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January 27 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

「世界との戦い」を前に。日本女子車椅子バスケの「今」

1月20~25日の6日間にわたって、「ソルトアリーナ防府」(山口県防府市)では、女子車椅子バスケットボール日本代表の強化合宿が行われた。今回は、2月9~11日に行われる「国際親善試合女子車椅子バスケットボール大阪大会」(大阪カップ)に向けての、戦術・戦略のさらなる強化が図られた。橘香織(たちばな・かおり)ヘッドコーチ(HC)の下、3年後の東京パラリンピックでは「心を一つにして、世界一になるために、チーム一丸となる」をテーマとする「One Team」で世界の頂点を狙う日本女子チームの「今」を取材した。

『破壊』と『再生』を繰り返した2016年

2015年10月に行われた「三菱電機2015IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉」(AOZ)で、中国、オーストラリアを相手に、5戦全敗を喫し、ロンドンに続いて2大会連続でパラリンピックの出場を逃した日本女子。選手たちが受けたショックは相当大きなものだった。

「このままではダメだ」――。これが、代表選考でふるい落とされた選手たちも含め、日本女子の共通した認識だった。

そこで、2020年まで続投が決定した橘HCが最初に掲げたのは、「リ・クリエーション」(再創造)。これまで積み上げてきたものをすべて否定するのではなく、それを基盤としながらも、一からチームづくりをするというものだった。

女子車椅子バスケットボール日本代表、橘香織ヘッドコーチ

一からのチームづくりのために、自分たちを見つめ直すことに時間を割いてきたという橘HC(中央)。

「2016年は、『破壊』と『再生』を繰り返し行ってきた1年でした。ゼロにするのではなく、もう一度見つめ直す作業から始まり、『自分たちに必要なものとは何なのか』『本当の強さを手に入れるためには、何をしなければいけないのか』を考えながら、自分たちで自分たちと向き合う時間を過ごしてきました」

その中で、目指してきたのは2020年東京パラリンピックで金メダルを目指すにふさわしいチームづくりだ。「勝ちたい」という願望ではなく、「勝つ」という覚悟と確かな自信を、メンバー全員が持った闘う集団「One Team」である。

現在はその道半ばで、決して順当とは言えない。しかし、橘HCも選手たち自身も、『破壊』と『再生』を繰り返した2016年を経て、今、少しずつではあるが、ようやくチームが「One Team」へと前進し始めたと感じつつある。

きっかけのひとつは、昨年9月に秋田・能代で行われた代表選考合宿だった。実はこの時、選手間に大きな亀裂が入り、チームは一度壊れかけた。それは、合宿中盤に起こった。

「なんだか選手たちの気持ちが入っていない雰囲気があったんです。このまま練習を続けても意味がないと思い、途中で練習をストップさせました。すると、ある選手からチームの雰囲気に対する不満というか、本音が出たんです。『このままの中途半端な気持ちでやっていいのだろうか』と」

その日、1日がかりで話し合いが行われた。お互いに本音をぶつけ合うことで、改めて自分たちが何を目指し、そのためには今、何をすべきなのかを再認識させた。

そんなふうにして、「もがき苦しみながらも成長することができた1年」を、キャプテンの藤井郁美(ふじい・いくみ)は、こう振り返る。

「バスケの技術うんぬん以前の、人として周囲のことを考えたり、プレーヤーとしての練習に取り組む姿勢など、今まで見て見ぬふりをしてきた部分について、徹底的に叩き直された1年でした。自分を、自分たちを、見つめ直し、みんなで話し合う時間をたくさん過ごす中で、いろいろともがき苦しみながら前に進むことができました。今は『チームが一つの方向に進んでいる』と、自分たち自身が感じられるようになっています」

女子車椅子バスケットボール日本代表、キャプテンの藤井郁美

チームが変わりつつあることを実感しているという、キャプテンの藤井郁美(左)

橘HCも、そんな選手たちの変化に、「一歩」を踏み出し始めたと感じている。しかし、橘HCは「まだまだ」と厳しい口調を緩めない。今はまだ「感触」であり、「手応え」までには至っていないからだ。それほど、彼女たちが目指すものは高く、険しい。いばらの道はまだまだ続く。

やる気スイッチ」を押した落選の悔しさ

そんな中、迎えた2017年は、チームにとって重要なシーズンとなる。来年開催される世界選手権のアジアオセアニア予選が控えているのだ。世界選手権への切符は、2枚。2015年のAOZ同様に、中国、オーストラリアとの厳しい戦いが待ち受けている。

2月の大阪カップは、その予選に向けて、重要な大会となる。そこでの「手応え」と「課題」をもって、予選へと突き進むことになるからだ。チームの士気を高める大会とするか否かは、選手たち次第だ。

