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May 12 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

試合を決定づけた、残り15秒の攻防戦 〜日本車椅子バスケットボール選手権〜

5月3~5日、東京体育館では「内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会」が行われ、全国から各予選を勝ち抜いた16チームが日本一の座をかけて熱戦を繰り広げた。決勝の舞台に立ったのは、宮城MAXとNO EXCUSE(東京)。「王者決定戦」にふさわしい激戦の末に、頂点にたどり着いたのは宮城MAXだった。まさに手に汗握る大接戦。その勝敗を分けたものとは――。

フリースローの裏にあった両者の戦略

宮城MAXとNO EXCUSE。昨年の準決勝でも大接戦を繰り広げた両チームの「頂上決戦」は、予想通り、第1Qから一歩も譲らない激しい攻防戦が続いていた。第3Qを終えて、リードしていたのはNO EXCUSE。だが、41-39と、その差はわずか2点。勝利の女神がどちらにほほ笑むのかは、全くわからなかった。

内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会

史上初の9連覇がかかる宮城MAXと、初優勝を目指すNO EXCUSEは激しい攻防戦を繰り広げた。

迎えた第4Q。王者の貫禄を見せつけるかのように、宮城MAXが次々と得点を重ね、あっという間に逆転に成功した。一方、NO EXCUSEのシュートはことごとくリングに嫌われ、約4分間、無得点。ついに、宮城MAXが試合の主導権を握ったかに思われた。

しかし、この劣勢の場面でNO EXCUSEは、森谷幸生(もりや・ゆきたか)、池田貴啓(いけだ・たかひろ)という若手が気を吐き、猛追。残り1分を切って、池田が3人に囲まれながらのタフショットを決めると、残り15秒で森谷がゴールのほぼ真下という難しいシュートを決めてみせ、1点差に追い上げた。

ピッ!

タイムアウトを告げるレフリーの笛の音が会場に響き渡ると、張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだように感じられた。まさに手に汗握る展開にすっかり見入っていた観客は、思わず「ふーっ」と息を吐き、現実に戻されたような感覚に陥っていたに違いない。

宮城MAXが史上初の9連覇という快挙を成し遂げるのか。それともNO EXCUSEが初優勝し、新王者誕生となるのか。「歴史的瞬間」の訪れは、すぐそこまで来ていた。

電光掲示板には、「53-52」というスコアとともに、「14秒7」という残り時間が映し出されていた。ここから、両チームの激しい「読み合い」「駆け引き」が始まった。

タイムアウト明け、試合は宮城MAXボールから始まった。レフリーからボールを渡された司令塔の藤井新悟(ふじい・しんご)がパスを出した相手は、エース藤本怜央(ふじもと・れお)だった。

藤本はインサイドエリアでの強さのみならず、フリースローも大きな武器となっている。シュート技術のみならず、どれほどプレッシャーのかかる場面でも集中を切らさない精神力があるからだ。これまで日本代表やドイツ・ブンデスリーガという、世界のステージでも、彼はその強さを何度も示してきた。今大会でも、高確率をマーク。この瞬間まで、藤本は14本中、12本のフリースローを決めていた。

だからこそ宮城MAXは、残り時間を考えればファウルゲームで来るだろう相手の戦略に備え、藤本にパスを出したのだ。相手のファウルで得たフリースローを「決めてくれるはず」というチームメイトの藤本への信頼には一点の曇りもなかった。

一方、NO EXCUSEももちろん藤本の怖さは十分にわかっていた。だからこそ、藤本にフリースローを与えるつもりはなかった。そのため、藤本にボールを入れさせないよう、森谷と池田の2人がマークについた。

内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会

ゴール下では藤本(中央)と森谷(左)、池田(右)のハイポインター同士が激しく競り合った。

そうしたお互いの戦略が激突した結果、軍配が上がったのは、宮城MAXだった。森谷と池田の執拗なマークをかいくぐり、藤本はパスをもらうことに成功した。その藤本に慌てて詰め寄った森谷がファウルを取られ、藤本にフリースローが与えられたのだ。そして、いつも通り「無の境地」で一点に集中し、藤本は期待通りに2本いずれも決めてみせた。

