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May 27 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

年齢、国、言葉を超えて「チーム」に ~ワールドマスターズゲームズ2017~

2006年に誕生したソフトボールチーム「チームジャパン」。同年、初めて出場したパンパシフィックマスターズゲームズでは、「45歳以上の部」に出場し、14試合の熱戦の末に金メダルに輝いた。それ以降、数々の大会に出場し、メダルを獲得してきたチームジャパンは今年4月、ニュージーランド・オークランドで行われた「ワールドマスターズゲームズ(WMG)2017」に参加した。集まったのは総勢19人(スコアラー、レフリーを含む)。そこには、年齢、国、言葉を超えて一つになったチームの姿があった。

ワールドマスターズゲームズ2017 ソフトボール

WMG2017に参加した、女子ソフトボールチーム「チームジャパン」

「チームジャパン」が参加した、ソフトボールのピクチャーギャラリーはこちら

「生涯現役」のプレーヤーたち。最高齢は85歳

今大会、指揮を執ったのは小林眞由美(こばやし・まゆみ)監督。ソフトボールの審判グッズを専門に扱う「サミージャパン株式会社」の代表で、チームの「生みの親」だ。

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全国の「ソフトボールプレーヤー」に呼びかけ、チームを結成した小林監督

チームといっても、実はメンバーは固定されていない。海外の大会に参加するごとに、小林監督が全国の「ソフトボール愛好家」に声をかけ、日程や費用を工面することが可能な選手が集まり、チームとなって戦う。そのため選手たちは、空港や現地で初顔合わせになることがほとんどなのだという。それでもグラウンドに立てば、同じソフトボールプレーヤー。試合や共同生活を重ねていくうちに、どんどん絆が深まり、チームになっていく。

今大会で10度目の結成となった「チームジャパン」は、過去最多の19人が集まった。最年長は、85歳の鈴木朝子(すずき・ともこ)。さらに、青柳洋子(あおやぎ・ようこ)、市川美津枝(いちかわ・みつえ)、菅野道子(かんの・みちこ)の「73歳トリオ」が続く。4人全員が、ふだんは神奈川県にあるそれぞれのチームに所属し、ソフトボールを楽しんでいる。

ワールドマスターズゲームズ2017 ソフトボール

左から、青柳、鈴木、監督の小林、菅野、市川

彼女たちは口をそろえて、こう語る。

「日本から、そして世界から、ソフトボールが好きな者同士が集まって試合ができるのは、とても楽しい。また、いろいろな人たちと交流することができるのもマスターズの魅力なんです」

「生涯現役プレーヤー」を謳う彼女たち。その笑顔にこそ、「生涯スポーツの祭典」であるWMGの真の姿が映し出されているように感じられた。

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背番号1番をつけ、堂々のプレーを見せたチーム最年長、85歳の鈴木

エース関根、募らせたマスターズへの思い

一方、今大会はチームジャパンにとって、初めての「挑戦の場」でもあった。今大会は最も若いカテゴリーである「35歳以上の部」にエントリーしたのだ。年齢のカテゴリーが若ければ若いほど、エントリーするチームのレベルは高くなる。プレーヤー17人のうち、60代以上が10人と半数を上回るチームジャパンにとっては厳しい戦いとなることが予想された。それでも今回、小林監督が「35歳以上の部」にエントリーすることを決めたのは、ある一人の選手の存在があった。エースの関根千春(せきね・ちはる)だ。

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チームのエースとして、連日にわたる力投を見せた、関根。

ソフトボールが盛んな群馬県太田市に生まれ育った関根にとって、ソフトボールは子どもの頃から最も身近にあったスポーツだった。自らも小学校の時に始め、中学、高校でもソフトボール部に所属。高校時代にはインターハイにも出場した。高校卒業後、一度は東北の実業団に入ったものの、2年でやめ、故郷へと戻った。その時はソフトボールからは完全に離れるつもりでいた。

しかし、知人から頼まれ、子どもたちに指導していくうちに、関根はソフトボールへの情熱を取り戻し、自らクラブチームを創設した。チームの活動をしていく中で、関根はさらにソフトボールの輪を世界へと広げることができないかと模索していた。そんな時に小林監督と出会い、マスターズゲームズの存在を知ったのだった。

昨年、関根はオーストラリアで2年に一度開催されている「パンパシフィックマスターズゲームズ」に参加を希望したが、当時チームは「45歳以上の部」でエントリーしており、36歳であった関根はプレーヤーとしての出場は叶わなかった。それでも、世界の舞台をこの目で見たいと、スタッフとして帯同した。

「次は自分も参加したい」

自分よりも年上のチームメイトたちがソフトボールへの情熱を燃やし、戦う姿を目の当たりにした関根は、ますますマスターズゲームズへの思いを強くしていった。

そんな関根の思いに応えようと、小林監督は今回のWMG2017に参加するにあたり、厳しい戦いを強いられることを覚悟したうえで、「35歳以上の部」にエントリーしたのだ。

