TOPへ
February 03 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

他国を圧倒した守備力。見えた「成長の跡」と「課題」 ~IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会~

1月23~28日、6日間にわたって、タイ・バンコクで行われた「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」で、日本は決勝でイランに51-67で敗れた。残念ながら、「アジアオセアニアチャンピオン」という目標は達成することはできなかったが、上位3カ国に与えられる世界選手権への切符はきっちりと獲得した。

「昨年チームがスタートした時を考えれば、よくここまで戦えるようになったなと思います」

京谷和幸(きょうや・かずゆき)ヘッドコーチ(HC)はそう言って目を細めた。イラン、オーストラリアという強豪相手にも全く臆することなく、それどころか自信を持って戦い抜いたU23日本代表。周囲を驚かせるほどの成長ぶりを見せた彼らの戦いを追った。

2カ月前との違いを見せたオーストラリア戦

2カ月前の11月に行われた北九州チャンピオンズカップで見た彼らには、「伸びしろ」こそ感じたものの、正直な感想を述べれば、やはりどこかチームとしての力不足を感じていた。戦力という面では、リオデジャネイロパラリンピック日本代表の鳥海連志(ちょうかい・れんし)と、同日本代表候補だった古澤拓也(ふるさわ・たくや)の2人への比重が大きい印象があった。

ところが今回、タイ・バンコクの地で目にしたチームは、ガラリと変わっていた。確かに、キャプテン、副キャプテンである古澤と鳥海の2人が柱であることには変わりはなかったが、そこには2カ月前には希薄に映っていた「チームで戦う」姿があった。

車椅子バスケットボール「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」

この2カ月で、「チーム力」を格段に高めたU-23の日本代表チーム。

それが最も色濃く見られたのが、予選リーグ3試合目のオーストラリア戦だった。オーストラリアとは、2カ月前の北九州でも対戦している。当時、チームにはオーバーエイジも含まれていた日本だったが、オーストラリア戦だけはU23の選手たちだけで臨んだ。序盤からリードを許し、追う展開となったが、試合終了約40秒前で逆転し、劇的な勝利を収めた。だが、途中まで試合の主導権を握っていたのはオーストラリアであり、今大会でも苦しめられることは十分に予測することができた。

しかし、第1クオーターで6-13とダブルスコアでのビハインドを負った2カ月前とは一転、16-8と日本がダブルスコアでリードを奪ってみせた。特に光っていたのは、ディフェンスだった。ゴール下に戻り切らずに、ハーフライン付近の高い位置から厳しくプレッシャーをかけ、相手の攻撃を封じたのだ。

それは、日本のチェアスキル(車椅子操作)のレベルの高さを物語っていた。ファウルにはならないタイヤの当て方、ひっかけ方をマスターしているからこそ可能なディフェンスだった。

車椅子バスケットボール「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」

ディフェンスのスキルの高さを見せたオーストラリア戦。

1人をかわしても、すぐにカバーに入る重厚な日本のディフェンスに対し、オーストラリアはハーフからボールを運ぶことができずに「8秒バイオレーション」を取られたり、パスコースを狭められてターンオーバーを取られるなど、苦戦を強いられた。2カ月前の北九州から一段とレベルアップを遂げた日本に、オーストラリアは驚いたに違いない。

こうしてディフェンスでリズムをつかんだ日本は、次々と得点を積み重ね、オーストラリア相手に「全員得点」を達成した。これには、選手たちも大きな自信を得たことだろう。

課題が浮き彫りとなった決勝戦

その自信が、2日後に行われたイラン戦につながったことは想像に難くない。試合前のミーティングで、京谷HCは、選手たちにこうハッパをかけた。

「スピードは、日本がナンバーワンだ!自信を持っていこう!チーム全員で、絶対に勝つぞ!」

その言葉通り、イランの高さに対して、日本は最大の強みである「トランジションの速さ」で対抗し、やはり高い位置からディフェンスラインを敷くことで、ゴールに近づけさせないようにした。オーストラリア戦同様、この試合でも日本はディフェンスで圧倒し、勝ち切ってみせた。

5戦全勝で予選リーグを1位で通過した日本は、準決勝でタイを破り、決勝に進出。この時点で、6月に行われる世界選手権への出場が決定した。しかし、選手たちに浮かれている様子はなかった。なぜなら、彼らの目標は決勝での勝利にこそあったからだった。

準決勝後、京谷HCはこう檄を飛ばした。

「今日勝てたことは良かったが、オレたちの目標は出場権獲得ではない。チャンピオンになることだ。もうひと踏ん張りだぞ!明日(の決勝)は、絶対に勝つぞ!」

指揮官の言葉に、選手たちは闘争心を燃やしているように感じられた。

車椅子バスケットボール「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」

「アジアオセアニアチャンピオンになる」という強い意思を持って臨んだ決勝戦。

迎えた決勝は、準決勝でオーストラリアとの激闘を制したイランとの対戦だった。実はこの試合で、日本は課題を突き付けられることとなる。

2日前に行われた予選では、試合開始早々に古澤がスリーポイントを2本立て続けに決めたことで、日本が試合の主導権を握った。ところが、この試合では古澤のシュートがなかなか入らなかった。それは、チーム一の得点源である鳥海もまた同じだった。第1クオーターの前半、日本は最大7点のビハインドを負う苦しい展開となった。それでも、後半には得意のディフェンスでイランからターンオーバーを奪って得点へとつなげ、1点差にまで迫った。

