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April 07 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

2大会ぶりの「王座奪還」を目指して―― ~クロスカントリー・新田佳浩~

「このままでは終われない」

3年前、新田佳浩(にった・よしひろ)の口から出たその言葉が忘れられない。2014年3月、5度目の出場となったソチパラリンピックで、新田はクロスカントリーの個人3種目に出場し、最高は4位(20kmクラシカル)に終わった。2010年バンクーバーパラリンピックでは2冠に輝いた新田にとって、それは納得することのできない結果だった。

あれから3年。雪辱の舞台まであと1年に迫った今、新田の思いとは――。

「切り替えの早さ」が強さのひとつ

2016-2017シーズン最終戦となった、3月18、19の両日、西岡バイアスロン競技場(札幌市)で行われた「2017IPC障害者ノルディックスキーワールドカップ札幌大会」のクロスカントリーで、新田はショート・クラシカル(5km)で2位という結果を残し、日本人選手で唯一、表彰台に上がった。

実はこのレースのスタート直後、新田は転倒している。短距離の種目ではわずかなロスが命取りとなるだけに、転倒はあまりにも痛いミスだったに違いない。そんな中での2位という結果は、心身ともに彼の強さを指し示していた。

クロスカントリー・新田佳浩

転倒のアクシデントにも焦らず、冷静かつ果敢に攻めの走りを見せた。

「ピッチの切り替え、コース戦略という部分で、冷静に滑ることができたレースでした。特に転倒した後も、すぐに気持ちを切り替えることができたことは、自分にとって大きかったですね」

「新田佳浩、健在」

表彰台に立つ姿には、そんな雰囲気が醸し出されていた。

だが、「2位」という結果は、新田にとって目指すべきところではない。「表彰台に上がるのは最低ライン」と語る彼にとって、唯一無二の目標は「頂点」である。そしてそれは、パラリンピックの舞台での「頂点」だ。

つかんだ「手応え」見えた「課題」

来年の平昌パラリンピックまであと1年という大事な時期だった今シーズン、新田が特に照準を合わせていたのは、本番と同じ会場で行われる「プレ大会」の意味をもつ3月のワールドカップ韓国大会。そこで必ず結果を残さなければいけないと考えていた。

同大会で、新田が最も重きを置いていたクラシカル・スプリント(1.5km)では、最後に引き離されるという悔しい銀メダルに終わった。だが、1年後に向けて、何が課題かが明確となっただけに、貴重な経験となったという。

「最後の直線での勝負になった際、もしバーンが硬い状態であれば、上半身の力を使ったダブルポール(左右のポールを同時に突き、前に押し出す滑走)でいいのですが、あの日はお昼の1時を過ぎていて、地面は水が浮いている状態だったんです。そういう条件の平昌では、腕の力よりも、脚を速く回転させて滑走していくことの方が重要だということがわかりました。疲れてくると脚が動かなくなるのですが、そんな中でも最後にさらにギアを上げていけるように、もう一度体を鍛え上げていけば、来年の本番ではチャンスはあると思っています」

その2日後に行われたクラシカル・ミドル(7.5km)では、見事金メダルを獲得した。新田にとって大きかったのは、結果だけでなく、その内容にもあった。これまで新田は序盤でリードし逃げ切るというかたちが多かった。だが、その時は逆に序盤でリードを許しながら、中盤以降に逆転するというレース展開。それは、新たな「引き出し」が加わった瞬間でもあった。

ワールドカップ韓国大会クラシカル・ミドル(7.5km)表彰式

ワールドカップ韓国大会クラシカル・ミドル(7.5km)で優勝を果たした、新田。

「ああいう勝ち方ができたというのは、やはりトレーニングの賜物だったと思います。そういうレースもできるんだという自信も得ましたし、そういうレースをするためには何をしなければいけないのかがわかったのも大きかったですね」

クロスカントリー・新田佳浩

レースの中盤から粘り強く追い上げ、逆転。

昨年12月にはトレーニング中に左足の踵を故障するというアクシデントが起き、決して順風満帆だったわけではなかった。トレーニングは当初の計画通りにはいかなかったが、それでも焦ることなく、きちんと現状を踏まえてリカバリーできるところは、さすがはパラリンピックに5度も出場しているベテランである。新田自身も「経験値」が自らの武器のひとつだと考えている。

得意のクラシカルでは3種目すべてにおいて表彰台に立った今シーズン。世界選手権での表彰台は12年ぶりだった。そんな中で積み上げてきた「手応え」が、今、新田にはある。

来年の平昌パラリンピックでは、最も得意とし、金メダルへのこだわりにおいても最も強い「クラシカル・スプリント」が最初の種目となる。自分自身にも、そして日本チームにも、勢いをもたらす結果を残すつもりだ。

8年ぶりとなる「王座奪還」への準備は今、着々と進んでいる――。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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