TOPへ
March 25 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

「Euro Cup」で見えた「彼らがエースである所以」 ~車椅子バスケットボール香西宏昭・藤本怜央~

 

車椅子バスケットボールプレーヤーの香西宏昭(こうざい・ひろあき)と藤本怜央(ふじもと・れお)。 彼らが、なぜ日本の「エース」であり続けられるのか――。車椅子バスケのヨーロッパクラブチャンピオンを決める「Euro Cup」(1部リーグ)。その予選を勝ち抜いた6チームと、前年に決勝進出した2チームの、「ヨーロッパ8強」だけが出場することのできるファイナルラウンド「Champions Cup」で、その理由を目の当たりにした。

欧州8強の戦いに臨んだ日本人プレーヤー

今年、厳しい予選を勝ち抜き、チームとして初めて「Champions Cup」のステージに昇りつめたのが、香西、藤本、千脇貢(ちわき・みつぐ)の3人の日本人プレーヤーが所属するドイツ・ブンデスリーガのBG Baskets Hamburgだ。日本人が主力として「Champions Cup」の舞台に立ったのも、今回が初めてのこと(千脇は体調不良のために欠場)。これは、日本の車椅子バスケ界にとって偉業と言っても過言ではない。

今回行われたのは、8チームを4チームずつの2グループに分けて総当たりのリーグ戦。各グループの上位2チームは、最終ステージの「Final4」に進出することができる。BG Baskets Hamburgは、Beşiktaş Jimnastik Kulübü(トルコ)、MIA Briantea84 Cantù(イタリア)、CD Ilunion(スペイン)と対戦した。昨年のヨーロッパチャンピオンであるCD Ilunionを筆頭に、いずれも各国の代表クラスの選手たちがズラリと並ぶ強豪ばかりとあって、厳しい戦いが待ち受けていた。

車椅子バスケットボール「Euro Cup」

チーム初の「Champions Cup」に挑んだBG Baskets Hamburg。香西と藤本は主力として世界の強豪と戦った。

試合の流れを左右するフリースロー

初戦の相手は、ベンチ入り14人全員がトルコ人のBeşiktaş Jimnastik Kulübü。 一昨年、ヨーロッパ予選で2位となり、リオデジャネイロパラリンピックではベスト4進出を果たしたトルコ代表の主力選手がこぞって所属しており、トルコリーグで首位を走る。したがって、ブンデスリーガ3位のBG Baskets Hamburgは、苦戦を強いられると試合前には考えられていた。しかし、その予想を覆し、延長戦にまでもつれこむ大接戦となった。

BG Baskets Hamburgが接戦に持ち込むことができたのは、トランジションやディフェンスはもちろん、フリースローを確実に決めたことにあったように感じられた。第4Qまでのフリースローの確率を見ると、Beşiktaş Jimnastik Kulübüが46%に対し、BG Baskets Hamburgは90%。10本中、外したのはわずかに1本だった。

延長戦に突入した後も、やはりフリースローがカギを握るような展開となった。最初に訪れた得点チャンスは、藤本のフリースロー。これを藤本はきっちりと2本ともに決めた。ちなみにこの試合、藤本のフリースローの成功率は100%だった。それは、日本代表が強化してきたことが、しっかりと実を結んでいる何よりの証でもあった。

車椅子バスケットボール「Euro Cup」

第1戦ですべてのフリースローを決めてみせた藤本。

だが、続けて訪れたフリースローのチャンスを、BG Baskets Hamburgは2本ともに落としてしまう。すると、その直後にフリースローを得たBeşiktaş Jimnastik Kulübüは2本ともに決め、試合を振り出しに戻した。その後、藤本、香西の得点で一時BG Baskets Hamburgがリードを奪ったものの、最後は高さで勝るBeşiktaş Jimnastik Kulübüのゴール下のシュートが立て続けに決まり、BG Baskets Hamburgは84-86で惜しくも敗れた。

フリースローを確実に決めることが、流れを引き寄せるチャンスとなる。それが如実に現れた試合だった。改めてなぜ、日本代表が1本1本のフリースローを大事にしているか、その理由が改めてうかがい知れた。

焦りから生まれた「心の錯覚」

翌日行われたMIA Briantea84 Cantùとの試合は、スタートが最大のポイントとなった。試合開始早々、MIA Briantea84 Cantùのスリーポイントが連続で決まると、早くも焦りが生じたのか、BG Baskets Hamburgはアウトサイド、ゴール下のシュートを立て続けに落としてしまう。さらにターンオーバーから相手に速攻を決められ、試合開始わずか2分もしないうちに、0-8と劣勢に立たされた。

これで相手を完全に乗せてしまった。その後、最大20点差をつけられるなど、なかなか点差が縮まらず、結局、最後までMIA Briantea84 Cantùの勢いを止めることができずに66-84で敗れた。

試合後、藤本は「自分たちが勝手に相手を大きく感じてしまった」と語っている。実際、そうであった可能性を感じさせる数字がある。この試合、リオで金メダルに輝いた米国代表メンバーでもあるBrian Bell(MIA Briantea84 Cantù)の活躍が非常に目立っており、「神がかっている」ように感じられた。試合後のインタビューでは、香西も藤本も、「あれだけシュートを入れられてしまったのは想定外だった」と語っており、コートの中でも彼の存在は大きく映っていたようだった。

