東京・港区にあるスターライズタワーで開催されたトレーニングイベント「ADIDAS TRAINIG ZONE」に参加し、バスケットボールの二ノ宮康平らと共に契約アスリートとしてステージに登場したラグビーの流大(ながれゆたか)は、サントリーサンゴリアス所属2年目にしてキャプテンを任される期待の星だ。たゆまぬ努力でエリート街道を走り続けてきた、そんな流のトレーニングに対する想いを訊く。
「ボクはトレーニングが好きです。ラグビーの練習もトレーニングも、すべては『最後に勝つ』ためのものと考えているから、そのためにトレーニングが必要ならば、どんなに辛くてもやる気になれるんです。最高のパフォーマンスを発揮して結果を出すには、キツいことや困難なことを乗り越えないと駄目だとアスリートは皆わかっている。それをやらないと勝てない。そうして勝ってきた。ボクは勝てない時期も経験してきたので、トレーニングは大事だと思っています」
高校生の頃から本格的にトレーニングを始め、どれほど厳しく辛い時であっても頑張る力が身に付いたという若き日の流にとっては、食事もまた乗り越えるべきトレーニングであったという。
「高校のときは監督の指導を受け、体づくりをしっかり行うことが大事だと、食事についても教えられました。食事もトレーニングだったんです。高校生くらいまでは好き嫌いもあり食べないものもありましたが、それが自分の体をつくるのであれば、それがラグビーにつながるのであれば、食べるべきだと思えるようになりました」
苦手な食べ物は、なんと卵。
アレルギーはなく単純に味が嫌いだったという、あまりにも意外なエピソードに驚かされる。
「卵は大学生の途中まで食べることができませんでした。見た目や味が卵でなければ平気でしたが……卵料理はダメでしたね。でも卵は栄養価も高いと教えられ、自分の体を変えるために食べようと決意しました。今は大好きです」
流の1日は、まずウエートトレーニングから始まる。
「試合日程にもよりますが、まずはしっかりと重いウーイトをあげ、パワーを出すためのトレーニングを行います。試合が近づいたら、それを瞬発力やスピードに変えるメニューに変更していきます。ベンチプレスであれば、まず重いものをあげ、試合が近くなったらサポート用のバンドを加え、スピードをつけて素早くあげるようにします。ラグビーは瞬間的に力を出すことが必要なので、ラグビーで力を発揮するためのトレーニングをしています」
昨年まではチーム全体で同じメニューをこなしていたが、今年からサンゴリアスはポジションごとに特化したトレーニングを採用することになった。
「ボクのポジションは瞬発的に力を出すことが大事なので、すごく重いものをあげる必要がありません。だから今年から、インディビジュアルに特化したトレーニングを取り入れています。個人的に力を入れているのはバイクトレーニング。マスクをつけてエアロバイクに乗り、トレーナーが設定したプログラムに従ってこぐ時間と休憩の時間を繰り返し、心肺機能の向上を図ります。ボクのポジションは走行距離がいちばん長く、1試合で7kmくらい走るので、後半、疲れたときのパフォーマンスにいい影響を出したいんです」
7kmといえば単純に聞いても長い距離だが、ただ7km走るだけでなく、タックルや転倒後に起き上がるアクションなどを繰り返しながらとなれば、体力の消耗がいかほどか、想像に難くない。
「かといって、持久走のトレーニングなどはやりません。すべてはラグビーにいかすためのフィットネスになっています。我々はマラソン選手になるわけではなく、ウエートリフティングの選手になるわけでもありません。あくまでもラグビーのためなんです」
このストイックを絵に描いたような男にも、精神的な辛さからトレーニングに身が入らないことがあるという。
「辛い時は、苦い思い出がある試合のVTRを見返します。1年目の開幕戦、パナソニックとの試合でスタメン出場させてもらったのに何もできなかった。現実を思い知らされ、これじゃ駄目だと思いました」
辛さをもって辛さを制す。タフなメンタルをつくり上げるトレーニングノウハウについて尋ねると、真面目さばかりが際立っていた流の表情に、少し苦さのある笑みがこぼれた。
「メンタルな部分を特別に鍛えるトレーニングは行っていません。メンタルは普段の生活や練習の中で養われるものだと思っています。その点、ウチのチームは監督が怖いですから。ボクはキャプテンだから監督と話す機会が多く、会話するだけでメンタルトレーニングになっています(笑)。もちろん、ボクに対してキツく当たったりはしませんけどね」
流はまだ2年目で年齢も若い。
キャリアを積んだ先輩選手の前に立ち、キャプテンとして振る舞う日々は重圧との闘いだ。
しかし精神的にも強くなった今は、先輩に対しても堂々と意見を言えるようになった。
「すべてはラグビーでパフォーマンスを出すために。それを考えることが大事。ただウエートトレーニングをやるとか、ただ走るのではなく、それをラグビーにおいてどう生かして、どのシチュエーションで発揮するのかを思い浮かべながらトレーニングすることが大事です」
趣味はラグビー。時間があればずっとラグビーを見ていたい。そんな生粋のラグビー好き。
ハードなトレーニングに負けない流のモチベーションは、あまりにもピュアなその気持ちがつくり出していた。
流と(前編の記事に登場した)二ノ宮の共通点は、トレーニングに対し常に前向きであり、そしてクリエイティブであることだ。
それはこの日、アディダスジャパンのトーマス・セイラー氏が「ADIDAS TRAINIG ZONE」発表会のステージ上で語ったトップアスリートの要件にピタリとハマっている。
変化を恐れず常に新しいメソッドを導入するクリエイティブなトレーニングは、これからも彼らのパフォーマンスを向上し続けるに違いない。