小林監督は言う。

「昨年のパンパシの時に、関根にバッテリーピッチャーをしてもらったんです。その時に、『あぁ、これは十分にWMGで戦えるな』と思いました。正直、彼女一人のために35歳以上の部にエントリーしようかどうかは迷いました。でも、募集をかけていくうちに40代も何人か集まってきたので、『これは関根を柱に、35歳以上の部に出てみよう』と思ったんです」

その決断の裏には、「若い人たちにもマスターズを広げて、日本ソフトボール界を盛り上げていきたい」という小林監督の思いもあったに違いない。

ワールドマスターズゲームズ2017 ソフトボール

難しい決断を迫られた小林監督だったが、日本ソフトボール界の発展を胸に35歳以上の部への参加を決断した。

実際、厳しい戦いが待ち受けていた。チームジャパンがエントリーした「35歳以上・レクリエーションの部」には、世界各国から60チームが集まっていた。

今大会ではまず、1グループ6チームに分けての一次ラウンドが行われ、各上位2チームは「Top20」、各3、4位チームは「Middle20」、各下位2チームは「Bottom20」へと振り分けられた。そこで再びリーグ戦が行われ、上位3チームが各カテゴリーのメダルを獲得することができるという仕組みとなっていた。

一次ラウンド、チームジャパンは3勝1敗1分けとし、グループ2位をキープ。見事に「Top20」へと駒を進めた。だが、最も高レベルのカテゴリーに入ったが故に戦いは厳しく、チームジャパンは二次ラウンドを1勝2敗1分けとし、メダル争いへの戦いに到達することはできなかった。それでも順位決定戦を含む全10試合を戦い抜き、60チーム中9位という結果は、大健闘といえた。

エースを支えた“海外助っ人”

関根は仕事の都合上、一次ラウンドの最初の2試合は欠場したものの、合流した3試合目以降の全8試合に登板。力の限りを尽くしたと言い、戦いを終えた彼女の表情は実に爽やかだった。

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戦いを終えた関根の表情は、晴れやかだった。

関根のピッチングを支えたのは、もちろんチームメイトたちだ。なかでも、ある2人の存在は欠かすことができない。マレーシア人のNor Hajar Abd Hamidと、オーストラリア在住の徳子トビヤス(とくこ・とびやす)だ。

捕手のNor Hajar Abd Hamidは、外野手のLee-Hui Chengと2人、マレーシアから参加していた。きっかけは昨年、マレーシアで開催されたアジアマスターズゲームズ。チームジャパンと対戦し、それがきっかけでWMGの存在を知ったのだ。だが、マレーシア国内ではオークランドに行くメンバーを揃えることができなかった。そこで、チームジャパンに仲間入りをしたのだ。

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マレーシアから参加した、捕手のNor Hajar Abd Hamid(右)と外野手のLee-Hui Cheng

Nor Hajar Abd Hamidは関根のいい女房役となり、威力あるボールを受け続けた。彼女の安定感のある構えと、しっかりとした捕球テクニックに、関根は安心して彼女のミットめがけて投げ続けることができたに違いない。

ワールドマスターズゲームズ2017 ソフトボール

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関根(中央)の力投を支え、励まし続けたNor Hajar Abd Hamid(左)

そして、関根の体を支え続けたのは、徳子トビヤス。独自に編み出した施術方法で、オーストラリアの地元で人気を誇るマッサージ師だ。相手の手の爪部分に、自分の爪をたてるようにしてギュッと押し込むというオリジナルマッサージを、関根は毎日欠かさずやってもらっていたという。

ワールドマスターズゲームズ2017 ソフトボール

徳子トビヤス(左)のオリジナルマッサージは、自身の爪のほか、木製のしゃもじも使う。

「試合後は、もう肩がパンパンに張って、全く上がらない状態でした。ところが、徳子さんにマッサージをやってもらうと、本当に軽くなるんです。まさに『魔法の指』。これがなかったら、絶対にここまで投げることができなかったと思います」

チームメイト同士で支え合いながら、チームジャパンはエース関根を中心に、ダブルヘッダーを含む、9日間で10試合という激戦を駆け抜けた。余韻に浸る間もなく閉会式の翌日には解散し、それぞれの「地元」へ帰って行った彼女らは、それぞれの生活へと戻っていった。しかし、オークランドで苦楽を共にした日々は、彼女らにとって決して色あせることはないはずだ。

きっと各地でWMGの魅力を語り継ぎ、4年後の2021年には、マレーシア、オーストラリア、そして日本国内から、それぞれのチームを牽引して、今度は「対戦相手」として、関西の地に集まるに違いない。彼女らの活躍と、さらなるWMGの輪の広がりに期待したい。

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対戦したオーストラリアチームとの記念撮影。彼女たちの「仲間」の輪は、国内外で広がり続ける――

(文/斎藤寿子、写真/James Yang)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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