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June 03 2017 By 斎藤寿子(さいとう ひさこ)

柱不在だからこそ芽生えた「意識」見えた「成長」 ~車椅子バスケットボール~

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

車椅子バスケットボールのジュニア世代が「4年に一度の戦い」に挑もうとしている。6月8日に開幕する「2017IWBF男子U23世界車椅子バスケットボール選手権大会」(カナダ・トロント)だ。各大陸予選を勝ち抜いた11カ国と、ホスト国のカナダを加えた12チームが一堂に会し、世界チャンピオンの座を争う。この世界選手権に向けて、U23日本代表がさらなるレベルアップを図るために臨んだのが、5月14~18日の5日間にわたって行われた「第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント」(UAE・ドバイ)だ。同大会で見えたのは、確かな「成長」と、世界選手権での「期待」だ。

 「自分の武器とは?」自問自答の末のカットイン

今大会は、日本チームにとって厳しい戦いとなることが予測されていた。同時期に国内で行われていた日本トップの強化指定選手の強化合宿に参加するため、U23世界選手権の代表メンバーに選出された12人のうち4人が不在という事情を抱えていたのだ。特に、司令塔でスリーポインターのキャプテン古澤拓也(ふるさわ・たくや)と、10代でただ一人リオデジャネイロパラリンピックに出場した鳥海連志(ちょうかい・れんし)という2人の柱が抜けたチームが、どのような戦いをするのかは未知数の部分が大きかった。

しかし、だからこその価値があった。古澤、鳥海以外の選手たちが、どれだけスキルアップするかが、世界選手権を戦ううえで重要なカギを握っていると感じていたからだ。頼れる2人がいない中だからこそ、見えてくるもの、得られるものがある――。

それは、こんな言葉からも感じられた。

「自分たちがやらなければいけないと思っています」

ともに20歳の熊谷悟(くまがい・さとる)と丸山弘毅(まるやま・こうき)だ。今年1月、世界選手権の切符を獲得したアジア・オセアニア予選(AOZ)でも主力として活躍。古澤、鳥海不在のチームにおいて、彼ら2人が担う役割は重要だと考えられた。

「スピードには自信があるし、誰にも負けるつもりはない」と語る丸山は、そのスピードを生かしたカットインプレーを得意としている。ディフェンスの隙間をついて、インサイドに入り、レイアップシュートで得点を奪う。高さで勝負することが難しい日本にとって、この丸山のプレーは非常に重要だ。丸山がカットインすることによって、ディフェンスがインサイドを警戒すれば、アウトサイドからのシュートが狙いやすくなるからだ。

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

カットインプレーを得意とする、丸山弘毅

しかし、予選リーグ第1戦、丸山にその攻めの姿勢は、あまり見られなかった。その試合、チーム一の得点を挙げてはいたものの、本来の力を発揮したとは言えない印象があった。するとその翌日の第2戦、最初の得点は丸山がカットインしたことによって相手からファウルを受けて得られたフリースローから生まれたものだった。丸山は、前日の反省から、このカットインを狙っていたのだという。

「拓と連志がいない中、初戦は『自分がやらなくては』という気持ちが強すぎて、ボールを持ちすぎていたり、シュートのタイミングが早かったりしてしまって、カットインではなくミドルシュートが多くなってしまいました。でも、自分の武器って何だろうと考えた時に、やっぱりカットインだよなと思ったんです。だから、今日の試合(第2戦)は最初からいこうと思っていました」

第2戦の相手、サウジアラビアには、「ビッグマン」と言えるプレーヤーが12人中5人もいた。そのため、コート内では常に3枚もの高い壁が立ちはだかるような状態にあった。そのサウジアラビアに対して、一発目にインサイドを突いた丸山のプレーは、確かな効果を生んだに違いなかった。

阿吽の呼吸で見せたコンビプレー

その丸山と、いい連携を見せたのが、今大会キャプテンを務めた熊谷だ。同じ長野WBCに所属し、ふだんからチームメイトとして一緒にプレーしている2人は、息の合ったコンビプレーを随所に見せていた。

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

丸山とぴったり息の合ったプレーを見せた、熊谷悟

印象的だったのは、第2戦。熊谷がインサイドに切り込み、ディフェンスを引きつけるや否や、アウトサイドで待ち構えていた丸山にノールックパスでボールを出すと、丸山は見事にミドルシュートを決めてみせた。その連携は、まさに「美技」と言えるものだった。

熊谷は言う。

「そういうコンビプレーは、僕らにはしみついているんです。だから、僕がインサイドに入った時に、何をやろうとしているかは丸山もわかっていて、外で待っていてくれたので、うまくいきました」

また、こんなプレーもあった。予選リーグ第3戦の1Q、残り1秒で、日本ボールからリスタートした時のことだ。サイドラインに立った熊谷は丸山に手で指示を出し、コート内の丸山はそれを受けて動いていた。そして丸山がディフェンスを振り切ったところで熊谷は即座にパスを出した。それは丸山が瞬時にシュートを打つ体勢に入れるように、速さ、角度、高さのすべてが完璧に計算されつくした見事なパスだった。その結果、丸山は見事にスリーポイントを決めてみせた。

世界選手権では、おそらく古澤と鳥海へのマークは厳しくなり、彼らは容易に動いたり、シュートすることができない可能性は十分に考えられる。その時、「熊谷-丸山」というラインが、日本の勝機を見いだすひとつの「引き出し」となるのではないか。そんな気さえするほど、彼らのコンビプレーは完成度が高いように感じられた。同世代における「世界トップの戦い」で、どれだけ通用するのか、ぜひ見てみたい。

