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March 31 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

世界への挑戦を始めた20歳の若き新鋭 ~クロスカントリー/バイアスロン・新田のんの~

1年ぶりに見た彼女の表情は、まるで違っていた。雪上に立つ彼女の目が、戦うアスリートになっていた――。

3月18、19の両日、西岡バイアスロン競技場(札幌市)で行われた「2017IPC障害者ノルディックスキーワールドカップ札幌大会」のクロスカントリー。来年の平昌パラリンピックを狙う世界の強豪たちが参加した同大会で、女子座位の部に唯一の日本人選手として出場したのが新田のんの(にった・のんの)、20歳だ。クロスカントリーを始めて、わずか1年。着実に成長した姿を見せた彼女に迫った。

 競技意識を高めた「楽しさ」と「世界との距離」

2015年12月、日本代表の強化合宿で「体験」というかたちから始めたクロスカントリー。新田はやればやるほど、ゴールした後の「達成感」「充実感」に魅了されたという。もともと続けていた陸上競技においても、短距離や中距離のトラック競技ではなく、コースごとに風景が変わるという気持ち良さがあると同時に、気象条件とも戦わなければならないマラソンの方を好んでいた新田。冬場の厳しい自然の中で行うクロスカントリーは、その過酷さゆえに、ゴールした後に得られる快感が大きいため、性に合っていたのだろう。

1年を経た今、「競技」としての思いが大きくなっていることは、その表情を一目見てわかった。何よりも「目」の鋭さが、昨年とはまるで違っていたのだ。そのことを言うと、彼女は照れたように、だがうれしそうな笑顔を見せ、こう語ってくれた。

「実は、私自身も自分の変化に驚いているんです。今シーズンは、毎日練習をしてきたのですが、自分からそこまで練習しようと思うなんて考えてもいませんでした。それまでは週に2、3回できればいいかなって思っていたくらいだったので。でも、やっていくうちに、『できる』楽しさがどんどん出てきて毎日やるようになっていました」

クロスカントリー/バイアスロン・新田のんの選手

さまざまなことを吸収することが楽しい今。はじける笑顔が、充実した競技生活を物語っている。

きっかけは、「世界デビュー」にあった。昨年12月に行われた「W杯フィンランド大会」は、新田にとって人生初となる海外での国際大会だった。そのため、本番に向けて、直前合宿を行い、毎日細かい指導を受けた。その時につかんだ感覚が、「楽しさ」を倍増させたという。

「それまでは、ただ力任せに漕いでいたのですが、合宿で毎日漕いでいくうちに、だんだんと自分にとって楽に漕ぐコツがわかってきたんです。それで、さらに楽しくなっていきました」

同大会で2種目に出場した新田は、スプリント・クラシカル(0.8km)で15位、ショート・フリー(2.5km)では14位という成績だった。だが、彼女はこれをマイナスにはとらえていなかった。「それまで全く見えなかった世界との距離が、ようやくわかった」からだ。そして、世界との差が大きいことをしっかりと感じたことによって、新田の意識は自然と高くなっていった。それが、アスリートの目を作り出していったのだ。

早くも実り始めたトレーニングの成果

その後、新田は毎日練習を積み重ねた。「滝野すずらん丘陵公園」で坂道ダッシュをしたり、ジムでフィジカルトレーニングをしたりして、特に苦手とする「上り」に対応できる体づくりを積み重ねた。

そうして迎えたのが、来年の平昌パラリンピックと同じ会場で行われた、今年3月のW杯韓国大会だった。新田はクロスカントリーとバイアスロンの計3種目に出場した。その中で、トレーニングの成果を感じたのは、スプリント・クラシカル(1.0km)だ。新田には指標としている選手がいる。同じアジア人で障がいのクラスも同じである、Vo-Ra-Mi Seo(韓国)だ。3カ月前に初出場したフィンランド大会で、新田は彼女に約40秒差を開けられていた。だが、韓国大会では20秒差にまで縮まったのだ。

クロスカントリー/バイアスロン・新田のんの選手

W杯韓国大会の長く続く坂に苦戦するも、トレーニングの成果を感じさせる走りを見せた新田。

韓国大会のコースは、新田がそれまで出場したどの大会よりも坂が多く、そして一つ一つの坂の高低差が激しいために上りも下りも長く続く、彼女にとっては厳しいコース設定となっていた。そのコースを走り慣れているであろうVo-Ra-Mi Seoとの差を半分にまで縮めることができたのである。新田に大きな自信となったことは間違いない。

とはいえ、当面の課題はやはり「上り」だという。平地では手応えを感じるようにもなってきたが、上りはいまだ世界と競争するレベルに達していないと感じている。上りを克服することで、新田の走りはグンとレベルアップするはずだ。彼女自身、そのことはよくわかっている。だからこそ、日本チームのスタッフにはもちろん、海外選手にも積極的にアドバイスを求めている。

「この間、海外の選手に教えてもらったのは、平地の時のように、最後まで腕を後ろに振り切るのではなく、地面に(ストックを)突いたら、すぐに腕を前に出して突く、また突く、というふうに、ピッチ走法のように漕いでいるというんです。実際に試してみたら、確かに上りでのスピードが増しました」

クロスカントリー/バイアスロン・新田のんの選手

ストックの突き方を改善して臨んだ、W杯札幌大会。力強い走りで入賞を果たした。

そのかいもあって、今シーズン最終戦となった3月のW杯札幌大会では、ミドル・フリーで、ついに目標としていたVo-Ra-Mi Seoに競り勝ち、表彰台にあと一歩と迫る4位入賞を果たした。と同時に、パラリンピック出場に必要となる「W杯ポイント」も初めて得ることができた。もちろん、これでパラリンピック出場が濃厚となったわけではない。しかし、これまでより可能性が高まったことは確かだ。

3月に専門学校を卒業した新田は、4月からは北翔大学に編入する。1年後、平昌の地で戦うチャンスを得る可能性を信じ、新天地でも、さらに「心技体」を鍛えていくつもりだ。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

 

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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