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February 17 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

「One Team」へ「全員バスケ」と「個の力」の融合性 ~女子車椅子バスケットボール日本代表~

「ようやく世界と同じフィールドに立てた気がします」――キャプテンのこの言葉が、すべてを集約しているように感じられた。

2月9~11日の3日間にわたって、大阪市中央体育館で「国際親善女子車椅子バスケットボール大阪大会」(大阪カップ)が行われた。オランダ、イギリス、オーストラリア、そして日本の4カ国が参加し、決勝でオーストラリアを破ったオランダが優勝。日本は決勝進出には至らなかったが、予選で敗れたイギリスとの3位決定戦を制し、勝利で終えた。2大会連続でパラリンピックに出場することができず、約2年もの間、国際大会では勝ち星を挙げることができなかった車椅子バスケットボールの日本女子チーム。その彼女たちの前に、今、ようやく一筋の光が見え始めた。

最初と最後の大事な局面で決めた22歳・北間

初戦のオランダ戦、日本は早速「変貌」した姿を見せた。

第1Qのスタート、試合の主導権を握ったのはオランダだった。昨年のリオデジャネイロパラリンピックに最年少の18歳で出場した、注目の若きハイポインターであるボー・クラメルが次々とシュートを決める中、逆に日本のシュートはリングから嫌われ続け、約1分半もの間、無得点に終わった。

車椅子バスケットボール オランダの若きポイントゲッター、ボー・クラメル

得点を積み上げるオランダの若きポイントゲッター、ボー・クラメル(撮影:斎藤寿子)

このままオランダに主導権を握られるかと思われた矢先、嫌な流れを断ち切ったのが22歳、現役大学生の北間優衣(きたま・ゆい)だった。1カ月前の強化合宿でもキレのいい動きを見せ、橘香織(たちばな・かおり)ヘッドコーチ(HC)からも「最も成長著しい選手」のひとりに挙げられていた。その北間が、相手のファウルを誘うシュートを決めて、バスケットカウントとし、見事フリースローも決めて3得点を挙げた。

その後はキャプテンの藤井郁美(ふじい・いくみ)、北田千尋(きただ・ちひろ)のハイポインター2人を中心に、積極的な攻撃を見せた日本は逆転に成功。第2Q以降も、銅メダルを獲得したリオのメンバー7人を擁するオランダ相手に一歩も譲らなかった。

44-43と1点差で迎えた第4Qもシーソーゲームとなり、まさに手に汗握る展開に、会場は緊張感に包まれていた。わずかながらリードを守り続けてきた日本だったが、終盤にオランダに逆転を許し、残り1分半で4点のビハインドを負ってしまう。ここでチームを救ったのが、キャプテンの藤井だった。立て続けに2本のミドルシュートを決めて同点としたのだ。さらに日本は1分半もの間、オランダの攻撃を封じ、延長戦へと持ち込んだ。

延長戦に入っても、がっぷり四つの展開は変わらなかった。アウトサイドからミドルシュートを高確率で決める日本に対し、オランダは高さを生かしてインサイドを攻め、ゴール下のシュートを確実に決めていく。勝負の行方は最後までわからなかった。

そんな中、残り24秒でオランダが1点リードした。ここで何度もチームを救ってきた藤井がミドルシュートを放つも、惜しくも外れ、オランダがリバウンドボールを制した。10秒という残り時間を考えれば、1点リードのオランダは時間稼ぎをするだけで勝利を得ることができる。日本にとっては万事休すと思われた。

ところが、オランダがリバウンドボールをミスキャッチし、ボールはラインを割った。残り8秒で日本ボールでのスローインという思いがけずに巡ってきたラストチャンスに、決めたのがまたも北間だった。角度のないゴールの真横からという難しいシュートを「1年間磨いてきた」と語る北間は、見ている者に心地よさを感じさせるほどの美しいシュートを決めてみせた。これが決勝点となり、日本は69-68で接戦を制し、白星スタートを切った。

車椅子バスケットボール日本女子 北間結衣

大事な場面でプレーが光った北間。

試合後、橘HCはこう語ってくれた。

「この1年間、さまざまなぶつかり合いや葛藤がありました。そうした状況を乗り越えてきたことが選手たちには大きな自信となり、プレーに表れていたのだと思います。改めて何のためにやってきたのか、ということを一人ひとりが考え、『勝つためにやるべきことをやるだけ』と集中力を高めて大会に入ってくれたことが、一番大きかったと思います」

車椅子バスケットボール日本女子代表 橘香織ヘッドコーチ

試合中、檄を飛ばし、選手たちを鼓舞し続けた橘HC

試合後、選手たちは実にいい顔をしていた。2015年のリオデジャネイロパラリンピック予選、2016年の大阪カップでは、いずれも一度も見ることのできなかった表情に、チームが変化し始めていることが映し出されていた。

勝利につながった敗戦での足跡

しかし2日目は、イギリス、オーストラリアに連敗を喫し、日本は1勝2敗で決勝には進出することができなかった。特に浮き彫りとなったのが、ディフェンス面での課題だった。高さのある相手に対しては、いかにゴールに近づけさせないかは鉄則と言っても過言ではない。ところが、この日の日本はボールマンへのプレッシャーが弱く、後ろに引いて守ろうとしたために、簡単にゴール下へとボールを運ばれた。さらに高い相手に対し、高さで劣るローポインターがつくというミスマッチによって、悠々とシュートを決められるシーンが多く見受けられたのだ。