ところが、スタッツを見てみると、フィールドゴールの成功率は58%で「神がかり」というほどの数字ではない。77%という高確率でツーポイントショットを決めた第1戦での藤本の方が「神がかっていた」と言える。つまり、出だしでのつまずきが焦りとなり、それが相手を現実以上に大きく見せる錯覚を生み出していたのだろう。そして、無意識にもプレッシャーとなってさらに焦りが募っていった――そんな負のスパイラルに、チームが陥っていたのかもしれない。

香西の「判断力」と藤本の「安定感」

最終戦は、地元スペインのCD Ilunionと対戦した。スタンドは超満員と完全なアウエーの中での試合は、終始ビハインドを負い、BG Baskets Hamburgが追う展開となった。印象深かったのは、CD Ilunionのディフェンスだった。さすがは前回、ヨーロッパの頂点に立った強豪。オフェンスはもちろんだが、BG Baskets Hamburgの動きを止めてしまうディフェンスのうまさが感じられた。

前日のMIA Briantea84 Cantùとの試合後、香西は相手のディフェンスについてこう語っていた。

「マークする相手に対して、うまく距離を取って、幅広く対応することのできる上手いディフェンスをされたために、シュートするにも何度か動きを入れてから打たなければならなかったり、パスかシュートかで迷ってターンオーバーしたり……。それが、こちらのオフェンスがバタついた要因だったと思います」

そうしたディフェンスの上手さは、CD Ilunionにも同様に感じた。高さとパワーを兼ね備える海外勢に対して、おおむねオフェンスに目を向けがちだが、強さのベースにあるのは、やはりディフェンスなのだろう。

BG Baskets Hamburgはこの試合にも敗れ、Champions Cupでの初勝利は次回にお預けとなった。「3戦全敗」という結果だけを見れば、惨敗である。しかし、こうした世界のトッププレーヤーたちが揃う強度の高いステージに、アジアでは唯一、日本人プレーヤーが立った。しかも、主力としてプレーしたこと自体が、これまでにはなかったことであり、新たな歴史の扉を開いたと言える。

今大会で特に感じたのは、香西の「瞬時の判断力」と、藤本の「安定感」だ。

まず、香西のプレーで強く印象に残ったのは、最終戦の第3Qでのシーンだ。パスカットをした藤本からのパスを受けた香西は、ドリブルでゴールへと向かっていく最中、そのままシュートには行かず、背後から自らを目がけてくる相手を確認すると、急激にスピードを緩めた。そして、いったんサイドに開くふりをして、相手が近づいたタイミングでゴール側へと進行方向を変えたのだ。

この動きによって、相手は香西に衝突するかたちとなり、不要なファウルをしてしまった。ファウルが増えれば 、相手は不利な状況となり、かつ自分たちはフリースローのチャンスを得ることができる。特にインサイドでの勝負が厳しいチームにとって、フリースローは試合の流れを引き寄せる有効な手段と言える。「どうすれば、最後に相手よりも1点を多く獲得することができるのか」。そのことを常に考え、ゲームの流れを読み解きながら、瞬時に判断する香西の能力の高さを示したプレーだった。

車椅子バスケットボール「Euro Cup」

広い視野をもつ香西。瞬時に動きを変え、ファウルを誘う技術にも長けている。

一方、藤本においてはシュートの安定感に磨きがかかっていることが感じられた。チーム一のポイントゲッターである藤本には常に厳しいマークがつく。時には、3人に囲まれることもあるほどだ。そんな中、藤本は体勢を崩しながらもシュートを決めていく。特に印象に残っているのは、MIA Briantea84 Cantù戦の第1Qでのシーンだ。いち早くゴール下にポジションを取った藤本に、チームメイトからパスが投げ込まれた。しかし、このアシストが長く、藤本は届かないと思うや否やティルティング(片方の車輪を浮かせて高さを出す技)をしながらボールを受け、そのまま後ろに倒れながらもシュートを決めてみせた。藤本の確かな技術が垣間見られたシュートシーンだった。

車椅子バスケットボール「Euro Cup」

3人に囲まれる藤本。相手の厳しいマークにも屈しない強靭な体は、トレーニングの賜物だ。

自らの生活や人生を懸け、海外の地で勝負に挑んでいる香西と藤本。いかに彼らが厳しい戦いの中で、肉体を酷使し、精神を鍛え、レベルアップを図っているのか。マドリードの地で見た彼らの姿には、そのことが鮮明に映し出されていた。そしてそこにこそ、「エースたる所以」が存在している気がした。

藤本怜央(左)と香西宏昭

香西宏昭(右)と藤本怜央。過酷な練習や試合を積み重ね、世界トッププレーヤーたちとの戦いに挑んでいる。

(文・写真/斎藤寿子)

 

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

Twitterをフォローしよう!

前の記事へ
一覧に戻る
次の記事へ
前の記事へ
一覧に戻る
次の記事へ