テニスコートの上。
強烈なスマッシュを打ち抜かれて万事休す…。
…と思いきや、ゲームはまだ終わらない。
背後の壁で跳ね返ったボールを打ち返せば問題ナシ。
コート上をボールが縦横無尽に跳ね回る様子は、さながらピンボール。
そんな、スペイン生まれのユニークなラケットスポーツ「パデル」をご存じだろうか?
日本でも各メディアに取り上げられ、着実に裾野を広げているこのスポーツの魅力を取材するべく、株式会社Padel Asiaが運営する施設「パデル東京」を訪れた。
世界中で人気爆発の「パデル」とは!?
「今、著名人の方も結構多くパデルをやられていて。(「キャプテン翼」の作者)高橋陽一さんや楽天の三木谷浩史さんとか、FCバルセロナのピケ選手も。あとは、4月にスペイン国王が来日しますが、国王もパデルが趣味なんですよ!」
株式会社Padel Asiaの玉井勝善氏は、そう言って笑う。

トナカイの角とサンタのパンツをはいたコスプレでレッスンを行う玉井氏/Ⓒ2017 Padel Asia inc.
パデル――。
約40年前にスペインで誕生したラケットスポーツで、同国では現在、人口のおよそ10%にあたる、約400万人(2016年時点)がプレーしている。ラファエル・ナダルら世界的なプレーヤーを輩出しているスペインのテニス人口が約100万人。その4倍と考えれば盛況ぶりがうかがえるだろう。ナダル本人も、もちろんパデルの愛好者だ。
2012年からは、テニスのATPツアーにあたる、ワールドパデルツアーというプロツアーも開催されている。前身のパデルプロツアーと合わせ12年にわたってトッププレーヤーたちが欧州や南米の国々を転戦しており、競技の裾野は着実に拡大し、世界中で人気が爆発しているのだ。
日本では現在コート数が20面弱、競技人口は約1万人。ジワジワと増えている状況だ。玉井氏は続ける。
「日本に上陸した当時、普及活動をほとんど誰もしていなかったんですね。コートがあるだけで、普及を担う協会もなければ会社もなかった。そこで2015年に会社(株式会社Padel Asia)を立ち上げ、去年、協会(日本パデル協会)ができて、ようやく普及させていく体制が整ったところです。先日スペインまで出向いて普及活動の説明をして、後日、日本まで視察にいらした国際パデル協会の副会長から、『全力で応援しますよ!』と。その結果、今年、日本は国際パデル協会への加盟が認められて、アジアのリーダーとして活発に動いています。例えば先日もタイで“親睦パデル”を開催したりとか。他国に比べて積極的に動いていることが、徐々に結果として出てきているのかな、と」
なぜ、世界中の人々はパデルにハマっているのだろうか。その魅力を玉井氏はこう語る。
「やっぱりどなたでも簡単にできる、というところじゃないでしょうか。テニス経験者にとってみれば奥深さにハマったり、未経験でも手軽さが入り口になったり。パデルの特徴を端的に表現すると、“入りやすくて奥深い”、ですかね」
ユニークなルールと、それだけではない魅力
ここで、パデルのルールを、テニスと比較しながら確認してみたい。
まずラケットは、テニスラケットよりもやや小さく、ガットが張られていない。代わりに、板状の平面部分に複数の穴が開いていることが特徴だ。そのため、ボールがラケットのどこに当たっても打ち返すことが可能だ。
ボールはテニスボールと類似していて、パデルボールの方が若干空気圧は低いが、感覚的にはほとんどテニスボールと変わらない。そのため、パデル東京で行われているスクールのレッスンではテニスボールが使われている。
コートはテニスコートの約半分の広さ。テニスとは異なり、強化ガラスと金網の壁が両サイドと背後を囲っている。
プレールールに関する主な特徴は4つ。
・試合形式はダブルスのみ
・サーブ時、サービスライン後方から、ボールを足元で一度バウンドさせ、アンダーハンドで対角側のサービスコートへ打つ
・コートに入ったボールがワンバウンドした後、ガラスまたは金網にリバウンドした際、ボールが空中に浮いている間は相手コートに打ち返すことが可能
・壁を利用し、相手コートへの打ち返しが可能
これらの特徴から、
①アンダーハンドによって、サーブが入りやすい
②打ちやすいラケット、ダブルス制によるフォローのしやすさ、壁を利用した打ち返しにより、ラリーが続きやすく、リターン方法も多彩に
この2ポイントが“手軽さ”と“奥深さ”を生み、老若男女、ビギナーから上級者まで、幅広く世界中で親しまれるゆえんになっているのだ。
また、魅力はコート外にもある。
「競技以外の部分でいうと…、BBQですかね。私自身、最初はパデルをやりたいと思って始めたわけではなくて、魅力を感じたのは、横でやってたBBQなんです。飲みながら、楽しんでやっていて(笑)。そういったエンタメ性に興味を持ったというのが一番でしたね」
そもそも、日本で普及活動が本格化する前にパデルをプレーしていたのは、日系パラグアイ人だったようだ。
「彼らは子どものころからずっとパデルをやっていたのに、日本にはパデルがなかった。そんな折、2013年に上陸したのを知って、パデル&アサード(※)というイベントを始めてくれていたんです。そこに私が参加して、心底ハマってしまって。もともと別の会社を経営していたんですが、それもやめて、もうパデルだけやります!って(笑)」
(※)アサード=南米風のBBQ