残念だったのは、熊谷が最もこだわりを持っているミドルシュートでの得点が少なかったことだ。とはいえ、これは致し方ないことでもあった。本来なら司令塔役を担う古澤が不在だったため、熊谷がトップに入り、ゲームコントロールする場面が多かったこと。もうひとつは、古澤、鳥海不在のチームにおいて、熊谷へのマークが一段と厳しくなったことが挙げられる。

熊谷は言う。

「僕がボールを持つと、相手は必ずジャンプアップしてきました。その状況で無理やりにシュートを打つのは、僕は違うと思っているので、そういう時はパスアウトするんです。でも、そうすると、そこから僕にボールが回ってくることはあまりなくて、シュートを打つことが少なかった。やはりシューターとしては物足りなさを感じていました」

しかし、世界選手権に向けて不安はないという。それは、古澤がいるからだ。

「古澤がいると、相手は彼を警戒してジャンプアップしてくるんです。そうすると、今度は自分が空く。そういう状況では、必ず古澤がパスを出してくれます。古澤が戻ってくれば、そのラインが使える。彼とはその部分での連携がしっかりととれているので、世界選手権では不安はありません」

だからこそ、あとはどれだけ熊谷自身が確率よくシュートを決めることができるかだ。世界選手権までに、その準備はしっかりとするつもりだ。

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

チームとしての結束力も高まりつつあるU23世代

フリースローに見えた「努力の跡」

今大会、最も成長した姿を見せたのは、寺内一真(てらうち・かずま)だ。チーム一の高さを誇る寺内は、センタープレーヤーとしてゴール下での強さが求められている。だが、昨年11月の北九州チャンピオンズカップ、今年1月のAOZでは、いずれもゴール下に強いという印象はなかった。

しかし、今大会ではポイントゲッターである古澤と鳥海が不在の分、全員で得点を挙げていかなければいけないという状況の中、寺内は自分のゴール下でのシュートがより重要になると考えていた。そのため、これまでよりもインサイドへの意識が強かったという。

「ゴール下に入った時には必ずボールを要求し、シュートを決めるということをテーマに掲げていました」

その結果、寺内へのマークは厳しくなり、ファウルを受けて、フリースローを得る場面が少なくなかった。予選リーグ第2戦では、5本のフリースローを得て、3本を決めている。

最も印象的だったのは、フリースローに彼が努力してきたことの「跡」がしっかりと見えたことだ。正直、これまでは本人の不安が見ている側にも伝わってしまう感じがあった。しかし、今大会ではボールを持ってから放つまでの一連の動作や姿勢、そして放たれたボールの軌道に安定感が見てとれた。シュートフォームが、寺内の体に染みこみ始めているに違いない。

「昨年11月の北九州の時からずっと、ゴール下でファウルを受けた時のフリースローを課題にしていて、ふだんの練習でも必ず取り入れるようにしてきました。そのおかげで、だんだんとボールへの力の伝え方も覚えてきて、体のどこに力を入れればいいのかということが自然とできるようになってきたなという感触があります」

大会全体を通しては、9本中4本と、決して満足のいく確率ではない。それでも、シュートフォームが安定してきたことで、確率は伸びてくるに違いない。寺内には、次のステージに進むための大きな一歩となっているはずだ。

ドバイで見せた「証明」を手に世界選手権へ

その他の選手も確実に成長している。例えば、赤石竜我(あかいし・りゅうが)。彼は今年1月のAOZで初めて日本代表に選出され、はじめはベンチを温めていることがほとんどだった。しかし、ディフェンス力を買われて、AOZの途中から出場機会が増えていった選手だ。その彼が、今大会では全試合にスタメン起用され、主力メンバーの一人としてプレーした。その経験は、必ず世界選手権で生きてくる。

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

ドバイでは全試合にスタメン出場し、主力として戦った赤石竜我

また、今大会が初の国際大会となった高松義伸(たかまつ・よしのぶ)も、毎試合出場機会に恵まれ、必死で食らいついていく姿があった。体勢を崩しながら、あるいは3人に囲まれる中でのタフショットを決めるシーンでは、負けん気の強さとハイポインターとしての素質の高さが垣間見られた。

第9回ファザ国際車椅子バスケットボールトーナメント

ハイポインターとして頭角を現しはじめた、高松義伸

もちろん、チームや個々の課題は少なくない。しかし、古澤、鳥海といった柱が不在だったことで、それぞれが自分の役割を考え、どうすればチームが勝つことができるのか、そのことを必死で模索した5日間だったのではないだろうか。

寺内は、大会を通しての手応えについてこう語っている。

「世界選手権で『強化指定の4人に頼らなくちゃいけない』とならないように、この大会では『自分たちもできるんだ』というところを証明しなければいけないと思っていました。そういう思いがあったからこそ、みんなの動きもどんどん良くなっていって、みんなで得点を挙げることができた。この思いを世界選手権まで持ち続けていけば、きっと結果は出ると思います」

1日からは、世界選手権に向けた最後の調整として、国内で事前合宿が行われている。ドバイで大きく成長した8人に、A代表候補の4人が合流し、果たしてどんな化学反応が起きているのか。8日の開幕が待ち遠しい。

(文・写真/斎藤寿子)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

斎藤寿子(さいとう ひさこ)

新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年からスポーツ専門Webサイトで記事を執筆。主に野球、バレーボール、テニスを担当。2011年から取材を始めた障がい者スポーツでは、パラ競技を中心に、国内大会をはじめ、2012年ロンドンパラリンピック、2014年仁川アジアパラ競技大会、2016年リオデジャネイロパラリンピックなどを取材。2015年からフリーライターとして活動している。

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