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February 24 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

「夢中」の走りでトップ狙う東京マラソン ~車いすランナー・西田宗城~

26日に行われる「東京マラソン2017」。今年からボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークと同じ「アボット・ワールドマラソンメジャーズ」となった車いすの部は、リオデジャネイロパラリンピック金メダリストのマルセル・フグ(スイス)も参戦するなど、世界トップレベルの戦いが繰り広げられることが予想されている。そして、今年からコースが変更となったことも見どころの一つだ。最後に激しいアップダウンが繰り返された昨年までとは異なり、今年のコースは初めの下りを除けば、その後はほぼフラットな道が続く。そのため、高速レースが予測されている。このコース変更をプラスと捉えているのが、西田宗城(にしだ・ひろき)だ。果たして、どんなレース展開を考えているのか。西田にインタビューをした。

後悔なく切れた「次」へのスタート

「成長著しい若手の一人」だった西田が、その殻を抜け出したように見えたのは、2015年11月の大分国際車いすマラソンだった。最後まで「日本人トップ争い」を繰り広げ、自己最高位となる4位となった西田は、リオデジャネイロパラリンピックの代表候補の一人として、存在感をアピールした。

その3カ月後に行われた東京マラソンでも、積極的な走りを見せた。しかし、終盤35キロ過ぎから続くアップダウンの上り坂で先頭集団から徐々に離され、6位という結果に終わった。その後リオへのラストチャンスとされた4月のロンドンマラソンでも日本人トップの6位と善戦はしたものの、結局リオ行きの切符をつかむことはできなかった。

東京マラソン2016

東京マラソン2016では、終盤に後れを取り、6位という結果に終わった。

もちろん、パラリンピックに出場することができない悔しさはあった。しかし、後悔の念は一滴たりとも出てくることはなかったという。

「リオに行けなかったことは残念でしたけど、やるだけのことはやったという気持ちでした。それで行けなかったのは自分の力不足。だったら、次に向けて、さらにやっていくだけ。そう思いました」

「次」とは、言うまでもなく2020年東京パラリンピックだ。2017年は、そのスタートでもある。

 自ら仕掛けたい「高速レース」の展開

昨年8月、「東京マラソン2017」のコース変更の知らせを耳にした、頭に思い浮かんだ選手のひとりが西田であった。どちらかというと上り坂を苦手とする西田にとって、「アップダウンがなく、ほとんどフラットなコース」への変更は、追い風になるに違いないと思ったからだ。

実際、西田自身「幸運が舞い降りてきたかのように思った」という。そして、だからこそこの絶好のチャンスを逃すまいという強い気持ちが、西田にはある。

「僕は積極的に前に前にという走りが得意だし、自分にとって最高の走りだと思っています。今回はそんな僕の走りを思い切り見せることのできるコース設定になっていますから、世界記録を狙うくらいの気持ちで走りたいと思っています」

予想の展開としては、初めから高速レースになる可能性がある半面、もしかしたら初めは抑え気味のレース展開になる可能性もあると西田は考えている。その理由は、リオの金メダリストであるマルセル・フグの存在だ。西田によれば、トップ集団に入るようなランナーのほとんどはフグをマークすることになる。そのフグが初めての東京のコースを様子見で走ることも十分に考えられ、その場合は意外にもスローペースになることもあり得る。

しかし、もしそうなった場合、西田は一人で飛び出す覚悟もあるという。

「最初の5キロくらいは下りが続くので、まずはそこでできるだけ集団を小さくしておきたいと思っています。ですから、もしスローペースになったとしても、僕は思い切って飛び出すつもりです。そうすれば、他の選手もついてこざるを得なくなって、自然とハイペースの展開にもっていくことができるはずです。それこそ、僕がペースメーカー的存在になろうかなと」

もちろん、「ペースメーカー」というのは比喩表現に過ぎず、途中で「お役御免」とばかりに後退するつもりなど全くない。

「ペースメーカーなのに、途中でスローダウンせずに、そのまま優勝争いに加わることもあったりしますよね。僕、それを狙おうかなと(笑)。後続のランナーも、見ている人も、『最初からそんなペースで行ったら、あとで後退するに違いない』と思っている中で、『あれあれ、まだ行くの?もしかして最後まで?』みたいな走りをしたい。そういうランナーって、見ている人たちにとっても、ドキドキハラハラして、面白いじゃないですか」

車いすランナー・西田宗城~

スタートからハイペースに持ち込んで、見ている人をドキドキさせたいと話す西田。その戦略を楽しんでいるかのような笑顔を見せる。

それは、西田にとっては新たな挑戦でもある。これまで、積極的な走りを見せてきたとはいえ、そのまま最後まで一人で前を走り切るだけの「勇気」を持つことはできなかった。いったんは前で集団を牽引しても、途中でやはり先頭を譲り交代しながらのローテーションを望んだ。それは、最後に息切れすることを怖れていたからだった。だが、自らの強みを出すには、最初から最後まで先頭で走り切るだけの「覚悟」が必要であり、そして自らが勝ち切る「パターン」を確立させることが重要だと考えている。

「今回の東京マラソンでは、高速ペースのままローテーションできれば一番いいのですが、もし誰も前に出てこないようであれば、それでペースを落として後ろに下がろうとするのではなく、そのまま自分一人で行ってしまおうと思っています」

2020年東京パラリンピックに向けてのスタートでもある2017年シーズンのテーマを、西田は「夢中」と決めている。

「ある知人宅に掛けてあった掛け軸に書かれてあった言葉で、見た瞬間に『あ、なんかすごくいいな』と魅かれるものがありました。もしかしたら、昨年までの自分は走ることに対していろいろと考えすぎていた部分があったのかもしれないなと。そうじゃなくて、まずは走ることに夢中になって、全力を出すことの方が大事なんじゃないかなって思ったんです」

26日、9時5分。号砲とともに、西田は「夢中」になる。そして、観客が「夢中」になれるレースを見せるつもりだ。

車いすランナー・西田宗城~

「夢中」で全力を出し切る。その走りが見られる東京マラソン2017は、もう迫っている。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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