玉井氏(1番左)がパデルと出会うきっかけとなった、日系パラグアイ人で日本パデル協会会長の中塚アントニオ浩二氏(左から2番目)と、Jun Satake氏(左から3番目)。Jun氏からプレゼントされた玉井氏にとってのラケット第1号は今でも大切な宝物だ/Ⓒ2017 Padel Asia inc.
日本におけるパデルカルチャーの夜明け。運命的な出会いを果たした玉井氏は、自ら普及活動に本腰を入れている。
パデルを実体験! コートを囲った強化ガラスを使いこなすのがミソ
今回の体験取材でインストラクターを担当した、スタッフの吉元さやかコーチ。

インストラクターを担当してくれた吉元さやかコーチ。美人コーチのレッスンにやる気もアップ!/Ⓒ2017 Padel Asia inc.
「アメリカで高校から大学までテニスをしていたんですが、帰国して就職後は月イチ程度でやっていました。そんな時にパデルを知って、テニスと似てるならできるかなって。やっていくうちに深さにハマっていった感じですね」
そんな吉元コーチの下、パデル体験がスタート。
まずはフォームから入り、パデルボールを用いた実践トレーニングへステップアップ。テニス経験のある編集者N氏は、経験者だけあってサマになっている一方、ラケットスポーツ未経験の筆者は、いささかぎこちなさが目立つ。
「打つ時は前に踏み出しながら!」
「そーそーナイスでーす!」
吉元コーチのよく通る高い声がコートに響く。
個人レッスンを受ける筆者に対して、慣れた手つきの編集者N氏。続いて周囲の壁を利用したリターンの練習。壁に跳ね返った相手のショットを打ち返す“間接リターン”と、自ら壁にボールを打ち、跳ね返りで相手コートに打ち返す“壁ドンプレー”(注:どちらの技も筆者が勝手に命名)。パデルならではのテクニックだ。
するとここで逆転現象が。“間接リターン”を小気味よく反対コートに放り込む筆者。一転、N氏は空振りを連発。首をかしげるN氏に、吉元さんがほほ笑む。
「テニス経験のある方は、前から来たボールを打ち返すことに慣れてしまっていて、後ろから来るボールを拾うように打ち返すのに違和感があるからかもしれませんね。私も最初のころはちょっとビックリしちゃいました(笑)」
サーブ、ボレー、スマッシュ、リターンと一通り終えた後は、いよいよゲーム形式のレッスン。玉井氏も加わり、試合開始!
玉井氏はさすが、“間接リターン”や“壁ドンプレー”もうまく交えながら、ボールをさばいていく。ペアを組むN氏も、次第にプレーが板に付いてくる。
他方で、筆者は少々苦戦。ペアの吉元コーチにおんぶに抱っこ。ゲームを終えて玉井氏から筆者へ一言。
「珍しい! 普通はもうちょいできます(笑)」
筆者ほどできない人は少数派のようだが、アンダーハンドでのサーブや、ラリーのスピードがそこまで速くないことも相まって、試合展開もどこかまったりとした雰囲気。パデルの“入りやすさ”を実感できた。
「BBQがメインで、パデルはサブ」でもいい
とはいえ、筆者のようにラケットスポーツ未経験の人の中には、いざ始めるとなると不安に思う人もいるはず。
「極論を言っちゃうと、パデルって基本的に打ち方はどうでもいいんですよ。ボールを返すことができれば。とはいえ、ラケット競技経験の有無で、ベースはやはり異なります。ですので、パデル東京で開いているスクールでも、ラケットスポーツの経験が無い方向けのクラスを設けようと考えています。そこである程度、ベースをつくってもらえれば、もっと楽しんでもらえるかな、と」
また玉井氏は、自らがパデルにハマったきっかけ、パデルとセットで楽しむBBQの魅力も忘れていない。
「パデル東京でも毎週日曜のお昼時に、BBQイベントをやっています。塊肉を塩で味付けして遠赤外線でじっくり。BBQがメインで、パデルはサブ、みたいな。そんな感覚で全然いいと思いますね。ただ実際にそういうノリで来た方々が、『肉焼けたよー!』と言っても夢中でパデルやってるんです(笑)」
さらに玉井氏は、「この前は、バレンタインに“パデコン”もやったんですよ!」と続ける。
パデコン=パデル合コン
「20~30代の独身男女でやったんですけど、相当盛り上がりましたね。『パデルは初めて』という方もやはり多くて。テニス経験はあるけどパデルは初めての方、ラケットスポーツ自体まったくやったことがない方、大学時代にサークルでやっていたという方が交ざってたんですけど、最後は普通に試合になってましたから。コートのそばではパエリア食べたり、シャンパン飲んだり」

2月に行われたバレンタインパデルの様子。参加者は、皆さんとても楽しそうだ/Ⓒ2017 Padel Asia inc.
競技自体の楽しさもさることながら、その周縁にも魅力を見いだし、パデルを愛し、広める玉井氏。
スペイン生まれの陽気なスポーツ、パデル。まずは、BBQから始めてみてはいかがだろうか?
パデル東京の情報はこちらから>> Padel Asia inc.
<文・吉田直人(text by Naoto Yoshida)>