55-52。宮城MAXのリードは3点に広がった。

内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会

エースらしい落ち着きで、2本のフリースローを決めた藤本。

最後のプレーで示されたチームの「成長」と「課題」

残る試合時間は、13秒2。ここで、NO EXCUSEはタイムアウトをかけ、最後の戦略を練った。残り時間と点差を考えれば、スリーポイントか、あるいはバスケットカウントを狙いにいくかの選択肢が考えられた。いずれにしても、最後はエース香西宏昭(こうざい・ひろあき)に託すのではないか。それが大方の予想だったに違いない。

しかし、NO EXCUSEが考えていた戦略は香西以外にもあった。中井健豪(なかい・けんご)ヘッドコーチはこう説明してくれた。

「香西には必ず厳しいマークがつく。それでタフショットになるのなら、うちには森谷もしくは湯浅(剛、ゆあさ・つよし)という選択肢もある。そういうふうに話をしました」

試合が再開して、トップの位置でボールを受けたのは、森谷だった。その時、森谷とディフェンダーとの間には十分な距離があり、ほぼフリーの状態でスリーポイントを打つことができる状態にあった。しかし、森谷はシュートを狙うことなく、パスを選択した。この時、初めて決勝の舞台に立った25歳の森谷には、まだ「覚悟」という心の準備ができていなかった。

「僕という選択肢があると言われたものの、正直、8、9割がた香西さんのショットで終わるのだろうと思っていたところがありました。それで、すぐにボールを戻してしまったんです。最後の最後に、自分の弱さが出てしまいました」

その間に、スルスルとトップ付近に上がってきていた香西に、今度はパスが出された。だが、その香西には藤井がピタリとマークしていた。そして、香西は再びフリーになっていた森谷にパスを出した。今度こそ意を決した森谷は、スリーポイントを狙った。会場のすべての視線が、彼の放ったボールに集中するのがわかった。

内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会

試合終了間際、会場中がかたずをのんで見守る中、森谷がシュートを放った。

一瞬、時が止まるような錯覚を覚えた。そして次の瞬間、ため息まじりの「あー!」という声が響き渡った。ボールはリングに弾かれ、NO EXCUSEは得点を挙げることができなかった。

ピピーッ!

試合終了の笛とともに、宮城MAXの9連覇達成が決まった。前人未到の大記録を前に、スタンドからは大きな拍手が沸き起こった。そして、最後まで熱戦を繰り広げた両チームに、温かい拍手が送られた。

試合後、藤本はこう振り返った。

「勝因はチームプレーに尽きると思います。最後、ファウルゲームでくるだろうから、僕にボールを出してフリースローという選択肢をしたのは、チームに一体感があったからこそ。そして、僕がその期待に応えた、あのシーンは今のチームの強さが一番に表れていたと思います」

「チーム」という点では、NO EXCUSEも手応えを感じたに違いない。最後のシーンで、香西以外の選択肢を用意することができたこと自体が、昨年から目指してきた「エース頼りからの脱却」を象徴していた。今度は、その切ったカードを遂行できるかどうか。それが、次のステップということになるのだろう。

さて、今年も宮城MAXの牙城は崩れなかった。その強さは、あまりにも偉大だ。だが、「打倒宮城MAX」に燃える他チームの力に危機感を抱き始めていることも確かだろう。

「今のままでは、来年は優勝することはできない」

藤井の言葉が、それを物語っている。しかし、そうした危機意識を持てることもまた、強さの秘訣であるに違いない。

1年後の決戦は、これからの1日1日の積み重ねだ。日本一の座を目指す全国のチームの戦いは、もうすでに始まっている。

内閣総理大臣杯争奪戦第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会

王者・宮城MAXは、全国のチームの目標であり、ライバル。1年後の決戦はどうなるのか、すでに待ち遠しい。

(文/斎藤寿子、写真/越智貴雄)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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