その要素のひとつに、先の能代合宿から重要ポイントとして掲げてきた「自分のことだけでなく、周囲のことも考えられる選手になる」ことがある気がしてならない。そう感じたのは、今回の強化合宿で見たある選手の姿にあった。吉田絵里架(よしだ・えりか)だ。彼女は、チームでは上村知佳(うえむら・ちか)に次ぐベテラン。2004年アテネ、2008年北京と2大会連続でパラリンピックに出場し、北京とロンドンの予選ではキャプテンとしてチームを牽引した。豊富な経験を生かした上手さは、いまだ若手の追随を許さない印象がある。

しかし、今回2月の大阪カップの代表選考で、吉田は落選した。橘HCはその理由を「他の選手に比べて、成長が小さかったから」と、あえて厳しく語る。代表の座は、どの選手にも確約はされていないのだ。

今回の合宿では、吉田は同じく落選した湯浅冴華(ゆあさ・さえか)と2人、代表選手たちの「サポート役」として参加していた。

合宿地を訪れた日、体育館に入ると、フリースローの練習が行われており、続いて体育館の端から端まで、休みなく続く往復のダッシュが始まった。徐々に疲労感が見え始め、こちらが思わず顔をしかめてしまうほど、苦しさが伝わってきた。

そんな中、一度も手を緩めることなく、さらにはほかの選手たちが疲労とともに徐々に声が出なくなる中、最後の最後まで常に声を出し、周囲を鼓舞していたのが吉田だった。落選したとは思えないほどの意欲に満ちた姿が、そこにはあった。

女子車椅子バスケットボール日本代表、吉田絵里架

一つひとつのプレーに全力で臨む吉田絵里架(左)。チームの絶対的存在を目指す。

その理由を聞くと、吉田は人知れず抱いていた思いを語ってくれた。

「リオの予選での敗戦は、私にとってはとても大きかったんです。確かに自分たちの努力や実力が足りなかったからこその敗戦だったと感じています。ただ、自分としては職場をかえて練習環境を整えるなど、やるだけのことはやってきました。それこそ、人生を懸けてという思いだったんです。だから、予選が終わった時に、『こんなにやっても、あかんのや』と、もう何をすればいいのかわからなくなったんです。それ以降も代表選考の合宿には呼んでもらって、それなりにやってきたつもりでしたが、やっぱりどこかで気持ちが入っていなかったのだと思います。でも、今回大阪カップの代表から漏れたと聞いた時、悔しくて、ようやく『やる気スイッチ』が入りました。今後は、チームに『絶対にいてほしい』と思われるような選手になりたいと思っています」

そんな吉田の気持ちは、橘HCにも伝わっていた。

「今回の合宿では、吉田はこれまでとは違う気がしますね。ようやく吹っ切れた感じがしています」

そして、こう続けた。

「吉田も湯浅も、彼女らはこの合宿でいくら頑張っても大阪カップには出れません。それでも、頑張ってくれている。さらに、この合宿に呼ばれていない選手だっているわけです。そういう選手たちの思いも、今回代表に選ばれた選手たちは背負って戦ってほしいと思います」

吉田とは逆に、2015年のAOZでは最終選考の末に落選し、その悔しさを糧に台頭してきた若手もいる。そのひとりが、チーム最年少の18歳、柳本あまね(やなぎもと・あまね)だ。

女子車椅子バスケットボール日本代表、柳本あまね

練習量を増やし、着実に成長している、チーム最年少の柳本あまね。

「リオの予選の代表から落ちた時は、本当に悔しくて、しばらく誰にも話しかけてもらいたくありませんでした。次こそは選んでもらえるように、練習量を増やして、自分の強みであるスピードとミドルシュートに磨きをかけてきました」

高校生の彼女は車の免許がないため、練習会場へは親の送り迎えが必要となる。そのため、それまでは親の仕事の都合上、週に3回練習に行くことができれば多い方だった。しかし、AOZ以降は親に無理を聞いてもらい、現在は多い時には週に6日練習しているという。その効果は如実に表れており、代表候補合宿での体力テストにおいても、スタミナやスピードの数値を伸ばし続けている。

柳本のほか、22歳の北間優衣(きたま・ゆい)や20歳の財満いずみ(ざいま・いずみ)も成長著しく、彼女らが2月の大阪カップで海外選手相手に、どんなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。

大阪カップには、リオデジャネイロパラリンピックで銅メダルを獲得したオランダ、ベスト4のイギリス、そして同じアジアオセアニアゾーンのオーストラリアが参加する。特にベストメンバーで臨んで来ると予想されているオランダ相手に、現在の日本がどんな試合をするのかに注目したい。

いよいよ本格的に「世界との戦い」が始まる2017年。大阪カップは、その幕開けとなる。

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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