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January 31 2017 By 村本浩平

「メジロ」の血統が生んだサクセスストーリー。世界で活躍したモーリスのこれから

「メジロ」の血統が生んだサクセスストーリー。世界で活躍したモーリスのこれから

スポーツ選手の評価は、成績や優れたパフォーマンスだけでなく、時には高額な年俸でも証明される。競馬界でも種牡馬の評価の1つとなるのが、そのシーズンに設定された種付け料(繁殖牝馬と交配する際に支払われる金額)と言えるだろう。

全く同条件でスタートする2頭の種牡馬

種付け料を設定する上で、最も重要な評価ポイントは産駒実績である。今シーズン、国内の繋養種牡馬では最高額となる、3000万円の種付け料が設定されたのはディープインパクト。昨年はサトノダイヤモンド(菊花賞、有馬記念)、マカヒキ(日本ダービー)など7頭のGⅠ馬を送り出し、これで5年連続でのリーディングサイアーとなった。

一方、今シーズンからディープインパクトと同じ、社台スタリオンステーションで繋養される2頭の新種牡馬は、ともに400万円の種付け料が設定された。

その2頭とは、一昨年にGⅠ3勝を含む6戦全勝の成績を残して年度代表馬に輝き、昨年もチャンピオンズマイル、天皇賞・秋、香港カップと3つのGⅠレースを勝利したモーリス(6歳)。 そして、一昨年の皐月賞、日本ダービーを圧巻のパフォーマンスで優勝、昨年の宝塚記念の後にけがで引退を余儀なくされたものの、現役時に一度も連対圏を外したことのない(1着5回、2着4回)ドゥラメンテ(5歳)である。

年齢も違えば、現役時は一度も直接対決が無かった2頭ではあるが、種牡馬としては全く同条件でのスタートを切ることになった。

けい養先となる社台スタリオンステーションへ到着したモーリス

けい養先となる社台スタリオンステーションへ到着したモーリス

日本競馬の発展とともに血統を伸ばしたメジロの牝系

モーリスは1月15日に中山競馬場で引退式が行われた後すぐに馬運車へと乗り込み、16日の午後1時45分に安平町の社台スタリオンステーションへと到着。社台スタリオンステーションのスタッフだけでなく、レースまでの調整が行われていたノーザンファームの関係者も出迎える中、輸送の疲れなど感じさせないような足取りで、種牡馬としての第一歩を記した。

その姿を見届けた、社台スタリオンステーション事務局の徳武英介氏は、「日本で育まれた母系から生まれたスターホースであるだけでなく、種牡馬入りまでの経緯を見ても、ものすごいサクセスストーリーだと思います」と話す。徳武氏の言葉にもあるように、モーリスの血統背景を見ていくと、牝系(母の血統)には「メジロ」の名前が並んでいることに気づかされる。

競馬ファンには馴染み深い「メジロ」の冠名。日本を代表するオーナーブリーダーでもあったメジロ牧場で育まれたその牝系は、史上初めての三冠牝馬となったメジロラモーヌ、「芦毛の怪物」とも言われたメジロマックイーンといった活躍馬を送り出していく中で、さらに発展を遂げていく。

モーリスの祖母となるメジロモントレーは勝利した重賞4勝のうち、3勝で牡馬を退けたという女傑であり、また同じ牝系にはエリザベス女王杯連覇を含む、GⅠ5勝をあげたメジロドーベルの名前もある。

この牝系を遡った際に出てくる共通の牝馬の名前が、モーリスの祖祖母に当たるメジロボサツである。そのメジロボサツからは3代、モーリスからは6代母となるデヴォーニアが、1928年に日本に輸入されたことを考えると、徳武氏の言葉の通り、日本競馬の発展とともにこの牝系は血統を伸ばしてきた事実がうかがえる。

取引金額150万円から始まったサクセスストーリー

一方、モーリスの活躍がサクセスストーリーであるというのは、上場されてきた競走馬市場における取引額を見ると改めて分かる。

日高町の戸川牧場で生産されたモーリスが、初めて競走馬市場に上場されたのが1歳時の夏に行われたサマーセール。後に10億を超える獲得賞金を得ることになるモーリスではあったが、この時の落札額は150万円でしかなかった。

その後、モーリスは競走馬としての可能性を感じ取った育成牧場で鍛錬を積まれた後、2歳の春には競馬場のコースを用いて行われた2歳トレーニングセールに上場。このセールにおけるファステストラップ(1番時計)を記録したものの、それでも活発な取引の声はかかることなく、最初の一声となった1千万円で落札されている。

かたや、高額な種付け料にふさわしい競走実績、繁殖実績共に一流の繁殖牝馬との間に誕生したディープインパクト産駒には、競走馬市場で1億円を超える評価がされることも珍しくはない。しかし、競走馬市場における額面評価を覆すかのような活躍を続け、最終的には引退式を行うまでとなったのは、まさにサクセスストーリーと言えよう。

バランスのとれた美しい馬体と卓越した競走能力は産駒にも受け継がれるか

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花嫁候補は競馬ファン夢の配合。海外からもオファー

その引退式では、ノーザンファーム代表の吉田勝己氏から取材陣に対して、「モーリスの配合相手には、ジェンティルドンナやブエナビスタを考えています」との発表があった。

ジェンティルドンナは現役時に牝馬三冠を含めてGⅠ7勝をあげ、2度にわたって年度代表馬に選出されたジェンティルドンナ。また、ブエナビスタは現役時にGⅠを6勝。獲得賞金の14億7886万9700円は、牝馬では最高額でもあり、ジェンティルドンナと同じく、ブエナビスタも年度代表馬となっている。

この2頭とモーリスとの配合は、父母共に年度代表馬という競馬ファンにとって夢の配合と言えるが、もう一つの共通点がジェンティルドンナ、ブエナビスタ共に、血統内にサンデーサイレンスの血を有していることである。実はモーリスの母父もサンデーサイレンスであり、この2頭の繁殖牝馬と配合した際には、「サンデーサイレンス3×4」のクロスが成立する。

「サンデーサイレンスを持つ繁殖牝馬も付けやすいと言えますし、ジェンティルドンナのような、母父ディープインパクト牝馬との相性が、今後どうなっていくのかも楽しみです」と徳武氏はこの配合によって生まれるクロスの影響は少ないと考えているだけでなく、モーリスが産駒に伝える能力を、サンデーサイレンスのクロスがさらに高めるとも見込んでいる。

GⅠ6勝のうち、海外で3勝をあげたモーリスは、国際的にも高い知名度を誇る。実際に社台スタリオンステーションには、海外からシャトル種牡馬(北半球とは季節が逆となる、南半球のオーストラリアやニュージーランドに渡って配合を行う)としてのオファーが、モーリスの元に来ているという。

今は400万円というモーリスの種付け料も、産駒の活躍次第ではさらに評価を上げていくはず。競走馬としてだけでなく、種牡馬としてのサクセスストーリーも、これから始まっていくのかもしれない。

2016年秋の天皇賞では圧倒的な強さを見せた

2016年秋の天皇賞では圧倒的な強さを見せた

村本浩平

村本浩平

馬産地ライター。1972年生まれ。20歳の頃に「第1回ナンバー・スポーツ ノンフィクション新人賞」を受賞。現在は馬産地でもある北海道をフィ ールドとしながら、生産地で働くホースマンの声を届けている。また、 中学生の頃からファンだった北海道日本ハムファイターズの取材も続ける。

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