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April 14 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

ドイツ・ブンデスリーガでの日々が意味するものとは

4月9日、車椅子バスケットボールプレーヤー香西宏昭(こうざい・ひろあき)、藤本怜央(ふじもと・れお)、千脇貢(ちわき・みつぐ)のドイツ・ブンデスリーガでの2016-17シーズンが幕を閉じた。この日、彼らが所属したBG Baskets Hamburgは、1勝1敗で迎えたプレーオフ準決勝の第3戦に敗れ、すべての試合を終えた。約半年間にわたって続いた戦いの日々は、果たして彼らに何をもたらしたのか。3人にインタビューをした。

車椅子バスケットボールプレーヤー、千脇貢、藤本怜央、香西宏昭

左から、千脇貢、藤本怜央、香西宏昭。彼らが所属したBG Baskets Hamburgはリーグ3位でシーズンを終えた。

千脇、苦しかったからこそ今後の糧に

昨年、車椅子バスケットボール男子日本代表チームがリオデジャネイロパラリンピックから帰国したのは9月23日だった。それから1週間も経たないうちに、香西、藤本、千脇はドイツへと渡り、10月9日には新たなシーズンをスタートさせている。「4年に一度」という大舞台の戦いを終えた彼らは、心身ともに疲労困憊であったことは想像に難くない。それにもかかわらず、彼らはわずか数日で、体を整え、心を切り替え、次の戦いへと向かっていったのである。それは生半可なものではなかったはずだ。

果たして、彼らを突き動かしているものは何なのだろうか。もちろん、ひとつは自らのレベルアップを求めてのことなのだろう。しかし、それだけではないように思える。彼らの根底にあるもの――。それは、及川晋平(おいかわ・しんぺい)ヘッドコーチ(HC)率いる日本代表への思いだ。

「日本代表の強化」

「及川バスケの強さの証明」

そのための「自分自身のレベルアップ」

これが、彼らが海外で挑戦する大きな「理由」のひとつとなっているに違いない。

では、次なる目的地、2020年東京パラリンピックに向けての第一歩となった今シーズン、彼らはどんな戦いの日々を送り、何を得たのだろうか。

ブンデスリーガ2シーズン目となった千脇は、1年目とはまるで違うシーズンを送った。

実は、開幕前から千脇には多少の不安があったという。

「昨シーズンはほぼフルに近い状態で使ってもらいましたが、今シーズンは日本人3選手を除いて全員メンバーが入れ替わり、しかも各国代表としてリオに出場したタレント揃い。その中で、自分がどういうふうに使われるかは未知数でした」

実際、毎試合のように主力として起用されていた昨シーズンとは一転、今シーズンはベンチを温める時間が多かった。

レギュラーシーズン16試合における1試合平均の出場時間は、約14分。千脇にとって、車椅子バスケを始めたばかりの頃を除けば、これほど出番のない日々を過ごしたことは、記憶にない。

「(日本で所属する)千葉ホークスでも、日本代表でも、これまではスタメンで起用されて、チャンスも多く与えてもらっていました。なので、正直こういう使われ方は初めてで、戸惑いがなかったと言ったら嘘になります」

シーズンを終えて今思うのは、練習の時からのアピールが自分には不足していたことだという。

いずれにしても、千脇にとっては、最も苦しいシーズンとなったに違いない。しかし、だからと言って、マイナスだったとは思っていない。逆に言えば、これからの自分にはプラスの経験だったと考えている。

車椅子バスケットボールプレーヤー、千脇貢

ベンチを温める時間が多かった今シーズン。だが、これも貴重な経験と捉えている。

「今年で36歳という年齢を考えれば、今後、日本代表に選ばれた時に、スタメンではなく、試合の途中から使われるということも十分に考えられると思うんです。そういう中では、与えられた短い時間の中で、いかにHCの意図をくんで、結果を残すことができるかが重要になる。今シーズンは、そのことを学ぶいい経験になったと思います」

苦しい時間を過ごしたからこそ、無駄にすることなく、千脇は自らのステップアップの糸口にするつもりだ。

「この経験をもとに、これからさらに積み上げていきたい」

 藤本、「やれること」に集中したからこその結果

一方、今シーズンもスタメン出場し続けた藤本は、ポストプレーでのインサイド勝負を担う唯一無二の存在としてチームに貢献した。はたから見れば、「結果を残した」と言ってもいい。だが、藤本に今シーズンの振り返りを求めると、第一声は意外なものだった。

「ひと言で言えば、しんどかったです……」

その理由を、藤本はこう説明した。

「パラリンピックという戦いの舞台に合わせて、自分の力を100%以上にしていった中で、それを終えてすぐに次を見据えて戦うということは、ものすごくタフなこと。これまで何度もやってきたことだけれど、今回は特にしんどかった」

実は、藤本は満身創痍の状態と言っても過言ではない。特に右肘の状態は決して良くはなく、なるべく悪化しないようにケアしながら、ぎりぎりの中でプレーをしてきた。

本来、藤本にはスリーポイントという武器がある。大学時代から海外でプレーし続け、世界のトップレベルを最もよく知る香西は、藤本のことをこう語っている。

「怜央くんは、インサイドだけでなく、スリーもある。そんなセンタープレーヤーは、世界にだってそう多くはいません。彼は本当にすごいプレーヤーなんです」

しかし、肘のことを考え、今シーズンはそのスリーポイントを封じた。そんな自らのプレーの幅を狭めなければならない中での戦いの日々は、まさに「しんどかった」に違いない。

「プレーの幅を限定した中では、これまでのように『こうしていきたい』という理想や目標を掲げられなかったし、『成長』した自分もなかなか見えなかった。日本代表候補の活動に戻った際に、『自分はここを成長させてきましたよ』ということをつかめなかったという点では、とても苦しいシーズンでした」