第2クオーターでは、川原凛(かわはら・りん)のミドルシュートで逆転すると、鳥海がレイアップシュートを決め、流れを引き寄せかけた。しかし、この日のイランは崩れなかった。特にハイポインターのエースがインサイドから、アウトサイドからと、次々とシュートを決め、「神がかり」的な活躍を見せたことが大きかった。

車椅子バスケットボール「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」

イランの猛攻撃。高さをいかし、次々とシュートを決めた。

一方、日本はというと、やはりシュートの確率が上がらず、苦しい時間帯が続いていた。高さでは太刀打ちできない中、日本はディフェンスのいい5人が主力となって戦った。しかし、いくらディフェンスで相手を止めても、自分たちのシュートが入らなければ点差は開く一方だった。結局、第1クオーターでわずか1点だったイランのリードは、終わってみれば16点にまで広がっていた。

次なる課題は「シュート力」と「ハイポインターの奮起」

決勝での日本のシュート数は86本。そのうち成功したのは、わずか22本だった。準決勝までは、30%台後半をキープしていたシュートの確率は、決勝では約26%にまで落ち込んでしまったのだ。

試合後、京谷HCはこう語った。

「いくらそれまでの展開が良くても、フィニッシュが雑になってしまえば、得点は入らない。最後の最後に、若さが出てしまったかもしれませんね。ただ、選手たちはここ数日タフな試合が続いていました。走るバスケというプレースタイルを考えても、体力は消耗していたはず。最後に疲れが出てしまったことが、大きかったかもしれません。いずれにしても、すべては僕の責任。自分にとっても、学ぶことが多い大会でした」

一方、選手たちも次への課題がオフェンスであることは十分に認識している。「自分自身、大事な試合や疲れてきた時こそシュートの確率を上げていかなければいけない」と古澤が言えば、鳥海も「ディフェンスの面では十分にやれた。あとは自分たちが確率のいいオフェンスをしていくだけ」と語った。

最後に大きな課題が浮き彫りとなった日本だが、成長したからこそ、見えてきたものであったに違いない。それは、京谷HCのこんな言葉からもうかがい知れる。

「昨年チームがスタートした時を考えれば、よくここまで戦えるようになったなと。選手たちは本当によくやってくれました。この大会期間中にも、すごく成長してくれたと思います。課題は多いですが、すべては一つ一つですからね。着実にレベルアップしてくれていますよ」

「大会期間中に成長した選手」のひとりが、赤石竜我(あかいし・りゅうが)だろう。彼は今大会で初めて代表入りした選手で、最初、出場時間は決して多い方ではなかった。それでも、ベンチで人一倍声を出し、「ムードメーカー」として献身的に自らの役割を全うしようとする姿があった。すると、試合を重ねていくうちに、赤石の出場時間は増えていった。彼の粘り強いディフェンスに、京谷HCが信頼を寄せるようになったからだった。イランとの決勝では、ほぼ主力としての役割が与えられるほどになっていた。

車椅子バスケットボール赤石竜我選手

ムードメーカーだった赤石竜我は、しだいに、戦力としてもチームの欠かせない存在に。

しかし、その一方で、明確となったのがハイポインターの選手たちの奮起が今後のカギを握るということだろう。実は決勝で最も多くの時間を費やしたラインアップは、持ち点が3.0、2.5、2.5、2.0、1.5というローポインターに偏ったものだった。途中、4.5のハイポインターと、2.5のローポインターを入れ替えなければならなかったところに、日本の苦しいチーム事情があった。

もちろん、これはあくまでも次への課題である。「今の自分たちは、高さもオフェンス力もない。だからこそ、ディフェンスだけは絶対に負けないというふうに決めて臨みました」と古澤が語る通り、今回のミッションであるディフェンス面では完全に他国を圧倒してみせた。

その選手たちの成長は、「強化合宿」の成果だと古澤は見ている。

「12月にまずはナショナルの方の代表合宿があって、そこにU23の選手たちも3日間だけ参加させてもらったんです。日本のトップ選手たちを間近で見ることで、選手たちの意識がだいぶ変わったと思います。それと、12月末に行われたU23だけの合宿では、相当きついトレーニングで鍛えたので、みんなそれで自信を持ったんです」

もちろん、これで終わりではない。選手たちは、6月の世界選手権に向けて、さらに成長していくはずだ。

鳥海は言う。

「今大会のメインテーマは、チーム一丸となって全員で戦っていくこと。それは、北九州よりも高まったし、大会中も試合を重ねる度に、良くなっていったと感じています。今後は細かいスキルの部分を上げていけば、6月にはもっと高いレベルのバスケができるチームになっているはずです」

6月8~16日に、カナダ・トロントで開催される世界選手権には、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジア・オセアニアの各ゾーン予選を勝ち抜いた12チームで世界チャンピオンの座を争う。日本は、銀メダルを獲得した2005年以来、2大会ぶりのメダルを狙う。

果たして、4カ月後にはどんな成長を見せてくれるのか。日本車椅子バスケの将来を担うU23日本代表に注目したい。

車椅子バスケットボール「IWBF男子U23世界選手権アジアオセアニアゾーン予選会」

準優勝で世界選手権への切符を手にしたU-23日本代表に、期待が高まる。

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう