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May 18 2017 By 小林 香織

自殺率全国ワースト1の故郷・秋田へ光を―インドヨガを継承し、社会課題に挑む瀧聖子

瀧聖子

ヨガの発祥は、遡ること4500年前。瀧聖子は、その深いヨガの哲学を継承するヨガ講師の一人だ。秋田県の海沿いの町・由利本荘市で生まれ育った彼女は、故郷・秋田が抱える深刻な社会課題を「ヨガで解決に導きたい」と決意。

わずか2人の参加者から始まった秋田でのヨガイベントは、現在100人を超える規模に拡大し、さまざまな奇跡を起こしている。そんな瀧聖子のストーリーを紐解きたい。

「秋田に恩返しを」。幼なじみの自殺により芽生えた使命感

瀧聖子

2013年、東京でアウトドアおよび防災関係の企業に勤め、売り上げを15倍に伸ばすなど、順調な社会人生活を送っていた瀧のもとに、突然の訃報が届く。

—故郷・秋田県に住む幼なじみの自殺。

32歳という若さで、彼は自らその生涯を終えてしまった。胸が締めつけられ、言葉にならない悲哀とともに、悔しさが募った。

それ以前にも、頻繁に秋田の知人が自殺したという話題を耳にしていた。「なぜ秋田ばかりが?」。調べてみると、1995年から連続で秋田県が自殺率全国ワースト1であることを知り愕然とする。

「異常な数字だと思いました。日照時間が少ないという環境的な側面はあるにしても、それだけじゃない閉鎖された地域性や蔓延している心の問題があるはずだと。元々、故郷に貢献したいとの思いがあり、秋田が抱えるその課題を解決に導くために、心身のバランスを整えるヨガで貢献できるのではと考えたんです」

瀧がヨガに初めて触れたのは2011年。趣味の一環として習いはじめたところ、心と体が解放され、これまで以上に気持ち良く生きられるようになったことを実感。ますますヨガの世界にのめり込んでいく。

幼なじみの自殺は、その矢先に届いたあまりにも悲しい知らせだった。「故郷への恩返しがしたい。そのために本格的にヨガを学ばなければ」。その使命感が瀧をヨガ講師の道へ導いた。

アメリカ式のヨガでは秋田は変えられない、15日間のインド修行へ

瀧聖子

世界でもっとも知名度が高いヨガ協会である全米ヨガアライアンスによる、200時間のインストラクター養成講座を受講し、晴れてヨガインストラクターに。会社員のかたわら副業として講師業を始めると、瀧のクラスは満席で予約が取れなくなるほど大人気になった。

「秋田の自殺をなんとか食い止めたい……!」。その思いが高まる一方、「アメリカ式のヨガでは現状を変えることは難しい」とも感じていた。なぜなら、アメリカにはヨギ(ヨガを行ずる者)が大勢いるにもかかわらず、戦争がなくならなかったから。

そこで瀧が選んだのは、ヨガ発祥の地・インドで古典ヨガを学ぶ修行。15日間にわたり、ヨガの聖地であるリシケシという町にあるアシュラム(ヨガの修行をする施設)で、朝から夜までヨガ漬けの日々を送った。

「リシケシでは、町人が毎日いたるところでお祈りをしていました。一生、収入や地位が変わらないカースト制度に支配されているものの、来世のためにいい行いをしようと祈ったり、自分以外の誰かに献身的に尽くしたりする。ヨガの哲学に基づいたその行動は、一番幸せになれる生き方だと感じました」

古典ヨガでは、ヨガの目的は「解脱すること」と説かれる。解脱とはあらゆる迷いや苦しみから解放されて真の自由を手にすることであり、「死と同様」とも言われているという。

「インド修行を経て、“今この瞬間に意識を集中すること”が何よりも大切だと知りました。ヨガの本質や人・もの・出来事との正しい向き合い方がわかるようになり、ようやく秋田でヨガを教える決心がついたんです」

生徒が次々と妊娠!ミラクルが起こるヨガクラスが評判に

瀧聖子

2013年の訃報から約3年後の2016年4月、瀧は故郷・秋田で念願のヨガレッスンを開始する。たった2人の参加者から始まったヨガイベントは、SNSや口コミを通じて徐々に評判が広まり、1年後には1日に100人もの人が参加するまでになった。

参加者が100%に近い確率でリピーターになるという瀧のレッスンでは、心身のバランスが整うだけでなく、不妊が解消したという喜びの声がたびたび舞い込んだ。

「月1回ペースで開催している秋田では1年間で3人、東京ではトータル13人の方から、ヨガを始めて妊娠したという報告をいただきました。いずれも30代後半から40代で、不妊の悩みを抱えていた女性です。10年間、不妊に悩まれていた42歳の方からの吉報を聞いたときは、思わずうれし涙があふれました」

ヨガにより鼠蹊部(そけいぶ)の詰まりを解消させ、心をリラックスさせることで、排卵の流れがスムーズになり冷えが改善する。これが不妊にバツグンの効果を発揮するのだ。

また、自死遺族たちにもヨガの実践により、いくつかの変化が垣間見えた。

「遺族の方たちは毎回必ずレッスンに参加してくれ、レッスンを終えたあと、毎回さまざまな報告をしてくれます。少しずつでも心身の良い変化を感じとってもらえたら、こんなにうれしいことはありません」

他にも、参加者同士のコミュニティが生まれる、ヨガイベントで無農薬野菜を販売する農家が現れるなど、好影響が出ているという。

秋田での普及活動に加え、蔵前に初となるヨガスタジオをオープン!

瀧聖子

蔵前にオープンした「藝 UeL Tokyo 」のスタジオ

しばらく会社員とヨガインストラクターという二足のわらじを履いていた瀧だったが、2017年にヨガインストラクターとして独立。2月には蔵前に初となるヨガスタジオ「藝 UeL Tokyo 」をオープンし、新たなスタートを切った。

「インドの古典ヨガはガンジス川の近くで発展しました。だから川の近くにスタジオをオープンしたくて、隅田川にほど近い蔵前を選びました。私は土地に恩返しをしたいという思いが強いので、蔵前であればモノづくりのクリエイターのために貢献しようと考えました」

彼らの心身を整えることができれば、真に価値のあるものだけが世に生まれ、必要ないものが増えることもなくなるはず。瀧には、そんな考えもあった。実際、レッスンに通っているクリエイターたちからは「集中力が高まった」、「イライラしなくなり人間関係の悩みが解消した」との声が寄せられている。

この蔵前のスタジオでは、7月から新たな社会貢献活動として、若年性乳がんサポートコミュニティ「Pink Ring(ピンクリング)」と共同で、乳がん患者のための無料のヨガレッスンを予定している。

「瀧先生のヨガレッスンが好き。病気と闘っていても、このスタジオに来ると優しい自分になれるんです。他の患者さんにもそれを体感してほしい」

乳がんを患い闘病中の生徒からのそんな願いを受け、「彼女たちの助けになりたい」と瀧は取り組みを決めた。

瀧聖子

そして、故郷・秋田ではヨガイベントの開催とともに、インストラクターの育成も視野に入れている。秋田ではヨガスクールが極端に少なく、十分にレッスンを受けることが難しい。ましてやインストラクターを育成する環境は皆無に等しい。そんな状況だからこそ、瀧に課せられた使命も大きいのだ。

「ライフスタイルにヨガを取り入れると、自分にとって何が必要か、何が必要でないかがわかります。自分にとって価値のあるものしか選ばなくなる。秋田のみなさんにその感覚をつかんでもらえるまで、ヨガを継承し続けます」

まずは故郷の秋田から、その後は宮城などに活動範囲を広げていきたいと瀧は話す。日々、目が回るほどの情報やものに囲まれている私たちは、「真に必要なもの」を選びとるのが難しくなった。

体の健康を取り戻すだけでなく、心の迷いを取り除き、生きるうえでの価値観をクリアにすることこそが、ヨガの本質といえるのだろう。

 

瀧 聖子
藝 UeL Tokyo:https://www.uel.tokyo/

 

(取材・文:小林 香織)

小林 香織

小林 香織 Facebook

2014年デビューのフリーライター。現在、「恋する旅ライターかおり」名義で、恋愛・旅・ライフスタイルジャンルの執筆にも挑戦中。人生の豊かさ、可能性を広げるためのメッセージを発信したいと願っている。自由な人生バンザイ

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