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February 08 2017 By ゆるすぽ編集部

チーム存続も危ぶまれたBリーグ・熊本ヴォルターズ 快進撃の原動力となっている湯之上聡代表の“夢”

B.LEAGUE(Bリーグ)の開幕年である今シーズン、B2リーグ西地区において首位でシーズン後半へと折り返したのは、熊本ヴォルターズだ。

ヴォルターズにとって2016年は、4月に熊本地震により被災し、9月にBリーグ開幕を迎えるという、激動の年であった。今、どのように試練を乗り越えながら、たくましく戦っているのか――。湯之上聡(ゆのうえ・さとし)代表にお話を伺い、その力強さに触れることができた。

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チーム存続の危機から這い上がり、西地区首位でシーズンを折り返す

熊本地震が発生したのは、4月14日。ヴォルターズは、Bリーグの前身リーグの一つであるNBLに所属しており、その最後の年となるシーズン中に被災し、残り6試合をやむを得ず断念することとなった。それまでも資金的には苦しかった中、被災が大きな追い打ちとなった。

試合会場であり、練習拠点でもあった益城町総合体育館は天井が全て剥がれ落ち、その後は避難所となった。スポンサーもファンも被災したことにより収入は途絶え、一時はチームの存続も危ぶまれる状況にまで追い込まれた。

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商店街の一角にあるヴォルターズの事務所。熊本地震の際は、アーケードも事務所内も被災した。

例年は6月から来季のスポンサー契約を進めていたが、営業面で動き出すことができたのは、7月に入ってから。ようやく復旧の兆しが見えてきた各企業と契約を結び、クラウドファンディングで集めた資金も助けとなり、なんとか9月のBリーグ開幕を迎えることができた。

熊本地震以来、選手たちはボールにすら触れられない日々もあった。だが、Bリーグが開幕し、シーズン前半を終えた1月20日・21日の第15節終了時点で、西地区で首位に立っていた。その要因を、湯之上代表はこう語った。

「選手たち一人ひとりに『こんな時だからこそ』という思いが強いんじゃないのかな、と思います。それがプラスアルファの力となって発揮できているのかもしれません」

そして、このチームに根付いているとてつもない底力には、もう一つ要因があるようだ。全く何もない状態からヴォルターズを立ち上げるきっかけとなった、湯之上代表が抱いたある“夢”にその答えがあった。

「子どもたちが夢を持つ。それが僕の夢なんです」

小学4年生だった湯之上少年がバスケットボールと出会ったのは、兄の影響からだった。兄の試合を見て面白そうだと思い、バスケットボールを始めたのだという。

だが、大学生の時に、大切な兄と死別――。自分の生きる道や、自分がこれから何をしていきたいのか悩み、迷い、教員の道を選んだ。そして、教育の現場で湯之上代表が見たのは、“夢を持てない子どもたち”だった。「なんで学校に来てるの?」と聞くと、「親が行けって言うから」と答える子どもたち。

「目標や憧れ、希望、夢というものがないと日本は駄目になるんじゃないかと思ったし、子どもたちにそう思わせてしまう教育の在り方に疑問を感じました」

悩みながらも6年間中学校の教員を続けた湯之上代表。突然転機が訪れたのは、27歳の時だった。「アメリカにバスケットボールの勉強をしに行かないか」という誘いがあったのだ。

そしてアメリカに渡った湯之上代表が見たのは、日本と全く違う指導の在り方だった。

「日本はどちらかというとスパルタで、根性論で、できないことばかり指摘すると思うんです。アメリカでは練習方法も面白いし、工夫してあるし、“できないことをできるようにステップアップさせるのが指導者の役割”ということが体現されていました。

決して、日本が悪くてアメリカがいいというわけではないんですが、新しい指導の在り方だったり、新しい教育の文化を創っていくことが必要だということに気付かされたんです」

指導現場を見るとともに、NBAも見て回った湯之上代表は、そのきらびやかな世界や、それを見て憧れる子どもたち、日々のストレス発散をしに来る観客たちの姿を見て驚いたという。そして、ある“夢”を抱いたのだ。

「こんな環境が熊本にあったら、子どもたちが夢を持って、熊本の人たちが喜んで感動してくれるんじゃないか。そしてまた何か新しい人のつながりができていけば、さらにいい環境が生まれていくんじゃないかと思いました」

その後帰国し、熊本で、全くゼロの状態からヴォルターズを立ち上げた。湯之上代表がヴォルターズの使命として挙げているのは、『子どもたちに夢を創る』『熊本に感動を創る』『人と人のつながりを創る』ということだ。

特に“子どもたち”に対しては強い思いを持つ湯之上代表は、「子どもたちが夢を持つということが、僕の夢なんです」と語る。NBLに参入して2年目、2014年の冬に、とてもうれしい出来事があったそうだ。たまたまテレビを見ていた時、熊本のローカル番組に出てきた少年が、「将来の夢は何ですか?」と聞かれたのに対し、「ヴォルターズに入ることです」と答えたという。

「一つ形になったなと思い、とてもうれしかったです。そして、次はその子が本当に夢をかなえられるような環境づくりをしていかないといけないなと思いました」

ヴォルターズは、『トリコロールキャラバン』という活動に非常に力を入れている。子どもたちや、地域と触れ合う活動だ。その活動の一環として行われている「1dayクリニック」では、選手たちが学校や保育園などを訪れ、子どもたちに直接バスケットボールの指導をしている。学校の教室で「夢トーク」という授業を行い、夢を持つことの大切さを話したりもしている。

ヴォルターズが持つバスケットボールスクール「RTC」(Regional Training Center=地域のトレーニングセンターの意)は、まだ設立2年目で15人ほどだというが、個人の技術を身に付ける指導を行っており、学校の部活と両立している生徒も多いという。

あらためて湯之上代表に今後の目標を聞くと――。

「子どもたちが夢を持ち、目標を持ち、プロバスケ選手になりたいと志し、5年後、10年後に本当にヴォルターズに入ってくれたらいいなと思います。そして、『僕はヴォルターズを見て憧れて、夢を持って努力してきました。一歩一歩努力した結果、このコートに今立つことができています』――。そんな話をしてくれたら、もう言うことはないですね」

湯之上代表は、さらに言葉に力を込め、こう続けた。

「何もなかったころと比べると、今はヴォルターズというチームがありますし、選手たちも広告塔になって“夢を持つことの大切さ”を話してくれています。“子どもたちのために”という思いは、選手たちも強く持ってくれているので。

子どもたちが生きていく中で、ヴォルターズに出会って、未来を切り開いていってほしい。そして、そんな存在に僕らはなっていかないといけないなと思っています」

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〔15節〕1月20日、玉名市総合体育館で行われたホームゲーム。#2古野拓巳選手

確かな思いを持つヴォルターズは、シーズン後半も、力強く戦っていくことだろう。そして、その先にある湯之上代表の夢の続きも、とても楽しみだ。

<文・成尾梢(text by Kozue Naruo)>

ゆるすぽ編集部

ゆるすぽ編集部

“みんなでつくるスポーツニュース”をコンセプトにwebサイトを展開。(http://www.yurusupo.com/)ファン目線を大事にし、スポーツニュースで報道される以外のさまざまなスポーツネタをゆる~く紹介しています。「ボーダレス」にも記事を展開。

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