車椅子バスケットボールプレーヤー、藤本怜央

今シーズンはケガとの戦いでもあった藤本。それでも主力としてチームに貢献し続けた。

しかし、そんな中でも、藤本は結果を残し続けてきた。逆に言えば、プレーが限られていたからこそ、「これしかない」という中で高い精度を求めることができたという。ゴール下でのシュート、ミスマッチでのミドルシュートに、藤本は意識を集中させ、こだわり続けた。

「僕はただボールを持ったからシュートしているわけではない。決められるという確信をもって、シュートを打ちにいっているし、あるいはファウルを狙いにいっている。そのことに関しては、今までの中で一番良かったのかもしれませんね」

日本代表では、さまざまなことを求められる中で、藤本は「広く浅く」から「広く深く」にしようとしてきたという。しかし、今シーズンはケガの影響で、「狭く深く」を追求することを余儀なくされた。逆に言えば、「それがかえってチームへの貢献度を高めた要因になったような気もしている」と藤本は言う。

「ケガの功名」とはよく言うが、それもまた、本人の努力あってのもの。ストイックな彼のことだ。きっと、何かをつかんで帰国するに違いない。

新たな「進化」への一歩を踏み出した香西

ブンデスリーガ4シーズン目となった香西が、今シーズン特に追求してきたのは「一つ一つのプレーに集中し、それを40分間続けること」だった。香西は今、これまで積み上げてきたものに、そのまま載せていくのではなく、根底から見つめ直していく中で、新たな「進化」を求めている。それは、リオで味わった悔しさを二度と味わいたくないからだ。

「リオでは大事な時に決めることができなかった。それが、本当に悔しかったんです。だからこそ、一つ一つのプレーに集中し、大事にしていこうと思いました。それも、レベルの高い中で、質の高いプレーを40分間続けることができるようにしていきたい。そういう意味では、ブンデスリーガに身を置いているこの環境は、恵まれているなと感じています」

ブンデスリーガでは、ほぼ毎週のように試合が組まれている。さらに今シーズン、BG Baskets Hamburgはヨーロッパのクラブチャンピオンを決めるユーロカップにおいてもファイナルラウンドに進出し、トルコ、イタリア、スペインのクラブチームと対戦した。いずれも各国の代表クラスがズラリと並ぶ強豪チームばかり。こうした世界トップの高さ、スピード、パワーを持つチームとの試合は、レベルアップに欠かすことのできない要素だ。香西が海外でプレーし続ける理由は、そこにある。

そして、個人のスキルアップを目指す先には、やはり「日本代表」がある。

「自分が今やっていることが、2020年東京につながると信じてやっている」

一方、今シーズンの香西は自らのプレーを追求すること以外にも神経をとがらせなければいけなかったように感じられた。前述した通り、今シーズンのBG Baskets Hamburgは、日本人3選手のほかは全員が新加入という、まさにゼロからのスタートとなった。それだけに、チームを一枚岩にすることは難しかった。

車椅子バスケットボールプレーヤー、香西宏昭

個性派ぞろいのチームの「調整役」も担いながら、自らのスキルアップを図った。

そんな中で、香西は当初から「チーム」という言葉を多く口にしてきた。

「個性派でタレント揃いの今シーズンは、実力的には4年間の中で一番あると感じている。だからこそ、チームとしてうまく連携していくことができれば……」

練習や試合を繰り返し、コート外においてもコミュニケーションを図る中で、それぞれの性格や特徴を理解し、チームの統率を図ってきた。次第にお互いのプレーが噛み合い始めたBG Baskets Hamburgは、シーズン終盤にはユーロカップの予選を通過し、チーム史上初めてヨーロッパのトップ8のみが出場することのできるファイナルラウンドの進出を決めた。

この時、香西は「ようやく、それぞれが信頼し合えるようになった」と語り、チームに手応えを感じている様子がうかがえた。ところが、その状態は長くは続かなかった。徐々に再び個人プレーが目立つようになり、それははたから見ても、顕著になっていく様子がうかがい知れた。

「チームづくりの難しさを改めて感じたシーズンでした。さまざまな国から来て、みんなそれぞれ違う考えをもっているわけで。誰もが勝ちたいと思っているし、強くなりたいと思っている。目指すところは同じなんですよね。だけど、進む方向を同じくすることは、とても難しい。そのことを改めて感じました」

自我の強いメンバーが複数いる中で、チーム一の古株であり、ゲームをコントロールすることも役割の一つであるポジションの香西は、きっとコートの内外で「調整役」を担ってきたに違いない。そんな中で、自らのスキルを高め、結果を出すことはそう容易なことではなかったはずだ。

だが、香西は一見わがままとも思える自我の強い選手たちからも学ぶことはあったという。

「彼らにとっては、プロセスよりも、いかに最終的にシュートを決めるかなんです。でも、それってすごく大事なことですよね。僕はこれまでプロセスを大事にしてきたけれど、それだけでは勝てないんだということをリオで痛感させられました。いくらきれいなフォーメーションで攻めても、シュートが決まらなければ何もならない。もちろん、シュートの確率を高めるにはそれまでのフォーメーションは大事です。でも、それだけでなく、たとえかたちがぐちゃぐちゃになってしまったとしても、それでもシュートを決め切る集中力と技術も必要。今シーズンは、そのことをすごく感じました」

いずれも悩み、苦しいシーズンを送った3人だが、だからこそ得られたものは大きい。果たして、海外のステージでもまれてきた彼らが、国内選手たちとどんな化学反応を起こすのか。帰国後の彼らのプレーが楽しみだ。

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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