン2015」に初めて明記された「服装ガイドライン」

当ガイドラインのためか、2010年からの名物コスプレランナー”キリスト様”は不出場。毎年、完成度の高いアンパンマン姿で周囲を魅了しているランナーは、今年は顔を出した衣装に変更していた。その他のコスプレランナーたちも、全体的に衣装は小ぶりで軽装なものになっていた。

あくまでマラソン大会なので、コスプレはおまけの要素だが、どことなく寂しい。去年コスプレランナーとして出場した記者としては、そんな感想をもった。沿道でランナーに声援を送っていた渡邉恵さん(35)も、「こぢんまりした仮装が多く、目を引くような大きな仮装はいなかったのが去年と違うところ」と話す。「たまにはそういうランナーがいてもいいかな」(渡邉さん)というのが正直なところだ。

スタート時間が迫るにつれて、一層ごった返すスタートエリアでようやく目立つコスプレランナーを見つけた。2人揃って、金のツタンカーメンに変身した境雅高さん(31)と大谷津勝さん(41)だ。「目立つように」の一心で衣装を選んだという。「普段はストイックに走っているので、東京マラソンは楽しみたかった」と境さん。よかった、コスプレランナーは健在だ。どこかほっとした。ドラゴンボールZのキャラクター、孫悟空に扮した上原仁さん(40)にも出会った。「子どもでもわかって、声をかけやすいようにこれを選んだ。(仮装することで)沿道の人にも楽しんでもらいたい」と意気込んでいた。

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左から、大谷津勝さん(41)と境雅高さん(31)

記者は昨年の東京マラソンでフルマラソンの魅力にはまってから、さまざまな大会に出場しているが、東京マラソンほど、参加ランナーが楽しみたい、楽しませたいという気持ちが強い大会はないように感じる。では自分が楽しみ、さらに周囲に楽しんでもらうにはどうしたらいいのだろう。

自身の経験から思うに、ランナー自身がレースを楽しみつつ、周りとその楽しみを分かち合うために必要なのは、やはり「応援」。その「応援」の力を増幅させる効果があるのがコスプレなのかもしれない。もちろん走りで魅了することができれば一番だが、持っている走破タイム以上に盛り上げを演出することができるのは、やはりコスプレの効果だと感じる。一般の市民ランナーは、個別に名指しで応援を受けることはめったにないが、コスプレをしていると親や友達以外の見知らぬ沿道の人からも名指しで声をかけてもらえる。昨年、これは素直にうれしかったし、昨日は楽しかった。

東京マラソン以外の大会でもコスプレランナーは人気者だが、東京マラソンは応援団の規模が違う。この楽しみ方はやはりひとつの名物なのだと思う。これは私の友人の言葉だが、マラソンはもちろん「競走」に違いないが、東京マラソンは「共走」の要素も強いのだ。東京マラソン財団広報担当も、「(ガイドラインは)ランナーの楽しみを制限するものではない」としているので、コスプレが全面禁止されることは今のところなさそう。ルールは守らなくてはいけないが、コスプレ記者としては、来年もし当たったらと、今から考えずにはいられない。2016年の第10回大会が楽しみだ。

 

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「東京マラソン2015」の様子©東京マラソン財団

伊澤佑美(いざわゆみ)

伊澤佑美(いざわゆみ)

PRプランナーであると共に、東京を拠点にライター・編集者として活動中。スポーツ取材から食レポ、旬ネタまで、幅広い分野の情報を発信している。フルマラソン4年目にして、サブ4を達成したファンランナー。 ※東洋経済オンラインでもコラム執筆中

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