正直な感想を言えば、イギリス、オーストラリアこそ、勝たなければならない相手だったはずだ。パラリンピックの翌年というタイミング、さらには「親善試合」ということもあって、両チームともにベストメンバーを組んではいない。特にイギリスにおいては、スピードもシュートの巧さも、真のナショナルチームとは格段に違いがあるように感じられた。

もちろん、いずれにしても高さがあり、簡単に勝てる相手ではない。しかし、初戦のオランダ戦で見せた実力をもってすれば、勝てない相手ではなかったのではないか。力負けではない印象が強かっただけに、見ていて悔しさが募る2試合だった。

しかし、翌日のイギリスとの3位決定戦で、日本はきっちりと修正してきた。試合開始早々、オールコートでプレスディフェンスをしいてきたのだ。前日とのあまりの違いに、イギリスは動揺したに違いなかった。1分もしないうちに慌ててタイムアウトを要求したのは、その何よりの証しだった。

車椅子バスケットボール日本女子代表

試合前に円陣を組んで気持ちを入れ、スタートから高い集中力で臨んだ3位決定戦。

実は前日、日本は悪いままで終わってはいなかった。、2試合目のオーストラリア戦、第4Qの終盤には高い位置から厳しくプレッシャーをかけ、オーストラリアから8秒バイオレーションを奪った。さらに、最後はスチールからの速攻で得点を決めて試合を締めくくった。勝負には敗れたものの、最後にはしっかりと次につながる足跡を残すところにこそ、これまでとの違いが感じられた。

試合後、キャプテン藤井はこう語っていた。

「最後の方になって、ようやくトランジションを速くして、ボールマンにプレッシャーをかけて止めるというディフェンスができた。あれを最初からやっていかなければいけなかったなと。明日は、もっとボールマンに強く当たっていきたいと思います」

まさに「有言実行」の姿を、3位決定戦で見せてくれたのだ。

また、最後にイギリスがファウルゲームをしてきた際、日本はフリースローを高確率で決めてみせた。フリースローは高さで劣る日本が、確実に得点できるチャンスでもある。だからこそ、合宿でも常に重視してきた。橘HCによれば、合宿では50%を割ることも少なくなかったという。だが、3位決定戦での成功率は64.7%と、日本戦以外も含めた今大会の全8試合で最も高い数字を誇った。こうしたところにも、成長の跡が見てとれた。

 今大会で見えた網本の新たな存在価値

この試合、チームにとって大きかったことがもうひとつあった。網本が本領発揮した姿を見せてくれたことだ。リオを目指していた2015年までのチームは「エース網本次第」という印象が強かった。だが、それでは海外勢に勝つことはできないことは、2大会連続でパラリンピックの出場を逃したという実情が物語っている。だからこそ、チームは「全員バスケ」を目指し、個々のスキルアップを図ってきた。今大会、網本をスタメンで起用せずに、ベンチに温存するという戦いは、チームにとっての「初挑戦」でもあった。初戦のオランダ戦での勝利は、その成果といえた。

とはいえ、やはり網本の爆発力が必要な気がしてならなかった。チームの流れが悪い時など、ここぞという時に、「個の力」で無理やりにでもこじ開けていくようなプレーが欲しい時が必ずある。それができるのは、やはり今の日本の中では網本が随一だ。

車椅子バスケットボール日本女子代表 網本麻里

現在、ドイツ・ブンデスリーガでプレーする網本。劣勢の場面でチーム救う好プレーを見せた。

それを証明してくれたのが、3位決定戦で最も苦しい時間帯となった第3Qだった。中盤、それまで最大7点あった点差は1点差にまで詰め寄られた。この危機的状況に、網本はわずか1分間にひとりで立て続けに3ゴールを奪い、一気に引き離したのだ。これが、勝因のひとつとなったことは間違いない。

もともと網本は自らを「エース」という位置付けに置いてはいない。あくまでも自分はチームの一員であり、「全員で戦っている」という意識が強い。実際、今大会を見れば、もう「エース」という呼び方は不要なのかもしれない。たが、やはり彼女の「個の力」は必要である。

「(網本)麻里をシックスマンとして温存するなんて、贅沢だし、安心できる」

指揮官もキャプテンも、口を揃えてこう語る。チームとして成長し、「全員バスケ」が可能となったことで、これまで先頭を切っていた網本が、チームに融合しながらも、後ろから支えるという立場となった。それが、今大会で見えたチームのひとつのかたちだったのではないだろうか。

さて、今年は来年の世界選手権への出場権がかかった厳しい戦いが待ち受けている。今大会で敗れたオーストラリア、そしてリオに出場した中国に勝つには、さらなる成長が必要であることは間違いない。

トランジションの速さ、連戦でも40分間走り切るスタミナ、スピード、シュートの確実性……克服すべき課題は、まだまだ山積している。それでも、各選手は確実にスキルアップし、そしてチームは着実に「One Team」へと前進している。

いよいよ、ここからが本番である。

車椅子バスケットボール日本女子代表

「One Team」へ前進し続ける日本女子代表。さらなる成長が期待される。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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